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ぼっち、ひとりぼっち。。

小学2年生の始業式前日。
ひとつ年下の新一年生になる弟は顔を紅潮させて
「ワクワクする」と言った。
私は気持ち悪くなるくらい不安で胸が一杯だ。
「ドキドキする」と呟くと
おばあちゃんは
「何でドキドキなの?ワクワクしなきゃおかしいよ」と窘めた。

誰と一緒になるのだろう?
新しい友だちが出来る!と期待よりも
自分がどんな環境に置かれるのかが怖かった。

中学2年生の4月7日。
今日はあの時の気持ちと同じだった。

1組から6組の教室の廊下の壁に出席番号順に名前が張り出された。

「わーい!〇〇ちゃんとまた一緒だね!」

仲が良い子と同じクラスになれたことを喜ぶ誰かの声が廊下に響いた。

私の名前は2組にあった。
名前の一覧をざっと見たけれど
去年一緒のクラスだった友だちの名前は無い。
知っている人がいない、どうしよう、私、友だちがいない。。。

もう一度名前の一覧に目を泳がせていると山口真由と見慣れない名前。
誰だろう?もしかして転校生?

みんながそわそわと落ち着きがない教室の隅で
ひとり席に座っている女の子を見つけて、やっぱり転校生だと思った。
話し掛けづらくて、でも、気になってちらりと視線を向けると
にこっと笑ってくれた。私もつられて笑った。

朝の学活(学級活動のこと)で
担任の先生が転校生を紹介します、と言った。
そう、あの真由ちゃんのことだった。

「山口真由です、よろしくお願いします」

男子の「可愛い?」「そうかな?」なんて失礼な声が聞こえて
思わずその声の方向を睨んだ。

先生の簡単な話が終わるとすぐ体育館に移動して始業式が始まる。

式が終わってまた学活が始まるまでの時間がすごく苦痛だった。
友だちがいないから。。。
おまけに自分から話し掛けるのが苦手だったし。。。
つまり、ぼっち。。。

今でこそ、一人でどこでも行けるメンタルに成長したけれど
14歳の私にとってぼっちは恥ずかしいことだった。

お笑い芸人フットボールアワーの岩尾さんは
中学時代ぼっちだったから休み時間中ずっと手を洗って
「あいつ、ぼっちだ!」と思われることを誤魔化していたそうだ。

ぼっちが恥ずかしいなんて
子どもの頃からの「友達できた?」と心配してくる
親や周囲の人達からの刷り込みに過ぎない。
逆に友達が多すぎるのも心配だ。
それは「友だちできた?」という
子どもの頃の刷り込みの呪縛から解かれていないのだから。

教室の入り口にひとりで立っている真由ちゃんに思い切って声をかけた。

「真由ちゃんはどこの学校から来たの?」

「第三小学校なの」

「そうなんだ、私、酒井なぎって言うの。よろしくね」

「なぎちゃんていうの?よろしくね」

言葉数が少なくてどこかぎこちない会話。
でも、嬉しかった。
自分から声をかけたのは生まれて初めてだったから。

午前中だけの学校が終わって
昇降口で真由ちゃんを待って帰る方向を聞いて
一緒だと分かるとふたりで並んでお喋りしながら帰った。

何を話したのか、今となっては思い出せないけれど
すごく楽しくて、笑って頬っぺたが痛くなったことだけは覚えている。

始業式から一か月程経ったとき
私と真由ちゃんを入れた6人のグループが出来た。
遠足もそのグループで行動していたけれど
その後、真由ちゃんはテニス部に入部して
同じクラスのテニス部の子と一緒にいるようになり
私たちのグループを離れていった。

喧嘩をした覚えもないから
ただ単に他に気が合う子が出来ただけ。
そういうこともあるよね。

2年生が終わる頃にはすっかり疎遠になってしまったけれど
真由ちゃんは、私が自分から話し掛けて友だちになった初めての人。

ほんのちょっと自信が持てる大切な出来事だったなぁ。






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