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ワインの転売批判に思うこと

最近は世の中、あちらこちらで転売の話題が姦しい。マスク、トイレットペーパー、そしてワイン。どの品目に対しても共通していることは、話題になるのはその転売がただの転売ではなく「高額転売」であること。批判の理由はいろいろあるようだけれど、ことワインに関して言えば争点は大体が次の3つ。

1. 社会的ルール (酒販免許等の規制)に違反しているのが問題
2. 転売者が生産者よりも利益を上げているのが問題
3. (値段の割に)品質が担保されないのが問題

なるほどねぇ、と思いながら眺めている。

そんな自分も随分とこの話題が視界に入る機会が増えたのでこんなPostをしてしまった。いわばこの文章を書いているのはこのPostが原因だ。やんなきゃよかったな、と今更ながら妙な疲れを感じつつ、自分で言ったことだからとこの文章を綴っている次第だ。

さて、話を戻そう。

転売の是非を語るにしても、上記の1.の争点、つまり社会的なルールへの違反が問題だという点については疑問の余地もない。ダメなものはダメ。そこに商売のチャンスがあったとしてもそれは踏み込んではいけない一歩だ。そんな当たり前のことに割くべき紙面も時間もない。
なのでここでは2.と3.の方について話をしよう。

とはいっても、これも話は簡単で、結論してしまえば

需要と供給の問題

これでしかない。
第一、生産者が自分で獲得するべき利益は自分で決める。これは自分の作品に対して自分自身で価値を付け、世の中に知らしめる行為だ。それに対してもっと高く売れ、とか、その値付けは大間違いだ、というのはむしろ生産者、作者に対してお前の価値判断は間違っている、この間抜けめ!と公言しているのに等しい。余計なお世話だ。そしてここに対して周りがどうこう口をはさむのは、はっきり言ってしまえば上手いことやって利益を上げた勝者に対する敗者の妬み・嫉みでしかないと言われても仕方ないことだと個人的には思う。

世の中、何か間違っていないだろうか。

この世の中にあるものすべてが公正・平等に誰の手にも入るものだと、そうあることが当然のことだと、そう思う向きが強すぎはしないだろうか?人はそれを計画経済と呼ぶ。対して我々は、少なくともこの文章を読んでくださっているであろう、日本に住む多くの方は市場経済の世界に生きている。この世界は300年前にアダム・スミスが言った見えざる手のうごめく世界。需要と供給の中で価格が決まる。それが転売であろうと、なかろうと。

例を二つほど挙げよう。
レストランでワインリストにオンリストされているワインの価格に文句を言う人はまずいないだろう。仮にそれがワイナリーで直接買う価格の数倍高かったとしても、だ。
フランスでもドイツでもアメリカでもどこでもいい。海外からの輸入ワインが日本で売られる時、その価格が現地で直接買い付ける価格の数倍だったとして問題視する人はどれだけいるだろうか。

あなたはあなたが今日買ったそのワインがいくらでワイナリーから出されたものか、知っているだろうか。

レストランは多くの場合、ワイナリーにおけるワインリストに表記された正規価格ではワインを仕入れない。インポーターに至っては50~60%もの割引を要求してくるケースが実際に存在している。とあるワインを「高額転売だ!けしからん!!」という方々はこれをどう考えるのだろうか。レストランやインポーターだから安く仕入れたワインを高く売るのはOKで、よくわからない個人がやっているからNGだ、というのだろうか。人はこれをダブルスタンダードと呼ぶ。

一度考えてみて欲しい。
あなたが今日買った、その本。著者にどれだけの利益が入っているだろうか。あなたが引越しの時に買ったそのTV。メーカーの得ている利益はいくらだろうか。あなたが美味しそうだ、と思って買ったそのイチゴ。イチゴ農家に一体いくらのお金がはいっているだろうか。
そしてそうしたお金は彼ら、彼女らがその本やTVやイチゴのために費やした労力や時間や情熱に見合ったものだろうか

世の中、一次産業ほど割に合わないものはない、という現実から目をそらすべきではない。一次産業が割に合わないから今は六次産業化というようなことが声高に叫ばれているのだ。そこに乗り遅れていれば搾取されて当たり前、というのがこのツライ世の中の現実だ。

ワインというものはなまじっかワイナリーで直接買えるから、元値が分かっているから正義の拳を振り上げやすいのだろう。なんなら生産者自身がその拳を振り上げている。

なるほど、自分自身が決めた価値が例えそれがより高い方向であったとしても不当に変えられている、その事実が気に入らない、ということだろうか。自分の自身の価値判断を土足で踏みにじるとは何事か、と。
生産者は確かに生産者だ。その商品に責任を持つ立場にあることは自明の理で、どこまでも自分自身の把握できる範疇に置いておきたいというその気持ちは分かる。そうでなければ責任を負いきれない、という事実も。でも、生産者は作った人で、最終的な所有者ではない。ついでに言えば、メーカーが末端価格を拘束することは独占禁止法上の違法行為となる。転売行為などよりも明確な違法行為だ。

どうしても自分の付けた値段でだけ売りたいのであれば、すべてを自分の手元で売ればいいし、転売をさせたくないのであればボトルで外に出さなければいい。いくらなんでもグラスに注がれたワインを転売しようなんて人はいない。あとは転売する意味がないほどに量を作ればいい。スーパーで1000円でいくらでも売られているワインを転売に使えるなんて思う人も普通はいない。
あれもできない、これもしたくない。でも自分の価値観を踏みにじられるのは許せない。そんなものは子供のわがままだ。言うのも思うのも自由だけれど、他人に強要するべきことじゃない。
お客様の手元に渡った商品の品質に責任を持つため、というのであれば、単に不備に基づく交換には正規店の発行するレシートが必要、と一言言えばいい。転売するな、ではなく。

転売されたワインは保管状況が不安だ、という声がある。しかもこれがブランドの棄損につながるらしい。

なるほど、転売するような人であればその保管状況には気を使うわけがない、というステレオタイプか。ワインを好きな人はみんな善人で、その取り扱いには細心の注意が払うのが当たり前。生産者には常にリスペクトの心を持ち、その意向には嬉々として従う。一方でそのグループに属さず、カネのためにだけワインを扱うような奴はそんなことなど気にもせずに取り扱うに決まっている、ということだろう。確かにそうかもしれない。ではちょっとその辺りにある町の酒屋さんを眺めてみよう。彼らは善人で、仕入れに対する適正な価格でワインを販売している。でも、商品の陳列はちょっと雑で、温度も湿度も管理されておらず、時間によっては店に入り込んできた西日がワインに当たってる。さて、ここで思うべきことはなんだろう。

簡単だ。買わない。そう決めるだけだ。
我々はリアルの店舗で商品を買う場合にはその状態を自らの目で見極めて購入を判断できる。だから、自分の価値判断に基づいて、その保管状況が気に入らなければ価格が適正でも買わない。逆にちょっと価格が高くても、保管環境を整えるためにコストがかかっています、なんて言われればそちらには喜んでお金を払う。とっくにそのための冷蔵コンテナの減価償却なんて終わっていたとしても、だ。
ついでに言えばこの状況を見て、そのワインのブランドが棄損されているなんて考える人はいない。劣化の原因が明確に目の前にあるからだ。一度流通を介したものを捕まえて、劣化があったからといってブランドの棄損だ、ということは本当にあるのだろうか。


輸送でも保管でも人件費でもいい。コストがかかっていることが分かっていて、そのコストの分の上乗せだったら理解できるし、納得できる。もしくは納得しようと試みる。そうでないコストには納得できないし、頭から考えようとしない。

転売に対する批判なんてものは、結局はここなのだろう。
要は少しでも無駄なカネは払いたくないんだ。誰だって。高いカネを支払って無駄なものをつかむなんてことはしたくない。突き詰めれば、支払う先が誰か、なんて関係ない。ほんの少し、納得しやすいかどうかの違いしかない。支払う先がレストランなら納得しやすい。生産者だと、前年より値上げしてたら納得しにくい。なんの信用もない見ず知らずの他人には全く納得できない。
仮にその転売のための商品仕入れのために実は多くの人を雇っていて、結果的には膨れ上がった人件費のせいで利益なんて微々たるものだったとしても関係ない。納得できないし、そもそもそんなことを知ろうとしない。知る必要もない。気に入らないのだから。

自分が気に入らないものを批判するのに、便宜上、「頑張っている人間」を表に持ってくるのがやりやすい。それだけのことだ。

転売屋、転売屋というが、世の中の商売の多くは転売だ。そうした商売の中で利益を出していくためには、安く仕入れて高く売るのが基本。目端の利く商人だったらもっと安く仕入れられるところから仕入れて、もっと高く売れるところにもっていって売るだろう。これを批判し出したら今のご時世、生活なんて成り立たない。そういう方々にはぜひ自給自足の生活を頑張ってほしい。

世の中、絶対的に正しい価値判断なんて存在しない。ワインの価格なんてまさに水ものだ。最初の値付けをしている生産者だってどこまで「正確さ」をもって値付けをしているか、分かったものじゃない。だから、これを根拠に価値判断をしてはいけない。
市場経済においては買う側の人間が買ってもいいと判断した価格が正しい価格だ。そこに高いも安いもない。「不当な高値」なんてあるわけがない。買う側が不当だと思ったら買わなければいいだけだ。実際に町の酒屋さんで雑に扱われたワインは表示された価格が流通上の正規価格であっても現実的な価値判断では「不当な高値」と断じられて誰も買おうとしないのだから。

生産者こそが最も利益をとるべきだ、なんて夢も見ないことだ。多くの場合、生産者は最も割に合わない搾取される側の存在であることはすでに長い歴史のなかで分かり切っている。それが気に入らないのであればすべてのものを生産者の元から流通価格以上の値段を自己申告して買えばいい。今の世の中、そうしたことをするのは難しくない。
もしあなたが生産者としてこんなことを言うのであれば、悪いことは言わない。一度、生産者であることを考え直した方がいい。自分の努力と時間と汗を正確にお金にしたいのであれば、人事評価制度のある会社勤めをした方がいい。そして自分の手元に入る金額だけを見て納得しよう。世に出た製品の価格まで見てはいけない。それはあなたのものではない。
ついでに言えば、日々の生活で特売品を買ったりセール品を狙ったりするのもやめよう。自分で自分を矛盾させてしまうので。転売する人間だって勉強しているし、努力している。努力しているのは自分だけではない。そのことに冷静になって気付くべきだ。

長々書いてきた。疲れる話題だ。
そんな疲れる話題なのに、まとめてしまえば簡単だ。

世の中は不平等で、公正ではなくて、競争が支配している。少なくとも我々はそうした世界に生きている。何の努力をすることもなく、ただ親鳥がエサを口の中に突っ込んでくれるのを待つだけのひな鳥のような生き方をしておいて、自分が損することなんて許せない、なんて甘ったれたことを言うのは止めよう。自分の足で立つ以上、いつでも転ぶリスクはついて回る。
冷静になろう。あなたが振り上げた拳は正義の鉄槌ではなく、単なる自己満足の象徴だ。


無責任にならないための補足

随分と勝手を言ってきた。書き殴ってきた、といってもいい。文章もいつもと随分と違う。どうも自分も少し感情的になっているらしい。
このままこの文章を終えてしまうと、無責任な言論の発信者でしかなくなってしまう、そんな気がする。それはさすがにダメだろう。そこで私の考える転売対策を。

転売を防止するのは難しい。なぜならそこには需要があるから。欲しい、という人間がいる限り、どんなに売る側を規制しようとしても上手くいかないだろう。なんだかんだとお金の大事な世の中だ。お金のためなら少しくらいのリスクは取れる、という人は多い。
だから、やるべきことは需要を減らすことだ。一番いいのは満足できるほどの量を市場に流すこと。でもこれは難しい。なら、どうするか。リスクを見せることだ。町の酒屋さんの話ではないが、人は何らかの行動をとる時は常にリスク計算をしている。だから、リスクを見せる。その購買活動は価格に見合わないですよ、と知らしめる。

仮にそのワインが品質的に問題があろうと、ブショネであろうと、交換や返品対応には常にレシートの添付を義務付ける。それが正規店のものでなかったら一切対応しない。闇取引をするのは勝手だけど、それは闇取引ですよ、リスクが高いですよ、と言い続ける。それでも発生するものは無視する。

これで十分なのではないだろうか。
こんなことをしても転売は絶対になくならない。保証する。でも、根絶させる必要などそもそもないだろう。そんなことに時間と労力を割く意味がどこにある?時間の無駄だ。そんなことに時間を割くよりも大事なことがあなたにはあるだろう。
やるべきことをやったらあとは放置して視界に入れない。そもそも一度は自分の手を離れたものだ。それを完璧にコントロールしようなど、無理に決まっている。レストランや正規店の店頭に並んだものの品質にさえ絶対のない世界で、絶対を約束することは神様でもない限りは無理なのだから。


ワイン用のブドウの栽培、ワインの醸造を行う生産者としての立場からの情報発信をするサークルを運営しています。普段はなかなか目にすることのない側からの情報やそこから始まる議論などにご興味をお持ちの方はぜひ一度、覗いてみてください。


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ワイン用ブドウ栽培とワイン醸造の専門家。 ガイゼンハイム大卒/ドイツで800年続くワイナリーの中心メンバー。元ワイン無関係の会社員で決断力のある方向音痴。醸造用葡萄の栽培醸造エンジニアの視点から、ワインにまつわるブログ(https://nagiswine.com)も書いてます。

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