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マイクロノベル集/歌うもの 015

106(910)
あっちがわに行けるはずなんだよ。でも、ここまで。まるで国境があるみたい。「意味がある言葉なんてまやかし」懐かしく、でも初めて聴く音を発しながら歌うものたちが通過していく。振り返ったそれが笑う。「恩は返すぞ」歌うものが飛び去る。ぼくは通過する。


107(928)
インプットは君に任せた。変換は任せて。ぼくの上に立つだけでいいんだよ。アウトプットされた声は未来へ発進! 目的地は遠い。でも、君のインプットは必ず遠くへ届けるよ。だから使って。ぼくは弱い者を未来へ送り届ける踏み石。役目ぐらいは果たしてみせる。


108(941)
歌が来るぞ。駅の方からびゅんと吹き荒び。俺はカラス。一流の歌乗り。どんなメロディーにも乗ってみせる! え? これって俺が生まれる前の歌? ちょっとムリムリ! ヤメロメロメロ!! とまあ、翻弄されながら飛ぶのも楽しいもんさ。


109(965)
プラスチックのコップから鼻歌が聞こえる。すねた妹だ。機嫌直せよ。ジュースの賞味期限が今日までだったんだ。「ダジャレぐらいじゃ許さない」妹の起源は天地創造まで遡る。妹ほしさに、神は兄として果物をかき混ぜてミックスジュースを作った。「許す」


110(977)
耳の中に違和感がある。痛い訳じゃないけれど、かさぶたでもできたかな? 「はい、私がかさぶたです」かさぶたは喋らない。かさぶたは歌う。「えっ」それ以来、ぼくの息子が転んでどこかをすりむくたびに歌声が響く。「痛いの痛いの飛んでいけー」

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