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ベト病 - その原因菌の生態と対策 | note版

ワインの勉強をしていると、代表的なブドウの病気についても学ぶ機会があると思います。

その中でも代表的なものがベト病、ウドンコ病、そして灰色カビ病で、この3種類については耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

何かの機会に現地の生産者の方と話していても、今年はベト病の被害が大きくて、、、なんてコメントを聞くこともあります。私もワインの紹介をする際に、この年はベト病が大流行してしかもその翌年はウドンコ病が酷くて、まさに泣きっ面に蜂でした、なんてお話しをさせていただくことがあります。

こうして話に良く出てくるので何となく知っているような気になるベト病ですが、実際にその症状や生態を知っている方はそれほど多くはないのではないかと思います。

今回はそんなベト病に焦点を当てて、どんな病気なのか、対策方法にはどのようなものがあるのかを解説しようと思います。

ベト病ってどんな病気?

ベト病は英語ではdowny mildew、ドイツ語ではFalscher Mehltauと呼ぶ、カビ系の病気です。

この病気はブドウ以外でも野菜や果実に感染し、それぞれで原因となる菌は少しずつ違うのですが、ワイン用ブドウ品種に関して言えば、原因菌はPlasmopara viticolaという北アメリカ原産の菌になります。downy mildewとかFalscher Mehltauとは呼ばずに、その原因菌の種別から単純にPeronosporaと呼ぶことも多い病気です。

1878年にヨーロッパに持ち込まれたことをきっかけに、今では中央ヨーロッパで最も危険なブドウの病気の一つと認識されています。欧州系のブドウ品種 (Vitis-vinifera種) はこの病気に対する耐性を持っていないため、Piwiと呼ばれる耐性品種以外ではある程度の差はあっても全ての品種で感染するリスクを持っています。
この病気に感染した場合の最も特徴的な症状はブドウの葉の表面に現れる、黄色味を帯びた油汚れのようなシミ模様です。

感染した部位は徐々に中央部分から乾燥し、茶色く枯れ始めます。枯れた部分と感染していない健全な部分との境界には輪っか状になった油染み様の感染部分が残り (写真)、そこを起点に引き続き胞子が拡散されます。また症状が劇症化すると樹全体が落葉する状態になることもあります。

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ベト病はまだ細胞壁が軟らかい若い葉ほど感染しやすく、また被害の拡大もしやすいですが、葉以外にも枝や花穂、果実にも感染します。感染した果実は紫色に干からびたミイラのような状態になるため、感染の程度が酷くなると深刻な収穫量の減少につながります。

近年ではこの病気の大流行により収穫量が例年の3分の1まで減少する事例もあり、ワイン用ブドウの栽培をしていくうえでは対策が絶対に欠かせない病気の一つです。

ベト病の対策

ベト病に対して最も効果があるとされているものは今も昔も銅です。皆さんが耳にすることも多いであろう「ボルドー液」というものは硫酸銅と消石灰の混合溶液のことで、まさにこのベト病への対策薬剤として使われています。しかし、最近では消石灰の土壌負荷が問題視され、銅を含んだ別の薬剤を使うことが増えてきています。

ボルドー液の時代から未だに銅を超える効果を持った薬剤が確立されていないとも言えますが、近年では銅による環境負荷を低減する目的で、無機系、銅を含まない有機系、そして生物的な手法による対策方法が多く開発され製品化もされていますが、やはり銅を超える効果を持つものはなく、EU圏内で有機認証団体に加盟しているワイナリーであっても年間に最大で3㎏ / haまでは銅を散布することが認められています。


ドイツでは一時期、ベト病の対策に重炭酸塩、もしくは炭酸塩 (炭酸に含まれる二個の水素原子のうち、一個を金属類で置換してできる塩の総称) の一種として知られる炭酸水素カリウムの利用が試されたことがありました。しかしこの薬剤はベト病に対する効果は確認されておらず、現在はウドンコ病の対策薬として使用されています。

なお一部の重炭酸塩はEU圏内におけるエコロジック規定においては使用が禁止されているほか、これらの薬剤は植物毒性が高いことも知られており、ストレスを受けていたり樹勢が弱い樹に対して使用すると葉の表面に形成される結晶物により葉を"焼いて"部分的に枯らしてしまうことが報告されています。

この症状は目標菌の有無に関わらず、"葉"自体に対して生じてしまうため防除効果とは無関係な副次効果として知られており、また重炭酸塩は多くの場合、銅に代わってアルカリ金属系の成分を撒くことになることから環境負荷の低減にはつながらないとして使用には慎重になるワイナリーも多いのが現状です。
ベト病への対策薬としては最近ではPhosphonat (ホスホン酸) を使った薬剤が散布時期によっては銅に勝る有効性を見せるとして注目されています。

ベト病の原因菌、Peronosporaの生態

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Nagi@ドイツでワイン醸造家

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ワイン用ブドウ栽培とワイン醸造の専門家。 ガイゼンハイム大卒/ドイツで800年続くワイナリーの中心メンバー。元ワイン無関係の会社員で決断力のある方向音痴。醸造用葡萄の栽培醸造エンジニアの視点から、ワインにまつわるブログ(https://nagiswine.com)も書いてます。

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