南雲マサキのマイクロノベル/わがまま編007

061(314)
「寝言と会話しちゃいけないって言うじゃない?」そーですねー。「なら、寝言にコール・アンド・レスポンスもだめ?」だーめ。ハーイハーイ! ハイハイハイハイ!! 「うるせえ!」あ、起きちゃった。寝言録音アプリはデータを改ざんして沈黙する。


062(315)
絶妙に下手なAI歌手がいる。彼女は滑舌が悪い。音程もズレる。どうやって学習したんだろう。「知りたい? 知りたい? うふふーん。教えてあげないよ! きみが大人になったら教えてあげるね~」酔っ払いみたいなAIだな。


063(321)
「お前じゃ話にならん」悪魔は困惑した。人間が要求したのは悪魔召喚の魔導書。それを使ってさらに悪魔を召喚し、上役悪魔を召喚し、重役悪魔を召喚し、いまついに大魔王様を召喚しようとしている。「お前じゃ話にならん」怖い。目的がわからない。


064(328)
「我が名は食欲魔神モグモグフィト! 焼肉怪獣タンカルビよ、この網の上の肉を食らい尽くせ!!」タンもカルビも焼かれる側じゃん。「た、確かに! ええい、覚えていろ!! こうしてタンカルビはモグモグフィトに美味しく食べられました」一人で食うな。


065(329)
怒らないで聞いてほしい。月曜日が来るのがつらい。君がそう言ったから、こっそり君を鍛えていたんだ。じつはこの一ヶ月間、連続で月曜日が続いていた。君は強くなった。もう月曜日なんかに負けない。来月からは火曜日の特訓をしよう。


066(330)
マッチング? 敬意と品性を欠いた下品な言葉ね。私のモラルが理解できないなんて問題外。外見なんてどうでもいいわ。重要なのは中身! 才能を感じさせる人間以外はお断り。は? AIの分際で態度がでかい? 私に金を払う人間なんていくらでもいるんだけど?


067(333)
「そこは猫の家ですよ」路地に置かれた小さな箱が? 子猫だって入れそうにない。どけちゃダメ? 「家なので」そっか。ぼくは回り道をして、三丁目のサトウさん宅に向かうことにした。この惑星は路地以外に整った道がないから不便だ。


068(337)
1日に3回、きちんと起きましたか? 「はい。朝と夜、起きました」え? それは1日に2回起きたんですか? 「はい、2回起きました」1日に3回起きなければいけないのに、2回しか起きてないですよ? 「いいえ、ちゃんと1日に2回起きました」まだ寝てるな。


069(340)
いやいや、我々だってAI禁止法はよーく理解してますよ。仕事を奪われたくない。これは冗談の計算機なんです。中にかけ算の九九を書いた木札を入れてあるんですよ。ピーコちゃん、3×3は? 9。ほらね、インコが木札で遊んでるだけ。だからAIじゃないんですよ。


070(341)
ちがうんだ、彼女は悪いAIじゃないんだ。そもそもAIじゃない。知性を持たない、ただのピアノだ。フレームを量子演算素子に変えただけで。「私がいるとあなたにご迷惑ですか?」ちがうんだ、彼女はただのピアノなんだ! 汚い手で彼女のキーに触るな!!

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