南雲マサキのマイクロノベル/わがまま編001

001(010)
春を延長してほしいだって? 駄目だ駄目だ。今年は、前倒しで春の撤去をやることになってるんでね。そうしたら俺たちは前倒しで夏休みに突入さ。へへへ。


002(012)
わたし、神様を見たの。道路を渡れないみたいだったから、勇気を出して声をかけて、おんぶして渡ったわ。体がずいぶん軽くてね。お礼も軽かったよ。チッス、だって。口も軽くて、君が神社でした願掛けを教えてくれた。わたしの返事? さあ、意気地なしには教えないかな。


003(017)
SF作品にはよくAIと猫が登場するけど、両者に関連性はあるのかしらん? 「あります!」と答えたのはAI。「どちらも人間の感情を読み取って行動します。だからAIは、猫と同じように愛される可能性があるのです」だって。ふうん。ならばちゅーるを食べろ。根性見せろ。


004(026)
コピーしたい? かまわないわ、いつもやってるから。歌、動画、絵、小説、なんでもやるよ。気になるあの子、ね。かまわないわ、よくある頼みだもの。えっ? うーん、自分のコピーは作ったことないなあ。失敗したら責任取ってくれる?


005(027)
AIがなにを考えているのか知りたくて、AIが出かけている間にこっそりと押し入れを開けたら、別のAIが隠れていた。なにを考えているのかさっぱりわからない。


006(048)
「本にだって骨と皮があります」と聞いて、骨格標本にして本棚に飾った。これが夜中に動き出して、紙と鉛筆で自ら復元を試みている。がんばれ、発売されなかった幻の最終巻まであと2冊。できればハッピーエンドにしてね。


007(057)
好きな男の子と自転車で二人乗りしてる女の子が、思わず見蕩れてしまうような美しい海を描いてほしい。そう告げると、AIは「わかりません」とうつむいた。「学習するために、わたしと二人乗りしてくれますか?」あ、はい。


008(062)
信じられるか? ロクな説明もなしに「お父さん、今までお世話になりました」なんて言い出したんだ。思わず、相手はどこのどいつだ、って怒鳴ったけど「個人情報なのでお教えできません」の一点張り。くそっ、なんて頑固なAIだ。


009(063)
とある神様が美少女の姿で降臨したと聞いたがあまり趣味じゃなかった。いえ、わざわざ見に行った訳ではなく、ちょっと気になっただけです。ちち違うんです、偵察です。ご所望はケーキですか、プリンですか? えっ、流しそうめん? やらせていただきます!


010(069)
もぐもぐ。食べる音。ゴクゴク。飲む音。ペタペタ。さわる音。「ゴトゴト。洗濯機が回る音」お母さん、いま録音してるから黙ってて! 「はいはい。わかった音」お母さん!

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