閉鎖病棟日記「酒ばかり飲んでいる」

 もう、他人や出来事がキツくて仕方ない。すべての環境が自分を自殺に追い込むために用意されたもののような気がしてならない。かといって、それで自殺しないのはそれほど辛くないからでも強いからでもなく、自分が自殺できるかもしれないなんて思えないからだが。僕には自殺する才能すらなかった。

 郵便局に行けば国際郵便物のハイプロンを手違いで返送してしまったと言われ、「こちらの手違いなので全力を尽くします!」と、頼もしいのだか頼もしくないのだからわからないが、要領を得ていないことだけはわかる返答を繰り返され、別人に後に電話で「国内にはなかったんですけど、国内にあると思って頑張ります」と言われる。何を頑張るかはよくわからないらしい。自分が相手に電話をかけ、再度送ってもらうように交渉し、相手き再度送料を払ってもらって送ってほしいらしい。補填はない。新しい商売なのかもしれない。

 口座に思ったよりも金がないというだけで半狂乱し、思ったよりも金が入らないというだけで半狂乱する。酒をいつもの通り飲み。その身体に煙草の煙を入れるとぶっ倒れそうになる。まあ、倒れてもいいんだけど。意識がない分楽だろうし。

 そう、酒を飲んでいる。煙草も吸っている。後者には時間以外は制限がないものの、酒は完全に禁止されている。嫌になる。死にたくて仕方ない。カウンセラーに本音を言えば主治医に言われる。もう隔離室にも行きたくない。酒がない生活はきつい。煙草も同じく。早く死にたいし、死ねると思い込みたい。

 多くの患者に好かれ過ぎて、ホールに行けば話しかけられ、大部屋に帰ると隣の患者に話しかけられ、一人になれる時間はない。疲れる。相手に合わせるから無駄に疲れるのか、合わせない人は疲れないのかよくわからない。それぞれに思うちょっとした所は彼ら彼女らが病人だからなのかもよくわからない。彼らは僕を見かけると話しかけ、それはそれでありがたいけれど、今みたいな死にたくて死にたくて仕方ない時は正直放って置いてほしい。

 酒しかなく、毎日酒を飲んでいる。きつい。幼児になりたいけれど、酒がなければ生きていけない。辛い。
 大人が酒や煙草をやるのは、単に生きているのがつらくてつらくて仕方ないからだ。酒や煙草が偉大な訳ではなく、このちゃちな酩酊や中毒に頼らざるを得ないくらいこの世はつまらなくてつらい。
 酒の飲み過ぎか、カロリーを気にするちゃちな自我か、肉や魚の臭いが気持ち悪くて食べれない。主菜を食べれないから白米も食べれない。汁物と添えられたおひたしだけを摂取する。悲しくなる。夜は酒が飲めない分よりきつい。さっさと死んでしまいたい。医療は僕に出来ることは何もないし、酒にも負けている。酒を酷く言う医者は過激な新興宗教の新聞にも似て、酒を庇う僕は冷たい目をされる新興宗教の信者にも似ている。同じ穴の狢か。

 さっさと消えてしまいたくて仕方ない。鏡を見たら浮腫んだ自分が黒いだけの黒目をして遠くを見ていた。酒のせいかぼんやりしている。もう白痴でいいよ。その方が楽に見えるよ。悲しいくらい正常がキツくて仕方ない。何の判断能力もいらないから酩酊だけがほしい。ハイプロンを過剰に摂取して、すべてをぶち壊してしまいたい。何もいいことがない。

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