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魚の骨とゾーンのお話

「いっただっきまーす♡」

大好きな母が作ってくれた鮭のおにぎり。
むすびたてホカホカ、大きめの海苔をぐるっと巻いて…パクッ!
食いしん坊だった6歳の私は、ロクに噛みもせずハフハフとそれを飲み込んだ。

「……!! ンガッ……!?」

ハイ鮭の骨~。母はかなり大雑把な性格なので、わが家では「あるある」だったが、この時の骨は歴代一位。かつてないほど、太くて長かった。「なんでこんな立派な骨を見逃しちゃったのお母さん!?」と詰め寄りたくなるほどのビッグサイズ。

あまりの痛みに大声で泣きたいのに、喉に突き刺さった骨が動くため、泣くどころか呼吸もままならない。6歳の私は、ただ母に向かって喉を指さしながらヒグヒグしていた。

当時ド田舎に住んでいた私は、最寄りの耳鼻咽喉科まで18キロほど、車の中で拷問を受けることになった。呼吸するだけでも痛いのに、オンボロ車がダートのようなジャリ道を猛スピードで走るので、それはもう揺れる。いやもう、揺れるなんてもんじゃない。上下左右にシェイクされているような有様だ。愛情深かった母は、涙ぐみながら

「私のせいで、大切なわが子が……!!!」

と責任を感じていたに違いない。その気持ちは非常に有難いのだが、もうね、本当に辛かった。痛みで話せない私は「ゆっくり」の一言も言えず、涙・鼻水・ヨダレをたれ流しながら、途中から意識を宙に飛ばしていた。気を失った訳ではない。ちょっと幽体離脱的なアレと言えばいいのだろうか。

 意識を宙に飛ばせば、痛みが消える。
 むしろ、ちょっと気持ちいい。

無限シェイクの中で、奥義を発見した6歳の秋。私の初めてのゾーン体験だった。この奥義はのちに、出産のときにも使われることとなる。

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