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大学×大学発ベンチャー×大手企業で、SDGs実現へ

2023年5月31日のことです。きんとも🦠起業家大学教授こと堀 克敏ほりかつとしさん(工学研究科教授)がこんなつぶやきを発信。

「菌」への興味から、バイオ研究の道に進み、大学教授をしながら起業。新しい産学連携のしくみを開拓し続ける堀さんは、いったいどんな野望を抱いているのか…!? お話をききました。

堀 克敏ほりかつとしさん
(工学研究科 教授)

フロントラインPodcastでは、堀さんへのインタビューを音声でお届けしています。

<インタビュー概要>
── ハウス食品グループさん、住友商事さん、豊田合成さん、大手三社との産学連携ですね…!実現のポイントは?

本業である動植物油の分解技術の高さに加えて、名古屋大学の私が有する微生物と酵素による環境技術SDGsに直結する技術に大きな期待を寄せていただいたことがポイントであると思います。動植物油だけでなく、鉱物油の分解の可能性、分解だけでなくバイオディーゼルへの変換、さらには、将来のプラスチック分解、温暖化ガス削減、バイオものづくりの先進技術に興味を抱いて頂いております。また、商社さんは、海外展開も視野に入れて頂いております。こういった、将来の協業にご期待頂き、今回、大手の事業会社さんからの投資に結び付きました。

産学連携については、この三社というわけではないのですが、従来は、企業さんと「共同研究」をしてきました。それを、2017年に株式会社フレンドマイクローブというベンチャーを立ち上げた時に、「ベンチャーと共同研究する」という形にしました。ベンチャーにとっては、受託研究事業に位置付けると。すると、大学特有のシーズ発信型ではなく、ニーズが先にあってそれを商品化や課題解決につなげる研究になります。今回、このベンチャーに資金提供してくださった企業さんたちには「単に論文が出て終わりではない」と期待して頂いています。資金の規模感も、ひと桁違いますね。

連携のイメージ(出典:2023/5/31 プレスリリース

── 「大学教授」のイメージが変わりました…

そうですね、非常に珍しいかなと思います。これができるのは私自身がスタートアップの経営に直接関わっているところが大きいです。私は会社での役職は取締役会長で、代表は私の教え子の蟹江純一かにえじゅんいちです。彼と一緒に経営し、ディシジョンを下せます。新しい産学連携を確立したいという大学人としての立場や思いもありますね。

── 具体的にはどのようにネットワークづくりをされてきたのですか?

代表の蟹江がスタートアップ向けのピッチで賞を総なめにしてきていて、注目度が高まっていたんですね。私のところにも、微生物や酵素関係で連携できないかといった問合せなど、いろいろなきっかけでつながりを作ってきました。

── 研究開発において、名古屋大学とフレンドマイクローブの役割は?

研究開発については、フレンドマイクローブだけでできるところは限られているので、基本的には名古屋大学と一緒にやります。企業さんのニーズに基づいてテーマを設定しフレンドマイクローブについては、受託研究という形で資金をいただいて。動植物油脂の分解に関してはフレンドマイクローブの本業で、技術は確立されていて社会実装済みですので、さらに適用・用途拡大や、応用を拡げていく研究を、ほぼ自力で進めることができます。

── 具体的な事業や技術のお話も少し伺いたいです。

我々は、微生物をつかって動植物油脂を分解することを中心的な事業として、大きめの食品工場をターゲットに事業展開をしてきました。動植物油脂の処理で一般的なのは物理化学的な方法で、微生物はあまり使われていないんです。というのも、工場の廃水処理では「滞留時間」という処理しなければいけないタイムリミットがあります。今、市販の微生物製剤で滞留時間内に分解できるものは、調べた限り皆無です。そこで、速やかに分解できる新しい微生物製剤を開発しました。一の性能を十の性能に一気に躍進させたとと例えられるでしょうか。

── カギは何ですか?微生物自体がすごいのか、それともプラスアルファで何かを加えたとか…?

まず微生物自体の力ですね。そして、その能力を引き出す方法です。廃水の質や量など、現場に合わせた使い方をするということです。これは、従来の製剤に欠けている点です。そういう意味では、薬と同じだと考えています。どんなに画期的な薬でも、使い方を間違えると効果が出ないばかりか、副作用が出てしまいます。医療の場合と違って、環境に使う薬剤ではあまりケアされてこなかった部分ですね。

── 外食産業もターゲットにしていくそうですね。

はい。我々の技術はもともと食品工場など大きなところ向けなのですが、外食産業など小さいところですと、廃水の滞留時間が非常に短い点がネックになって、簡単に適用ができなかったんですよ。ただ、技術も基盤は既に確立済みです。それを今後、実証試験を経て世の中に出していこうとしています。加えて、生ゴミ処理にターゲットにしていく予定です。生ゴミにも油脂が含まれますから。

── さらに、機械油や鉱物油にも着目されているとか…

はい、そのような油はあらゆる工業やそれ以外の様々な産業分野で使用されていて、廃棄量も動植物油よりも圧倒的に多いんですね。それだけ、その処理には需要があるということなんです。ただ、同じ油でも、機械油や鉱物油は動植物油とは全く異なるもので、動植物油の分解技術はこれらの油の分解には使えないんです。しかし、海外には…あるんです。でも、分解速度が遅い…全く分解しないんですね。でも、我々はそのような機械油や鉱物油すら分解する技術を、ほぼ確立しました。これは全くゼロであったものから一を生み出したわけで、さらにこれを十の性能に一気に向上させて、社会実装する計画です。

── 微生物製剤はどのような形状ですか?使用方法は?

現状は、液体の中に微生物が入っている液体製剤です。

液体微生物製剤の荷姿

そして、現場に設置する装置も開発しています。というのも、大量の廃水に対して大量の製剤を投入するとなると、コストがかかってしまう。そこで、微生物製剤の「種菌」を増やして自動的に投入する「自動増幅投入装置」をセットで使用してもらいます。例えば、プリンターにインクを補充するように、自動増幅投入装置に種菌を定期的に補充していく形態です。

現場の装置にセットされた液体微生物の種菌製剤

── 廃水中の微生物フローラのデータをAIに活用していくという構想があるそうですが、具体的には?

これまでの廃水処理はブラックボックスの中で行われてきているんですね。そこで、将来テーマとして掲げました。コロナ禍に、下水中のコロナウイルスをモニタリングして、ウイルスリスクを捉える研究が盛んにされてきました。そこで、微生物もモニターし、廃水処理に効率的に使える技術にならないかと、これから研究開発を本格化させていこうとしています。

── 堀先生の研究の原動力になっているものは?

科学者として、何を人類に残せるかということを常に考えています。科学技術は進歩しますから、永久に残ることは通常ありません。それを実際に残す場として、自ら起業して、それを手がける会社を作れば、その技術がずっと残る可能性が高まります。大学は人を育てる場でもありますから、それが会社を作れば人材が活躍する場もできます。さらに新しい産学連携の仕組みを作ればそれも残っていく。自分が何を残せるか、がモチベーションですね。

── 堀先生は、「きんとも」でツイッター発信されていて、きっと菌がお好きなんだろうなと思っていました。どのように今のような思考に発展していったのですか?

遺伝子や生命の進化に興味があって、生命の誕生の謎を明らかにしたいとバイオの分野に進みました。菌って、進化の過程で一番最初の方に登場したので、生命の誕生に迫れるだろうという魅力があります。もう一つ、人体や環境中には無数の微生物がいて、生体系にも生態系にも、すなわちどちらの「せいたい系」にも、大きな影響力を持っていると考えています。ですから人の健康はもちろん、今、危機的状況にある地球環境も、微生物を活用することで救えるんじゃないかな、と。その両方の思いで、研究を進めていますね。

大きな使命感を背負って、思いを実践されているところ、心に響きました。ありがとうございました。

画像提供:堀克敏教授
インタビュー・文:丸山恵

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