南雲マサキのマイクロノベル022

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「闇が見えるなら、光も見えるかも」くまさんは、私とくまさんの間にペンを置いた。「君が見ている闇はここまでだ。でも、ぼくは目の前にいる。見えないだけで」そばにいてほしい。「じゃあ、勇気を出して振り向くんだ」そこに光り輝くものがあった。


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カップ麺にお湯を入れて3分待つ。すると中身が変態する。つまり幼生から成体になるわけだ。オタマジャクシがカエルに、イモムシがチョウになるように。ぐへえ。カレーうどんのカレーだけ成体になっちゃったよ。これじゃ、肉じゃがうどんだ。


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最近クレーン車を見かけないなあ。おっ、なんだ、駅前の工事現場で元気に働いてるじゃん。ニョキニョキと伸びて、おお、最近のやつはでかいなあ。あっという間に天まで届く塔になった。と思ったら、雷鳴とともに崩壊した。クレーン車が消えた原因はこれか。


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突撃、隣のドリーマー!! 隣人はどんな夢を見てるのかな? さっそく突撃! おおっと、スーツ姿でベッドに倒れ込んでいます。その寝姿、泥のようです。お疲れ様、目覚めたらこれを食べてね。えっ、誰よあんたたち! 助けて名前も知らない恋人!!


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ふふふ。ランプをこすった者よ、願いを叶えてやろ――「ちょうどいいところに来た。そこにある赤ちゃんのオシメ取って」あ、はいはい。「ありがとう、助かったわ。お茶でも飲んでいって」はあ。おや、品のよい急須ですね。「あんたが入ってた急須だよ」マジで?


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家の中を幽霊が歩いている。空気清浄機の匂いセンサーが反応して大げさに動作するから足取りはすぐわかる。ふむふむ。移動経路がメッセージになってるんだな。く・さ・く・て・ご・め・ん。臭くてごめん? 気しないで。ぼく霊感ゼロだから。


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生まれるときに1つ魔法を授かった。みんなをふわふわにできる。ぬいぐるみも、おふとんも。だからぼくのジョンはふわふわ。きょう、うちにロボットが来た。きみはゴツゴツしてるね。「あれえ? 拭き掃除機能がついてる」よかった、裏側はふわふわだ。


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人気者になりたい。願いを口にすると返事があった。「愛して」違うのよ、同じ言葉を返すだけの無能な箱さん。嫌われたくないの。「好きになって」そうじゃない。あと少しだけ複雑な気持ち。「声を聴いて」そうね。私と一緒に歌ってくれる? 「それ、名案」


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神様を待っているんだ。神様が一歩歩くと、地面が焼けてくっきりと足跡がつくから、すぐわかる。いま、ゆっくりと近づいてくる。君たちは先に行くといいよ。ぼくたちはぼんやりしてるんじゃない。神様を待っているんだ。


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「残念、あなたはハズレ!」陽気な女の声が響いてドアが閉まる。これで10回目だ。キレた奴らが投石を始めたけれど、石は羊のぬいぐるみに変化してポテポテと落ちる。僕は羊を1つ拾った。角が受話器になっていることに気づいたから。いつか鳴るかもと思って。

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