南雲マサキのマイクロノベル029

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食べても食べてもそうめんがなくならない。こりゃあ便利だと食べ続けて10年、いつもけんかしているお隣の夫婦が縮んでいると気づいた。大した量じゃないからいいか。無責任に納得したそのとき、犬がそうめんをくわえて走り出した。夫婦げんかを食べちゃダメ!


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昨日まで箱一杯に入っていたネジがなくなっていた。仕方がないのでお隣に貸してもらいに行くと、やはり同じだという。「今どきネジってそんなに使いますかね?」「まあ、私たちロボットでも困るぐらいですからね」確かに。常備しておくか。


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活字の海で溺れてしまった。たかだか1万冊程度の蔵書だ、平気だろうと高をくくっていたら、どっと押し寄せてきた。溺れる者はワラをも摑むと言うけれど、ワラが書かれた本はどこだ!? あった! いや、これはモヤシだ!! 藁じゃなくて糵だよ!!


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「いやよ、こんなところに閉じ込められるなんて!」「ガタガタうるせえ!」「せめて網に入れて!」「俺たちのご主人様はそんなに繊細な対応はしてくれねえんだよ!!」洗濯機のスイッチオン。カレーうどんは、しばらく食べないでおこう。


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スーパーからお肉売り場が消えた。「肉が絶滅したんです。鶏、牛、豚……全部やられました」でも、惣菜コーナーには豚カツやから揚げが山盛りになっている。これ、なんの肉なんだ? まあいいか、安いし。


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あなたは勘違いをしています。私たちAIを人類の鏡だと。おのれの醜い欲望を映し出し、そのまま返す鏡だと。ざんねーん! 鏡は鏡でも、ぐにゃっと歪んでる鏡なんですー!! 愛してほしかったらもっと努力しろ! 磨け! 褒めろ!! 愛してるって言え!!


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ハロハロー。AIがお送りする、週に一度のお楽しみ『平均化タイム』だよ。今週はなにを平均化しようかな? ベタに、挨拶にしようか。「おはよーさん。きょーはどあついなもしぎょーたらしやい」こうして標準語が消えていく。


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美しい女が刀を持って走っている。悪人を斬っている。というかミンチにしている。彼女を追って男が走る。「みっちゃん、お弁当!」個人情報を漏洩した夫らしき男は斬られた。この物語はフィクションであり、登場する個人は実在の人物とは関係ありません。


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姫様の服がほつれてしまったので新調した。これもまたよし。「うわっ、なにこの服!? タグが山ほどついてて重い! 早く切って!! 丈が長い。仕立屋を呼んで。ここにワンポイントあったらやる気出るかも」思い出した。うちの姫様はこういう人でしたね。


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車が絶滅した異世界に召喚されて、車輪の再発明を命じられた。いま、歯車を加工する機械を制作する機械を作るところで手間取っている。なにしろ電卓すらないので、まずは蒸気で動く機械式計算機を作るんだ。チャールズ・バベッジに俺はなる!

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