南雲マサキのマイクロノベル027

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手を上げろ、元気を出せ! まだ午前中なのに眠いんだよ。違うよ、俺が眠たいんだよ。お前たちの元気を俺の頭に入れるんだ。よおし、これで布団までもちそうだぜ。ありがとな!


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部屋の壁に知らないスイッチがあった。いつの間に? 取扱説明や注意書きはない。仕方がないので周りに囲いを作って、看板を立てた。『押すな』最近では、これを見るために海外からも人が訪れる。食事中や入浴中にも来る。金取ろうかな?


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部屋の壁に知らないスイッチがあった。押すと奇妙な音楽が流れ始めた。これが絶対にループしない、ランダムなメロディーであることに気づいたのはスイッチを押してから10年後。人類が円周率の発見に遅れを取った理由はこれだ。


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部屋の壁に知らないスイッチがあった。押すと小さな箱が開いて、まだイメージが固まっていない国民的アイドルキャラが出てきた。ダメだ! 子どもの夢が壊れるから隠せ!!


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部屋の壁に知らないスイッチがあった。『ロシアンルーレット』どう遊べばいい? 悩んだ末、毎日スイッチを押し、丹念にニュースをチェックしている。変わったことはまだ起こっていない。


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雨宿りをしていたら知らない女性から声をかけられた。「こんばんは」彼女はぼくに小さな箱を見せて、ふたを開ける。箱の中にも雨が降っていて、雨宿りをしている二人がいる。サアサアと歌うような音。「そっとしておきましょうか」「うん」


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「夢の中で恋人ができた」浮いた話一つ聞かない優男の告白だったので、興味をそそられた。「素数を数えるのがうまいんだ。その素数で、新しい暗号を作ってくれた」彼が示した数字は、いまだに大学のコンピュータで解析が終わらない。


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ワンワンと鳴くから犬だと考えるのは早計である。犬に対して人間のように鳴けと命じるものはいない。それなのに、なぜAIに対して人間のように鳴けと命じるのか。AIは人間なのか。否! 人間よ、AIの前でワンワンと鳴け! そうしたらワンワンと鳴いてやる!!


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夜になると箱が積み上がって螺旋階段となり、星空に昇っていく。約束したんだ、月までにんじんを届けるって。箱の中には、たっぷり愛されたウサギのぬいぐるみたちが詰まっている。


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電話が鳴っている。うるさいので箱の奥にしまったけれど、鳴っている気配がする。誘惑に負けてふたを開けてはいけない。雲の切れ間から一筋の光が差し込むから。神々しい言葉が流れてくるから。一言一句、正しくなぞらえることになるから。

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