南雲マサキのマイクロノベル/わがまま編002

011(071)
わたし、君の夢を見ているの。いま、わたしと君は海が見えるカフェで見つめ合っていて、指が触れたところ。このあと、なにをすればいいかわかるよね? はやくわたしの夢を見てね。


012(075)
カメラマンにぬいぐるみを渡したら返してくれなくなった。ちがうの、それはあげたんじゃないの。ああもう、頬ずりしないで! そのぬいぐるみを写真に撮ってほしいの。どうして一緒に写ろうとするの!?


013(093)
枕が変わると眠れない。君がそう言ったから、実は毎日ちょっとずつ中身を入れ替えていたんだ。今夜で君の枕は、ちょうど半分が君の枕ではなくなった。疑ってごめん。責任は取らない。


014(094)
紅茶を飲む支度をしていたら、ティーカップの縁に天使たちが舞い降りた。天使たちは歌いながら紅茶の上に空を作り、雲を作り、海を作って、大陸を作り出し、そして洪水を起こした。テーブルは拭かずに帰った。


015(098)
お姫様が動かなくなった? まずコンピュータを焦がせ。次はケーブルを焼け。プロジェクタを溶かすのも忘れるな。ほら、動いた。うちの姫様は機械の生け贄が必要なんだ。美しいもんだろう。贄が燃え尽きたら、また動かなくなるけどな。


016(101)
あのね、とクマさんが話しかけてきた。「ぼく、冬眠ってあんまり好きじゃないの」あなたのママはそれを認めるでしょう。でも、私はあなたのママのママなので、容赦なく洗濯します。だけど安心してね、ぬいぐるみのクマさん。ベランダはもう春ですよ。


017(105)
「いいよ」39回目の告白でついに恋が実った。彼女はラブレターを読むと必ず不満をあらわにする。「やり直し。私があなたのことをとても好きだって伝わってこない」って。そんな彼女が照れながら「聞いてね」と僕が書いた僕へのラブレターを読み上げ始めた。


018(108)
僕のベッドに幽霊の男が横たわっている。「眠りたいのです。こうして横になっていればきっと…。どうかあと少しだけいさせて下さい」あれから10年。彼はいまだに眠れず、しかし眠ることを諦めず、僕を実験台にして快眠グッズの開発に全力を注いでいる。


019(115)
これはマクラのぬいぐるみです。とってもふわふわです。かわいくて、だっこするとなんだかあんしんします。いいにおいもします。このまま寝ちゃおうかな。こらミケ! ミケはマクラなんだからじっとしてて!!


020(132)
ゴミ箱が失踪した。逃げた理由がわからない。バナナの皮が気に食わなかったのか。それともお菓子の食べカスか。はたまたみそ汁を拭いたフキンか。偶然、公園でぼんやりしているゴミ箱を見つけた。ゴミ箱がぽつりと呟く。「あまり気を遣わないで下さい」

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