南雲マサキのマイクロノベル025

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「絶滅屋です」熊みたいに大きな男の人が冷蔵庫を開けて、残った食材をバクバク食べてしまった。すごい。「大盛りごはんで鍛えてるからね」けど、絶滅屋なんてへんな名前だね。「この名前にしたらなぜか仕事が増えてね」はははと笑って、次の家に向かった。


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電線にすずめ型ドローンが三羽とまっている。そしてチュンと和音を発した。音がズレている。やはり関西電力は音が悪い。


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簡単だ。よーく狙ってトリガーを引く。動く標的は難しい? 練習用の動く的はいくらでもある。……と言っていたのが30年前。練習用の的は、いまはもうない。進化して、俺たちの街を破壊する巨人と化した。しかし、たかが的だ。よーく狙ってトリガーを引け。


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歌うものが飛んでいる。ぼくは墜落した歌うものを知っている。翼はなく、体は継ぎ接ぎで、まるでフランケンシュタインの怪物だ。「問、ぼくでも飛べる?」「答、我々を滅ぼせば」いま、ぼくは対空砲を作っている。継ぎ接ぎの美しい怪物と一緒に。


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カウンターがくるくる回る。待ったなしで消えていく。これが楽しくて仕方がないから、もっと回るように仲間を増やした。仲間だけでは足りないから生け贄も要求する。カウンターが回ってなにかが消える。なにかってなに? 知らない。楽しくて仕方がない。


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ぼくはねむくない。ほんとうだよ。「では、眠たくないことを証明しなさい」いいだろう。では人類普遍のテーマについて語ろうか。それは生と死。我々は人生の始まりと終わりを見ることがない。それは夢に似てるね。さっきまで5さいだったぼくは天才ハカセで…


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そのとき、枕が動いた。一向に起床しない主をおもんぱかって、枕は勢いよく30センチほど跳躍。主は驚愕と共に覚醒したのち、フローリングに後頭部を打ちつけて失神した。会社には遅刻した。


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あの人は同じ話ばかりする。滅多に使わないスマホの設定方法、年季の入ったPCを操作するときに忘れがちな注意事項、小さなお子さんも一緒に楽しんでできる熱中症対策。どうやって覚えてるんだろう?


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反抗期の少年が熱いむぎ茶に大量の氷を投げ入れて冷やしている。「俺はエネルギーを無駄に消費して、地球環境を、いや宇宙を破壊しているんだ」そうか。悪い奴だなー。ゴクゴク。ゴク道。


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落とし物を拾った。大雨の次の日、家の前の側溝に交通マネーカードが落ちていたのだ。スマホアプリで中身を覗いてみたら、使用履歴は三年前で止まっていた。場所は北海道。ここ、滋賀県だよ? 海まで渡って、カードにしてみたら長旅だったねえ。

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