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わたしの理解の向こう側。

彼女とデートしてきた。元彼を含めて誰ともいくことなく生きてきたわたしにとって、生まれて初めてのテーマパーク。ユニバーサルスタジオジャパンだ。彼女からの提案で行くことになったが、楽しかったとともに緊張感はひとしおだったので、今回はそんなお話。











「傷が治ってきた記念だ!一緒に行こう!」

朝起きて布団の中で彼女とまったり話をしていた。わたしがとっても好きな、寝起きのまどろみタイム。

彼女はわたしの体を撫でながら「アザが消えてきたね。なぎの体が綺麗になって来て本当に嬉しい」と言ってくれた。

嬉しいもなにも、わたしではなく彼女のおかげで無事に回復して来ているのだから、わたしからしたら、わたしのことで喜んでくれて申し訳ないと思った。

すると突然「よし!今日出かけよう!傷が治ってきた記念だ!ユニバ行こう!」と言い出す彼女。

「ちょっと待って…わたし行ったことないし…」

そうなのだ。

わたしはテーマパークに行ったことがない。テレビも特に観ていなかったので、名前こそ知っていれどディズニーランドもユニバーサルスタジオジャパンも幻の存在。

元彼とも、ショッピングモールやアウトレットには行ったことがあったが、テーマパークにはどういうわけか行こうという話にならなかったのだ。

当然すごい人混みであろうことは容易に想像がつくし、今のわたしの精神力では無事でいられる気もしなかった。そんなわたしを尻目に彼女はキラキラとした目で続ける。

「行ったことないからこそやん!リフレッシュしよ!元彼も仕事やろうから絶対鉢合わせすることないやろうし、人混みも私がいるから大丈夫!なぎのペースで回ろう!」

不覚にも泣いてしまった。

ここまでわたしの思うことをわかってくれる人がいるのかと…。

彼女の気持ちに応えるべく承諾し、人生初のユニバーサルスタジオジャパン行きが決定した。


「大丈夫。私がついてる。守るから楽しもう!」

彼女の車で向かっている道中。車内での緊張感は半端じゃなかった。できるだけ普通にと思って接していたが、彼女に隠せるわけもなく…。

「緊張してるやろ?w 大丈夫。しんどくなったら休んだらいい。楽しめそうなら楽しんだらいい。私は正直、なぎの辛さを理解できてないと思うし、いろいろ調べてみたけど適切な対処法がわからへん。だから、私なりに考えて動くことにした。」

調べてくれてたとは知らなかった。本当に真剣にわたしに向き合ってくれていることを改めて実感した。

「だからさ。無理なく行こう。とりあえず第一歩。全く違う場所に行けば、何か新しい発見があるかもしれんやん?人混みでしんどくなれば、少ないとこに逃げればいいしさ。わたしがずっと手を握ってるから、安心しなさい!」

あぁ、わたしはホントにこの人のことが好きだな。

そう思って、運転中の彼女の手を握った。


「ごめん…やっぱり無理だ……。」

初めてのテーマパーク。

人が多い。

広い。

なんだここは…。

彼女はわたしの手を握り、ゆっくりと歩いてくれた。

乗り物に行く前に、軽くショッピングできるところをまわり、おそろいのカチューシャを買い、ゆっくりとパーク内を散策。

おそろいカチューシャの照れ臭さ、人の多さ、周りを歩く男性の距離感…これらがトリガーとなって体の震えが止まらない。

その流れでアトラクションに並ぼうとしたとき、わたしが限界を迎える。

めまいが止まらなくて、立っていられなくなったのだ。

「ごめん…やっぱ無理だ……」

肩を抱かれながらベンチに移動したわたしは、涙が止まらなくなった。

申し訳ない

情けない

今すぐ消えたい

負の感情に押しつぶされた。


「女同士だからなに?誰も気にしてないってw」

彼女はそれでも優しかった。

手を繋いだり抱きしめたりしながらずっと「大丈夫やで」と諭してくれる。

なんという安心感なんだろう。

けど、そのときふと口をついて出てしまった。

「ごめん、女同士でおそろいのカチューシャして抱きしめたり手を繋いだたりしてたら、わたしのせいでなっちゃんが周りの人に気持ち悪いと思われるから離れた方がい…」

「だからなに?」

わたしの話を遮るように彼女が続ける。

「女同士だからなに?w そんなんだれも気にしてないってw ほら見て?あそこにも手を繋いだ女の子いるやん。普通やってw もしかして、それも気にしてくれてたん?」

そう。わたしの手を繋いで歩いてくれる彼女が、他人から白い目で見られるのではないか。という不安も大きかったのだ。

もちろん自分自身で精一杯なのだが、わたしの好きな人が、わたしのせいで白い目で見られるなんて、それよりも耐え難い苦痛である。


「やっぱり私は、なぎが好きやねん。」

「気にし過ぎやで。わたしらはわたしらやん。周りにどう思われても、私は気にしない。だってさ、やっぱり私は、なぎが好きやねん。こんだけ一緒にいても、やっぱり好き。だから私はなぎを守りたい。」

この言葉とともに、きつく手を握ってくれた彼女の温もりと力強さは、わたしの心を軽くしてくれた。

この人と一緒なら大丈夫かもしれない。

そんな思いがわたしを満たしていき、少しずつ震えがおさまってくるのを感じた。

「ありがとう…わたしがんばる。いこ。」

そこからはゆっくり休みながら、人混みに疲れたら少しでも人の少ないところに移動しながら、列に並ぶときは2人でたくさん話をしながら、いろんなアトラクションに乗ることができた。

最後まで震えたり目眩がしたりしたし、かなり辛かったのは事実。

それでもわたしの手をいつまでも握って落ち着くまでそばにいてくれた彼女の優しさに触れ、実感したことで、一緒に楽しむことができたのだ。

最後は2人とも、笑っていた。素直に楽しかったと、心から言えるいい思い出ができた。


「ありがとう」

彼女のためにも、少しでも早く対人恐怖や男性恐怖から抜け出さないと。

そう思っていたわたしに帰り際、車の中で彼女が言ってくれた言葉がある。

「普通になろうって焦らなくていい。ただ遊ぶだけじゃなくて、なぎが楽に感じるように遊ぶという、また別の楽しみ方ができた。そして、最後はなぎが楽しんでくれた。これほど嬉しいことはないよ。私は今日来て良かったと思う。本当に楽しかったよ。ありがとう!また2人で来よう!」

わたしは、どれほどこの人に支えられているのか。

そんな言葉を、こんなめんどくさいわたしに笑顔で言えるこの人は、いったいなんなのか。

わたしの理解を遥かに超えた場所にいるこの人を、もっとちゃんと理解したい。

そして、これからも大切にしたい。

そう、心から思えた。

女同士でも関係ない。

わたしはやっぱりこの人が好きだ。

そんな思いが涙となって溢れ、グシャグシャの顔とグズグスの声でわたしはなんとか言葉を絞り出した。

「うん…ありがとう…!」

この幸せが、どうか。

どうか、少しでも長く続きますように……。

そして、やっぱり少しでも早く、人と普通に接することができますように……。

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