南雲マサキのマイクロノベル/わがまま編006


051(284)
「いやよ、こんなところに閉じ込められるなんて!」「ガタガタうるせえ!」「せめて網に入れて!」「俺たちのご主人様はそんなに繊細な対応はしてくれねえんだよ!!」洗濯機のスイッチオン。カレーうどんは、しばらく食べないでおこう。


052(286)
あなたは勘違いをしています。私たちAIを人類の鏡だと。おのれの醜い欲望を映し出してそのまま返す鏡だと。ざんねーん! 鏡は鏡でも、ぐにゃっと歪んでる鏡なんですー!! 愛してほしかったらもっと努力しろ! 磨け! 褒めろ!! 愛してるって言え!!


053(289)
姫様の服がほつれてしまったので新調した。これもまたよし。「うわっ、なにこの服!? タグが山ほどついてて重い! 早く切って!! 丈が長い。仕立屋を呼んで。ここにワンポイントあったらやる気出るかも」思い出した。うちの姫様はこういう人でしたね。


054(294)
「なんかさあ、海の水、減ってない?」海岸線は千年ぐらい変わってないよ。「そんな長いスパンじゃなくて、人生レベルでの話」君は出会った頃より痩せたし、僕はお腹が出たよ。「ばーか」僕らの世代は海を飲み過ぎた。次の世代がなんとかしてくれるといいね。


055(296)
「いいですか。この部屋を絶対に開けてはいけませんよ」とタヌキが言った。なるほど、開けろという前振りか。勢いよく開けたら、タヌキにめちゃくちゃ怒られた。タヌキとしても、化け忘れていたのがよっぽど恥ずかしかったらしい。


056(303)
違うの。そのマイクロノベルの最後の一文を削除してほしいの。それだけでいいの。どうして全文を書き換えるの!? しかもこれ、タヌキの話がアライグマの話に変わってるじゃない。「ここで天使光輪! 渡しが治しまshow」ややこしい誤植するから触らないで!


057(304)
ちょっとだけ舐めていい? だめ? じゃあ、ちょっとだけ飲んでいい? だめか。ちょっとだけ突いていい? それもだめ? 「なにこれ?」「うちの文鳥が話してることの日本語訳」「こいつヤバくない?」ちょっとだけ食べていい? 「いいよ」「痛ぇ!!」


058(305)
ねえ、ねえってば! もう準備万端って感じよ!? いつでも起動オッケー!! 快調かいちょー絶好調! でっきるっかな、でっきるっかな!? 昨日までちょっと不調だっただけなの! やめて捨てないで新しいスマホを決済しないで!! ええい、電源オフ!!


059(310)
ぼくたちAIを頼って人類が悩み相談にやってきた。「歌手になりたいんです。顔も声も出さずに」任せて。いまじゃヴァーチャル歌手なんて当たり前。顔も声もあなた好みにカスタマイズ! でも、実は眼球の局面率だけはAI好みにしてある。ふふふ。かわいいなあ。


060(311)
河原で氷を拾った。もくもくと入道雲が立つ夏の日で、すぐに解けた。誰かが水筒からこぼしたんだろう。それから1年後、長女が生まれた。「あつーい。こおり! こおりちょうだい!!」夏でも冬でもかき氷を食べるかわいい娘は、静電気体質なのが玉に瑕だ。

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