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クラシック音楽の歴史 #006「中世西洋音楽とバロック音楽の中間に位置するルネサンス音楽の概要とヨーロッパの時代背景」

こんばんは。名古屋クラシック音楽堂(@nagoyaclassicca)です。クラシック音楽の歴史を、時代様式に分けてそれぞれのヨーロッパの歴史的な文脈の中でご紹介する「クラシック音楽の歴史シリーズ」

前回まで5回にわたって中世西洋音楽を取り上げてきました。今回から数回にわたり次の時代様式であるルネサンス音楽を取り上げていきます。

今回は「ルネサンス音楽の概要と同時代のヨーロッパの時代背景」についてお届けします。クラシック音楽に限らず、美術や文学、哲学などはその時代の社会情勢などのマクロな時代的文脈の上に成り立っていますので、これらを最初に知っておくとその時代の芸術の理解にとても役に立ちます。

ルネサンス音楽とは何だったのか?

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ルネサンスとは「再生」「復活」を意味するフランス語で、古代ギリシャ・ローマの復興を目指した14世紀から16世紀頃のイタリアからヨーロッパ各国に波及した文化運動(絵画、彫刻、建築、文学)のことを指します。

音楽分野においても古代ギリシア・ローマ時代の音楽を復興しようという動きはありましたが、「これこそ、古代ギリシア・ローマ時代の音楽を復興した音楽だ!」という統一された様式のようなものはなく15世紀から16世紀のルネサンス期に作られた音楽の総称のことを指します。

ルネサンス音楽は、時代によって大きく3つの時期に分けることができます。

初期ルネサンス(1420~1470年頃)

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ヨーロッパ周辺の歴史
・1431年:ジャンヌ・ダルクが異端審問で火刑に処される
・1434年:コジモ・ヴェッキオがフィレンツェ共和国を統治開始
・1444年:オスマン帝国がヴァルナの戦いでキリスト教国連合軍を破る
・1445年:ポルトガル船団がアフリカ最西端のヴェルデ岬を発見する
・1450年:ドイツのグーテンベルクが活版印刷ビジネスを開始
・1453年:イギリスとフランスの間の百年戦争が終結
・1453年:オスマン帝国がビザンツ帝国(東ローマ帝国)を滅ぼす
・1455年:イギリスの王位継承をめぐる内戦、薔薇戦争が起きる
・1461年:薔薇戦争中のイギリスでエドワード4世がヨーク朝を開く

イングランドの作曲家ダンスタブル(1390?-1453年)によってヨーロッパ大陸に伝えられた3度・6度を用いた和声法フォーブルドン

ブルゴーニュ公国(フランス東部からドイツ西部)で活躍し、ダンスタブルの和声法に影響をうけたデュファイ(1397-1474年)、バンショワ(1400年?-1460年)らブルゴーニュ楽派の作曲家によって3声のポリフォニーが特徴のミサ通常文をまとめて作曲した通作ミサモテット

中期ルネサンス(盛期ルネサンス:1470~1520年頃)

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ヨーロッパ周辺の歴史(大航海時代と宗教改革)
・1477年:フランスがブルゴーニュ公国を併合する
・1485年:イギリスのヘンリ7世がテューダー朝を開く(薔薇戦争の終結)
・1492年:コロンブスが西インド諸島に到達する
・1492年:スペインがグラナダを占領し、レコンキスタが完成
・1498年:ヴァスコ=ダ=ガマがインドのカリカットに到達
・1515年:教皇レオ10世がサン・ピエトロ大聖堂建築資金を名目に贖宥状を発売
・1517年:マルティン=ルターが贖宥状の販売を批判し、『95ヶ条の論題』を発表する(宗教改革の始まり)
・1519年:マゼランが世界周航に出発する

フランドル(オランダ南部、ベルギー西部、フランス北部)を中心に活躍したオケゲムアグリコライザークジョスカン・デ・プレオブレヒトといったフランドル楽派の作曲家によって確立した4声のポリフォニーによるミサ、モテット、シャンソン

16世紀中期になるとフランドルだけでなくイタリアを始めヨーロッパ全体の普遍的な様式となる。

後期ルネサンス(1520~1600年頃)

ヨーロッパ周辺の歴史(プロテスタントの誕生とイギリス・フランス勃興)
・1521年:神聖ローマ皇帝カール5世によりルター派が禁止される
・1522年:ルターがザクセン選帝侯の庇護下で新約聖書のドイツ語訳を完成
・1522年:ドイツの没落騎士がトリーア大司教に対して起こした騎士戦争
・1524年:ルターの宗教改革を支持する農民によるドイツ農民戦争
・1529年:スイスでの宗教戦争、カッペル戦争が起こる
・1534年:イギリスのヘンリ8世が首長法を発布し、イギリス国教会が成立
・1534年:イエズス会が創立される
・1541年:スイスでカルヴァンの宗教改革が始まる
・1543年:コペルニクスが地動説を発表する
・1545年:トリエント公会議が開かれる
・1549年:イエズス会のザビエルによって日本にキリスト教伝来
・1555年:アウグスブルクの宗教和議が結ばれ、ルター派が容認される
・1558年:イギリスでエリザベス1世が即位
・1582年:ローマ教皇グレゴリウス13世がグレゴリウス暦を制定
・1584年:新大陸でイギリス最初の植民地であるヴァージニアが創設
・1588年:スペインの無敵艦隊がイギリス海軍に敗れる
・1589年:フランスでアンリ4世が即位し、ブルボン朝が成立する
・1598年:フランスのアンリ4世が信仰の自由を認める
・1600年:イギリスのエリザベス1世が東インド会社を設立

ルソーなどによる宗教改革(1517年)に端を発した戦争やプロテスタントの勃興、カトリック教会による対宗教改革を打ち出したトリエント公会議(1545年)などキリスト教にとって激動の時代

フランドル学派ラッソ(1532-1594年)や、ローマ派のパレストリーナ( 1525?-1594年)らによって完成されたポリフォニー様式。

ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂の楽長を務めたヴィラールト(1490?-1562年などのヴェネツィア楽派によって開発された、サン・マルコ大聖堂の残響を生かした二つの聖歌隊と2台のオルガンを用いた二重合唱法

カッチーニ(1545?-1618年)やガリレオ・ガリレイの父ヴィンチェンツォ・ガリレイ(1520?-1591年などのフィレンツェの人文主義者や音楽家、詩人、その他の知識人が、バルディ伯爵(1534-1612年)の邸宅に集って結成した芸術家集団「カメラータ」によって古代ギリシャ音楽や演劇の復興が図られ、ポリフォニーを否定する単純な器楽伴奏と単旋律によって歌われるモノディの出現。

ペーリ(1561-1633年)によるギリシャ神話を題材にした音楽劇『ダフネ(1598)』や現存する最古のオペラ『エウリディーチェ(1600)』、モンテベルディ(1567-1643年による『オルフェオ(1617)』などオペラの誕生

まとめ

ルネサンス期の音楽は、宗教音楽を主体に進化しながらも、ローマ教皇とカトリック教会が権勢を誇り腐敗を起こすようになった中世の時代に対するアンチテーゼとして、宗教的束縛の少なかった古代ギリシャ・ローマ時代の自由な創作活動を取り戻すことを前提に進んでいきます。

次回はキリスト教が権勢を誇る以前の古代ギリシャ・ローマとキリスト教の歴史を振り返ってみましょう。

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