北海道の ブ ラ ス バ ン ド
ここで言う「ブラスバンド」は金管楽器と打楽器で編成されたバンド、いわゆる「金管バンド」のことで、木管楽器も加わる「吹奏楽」とは異なります。
2019年5月11日「Brass Night in サッポロファクトリー」よりTHE BRIOSO BRASSの演奏
1931年(昭和6)の状況
北海道のブラスバンドに関する古い記録を見つけることはできていません。しかし、1931年(昭和6)発行の「喇叭の吹き方」 や 1936年(昭和11) 最新音楽隊教本にみられるように、極小編成の場合に金管楽器と打楽器のみの編成のバンドが実際に存在していたのではないかと考えられます。
1941年(昭和16)に管楽研究会から発行された「吹奏楽年鑑 紀元2601年版」には当時の全国吹奏楽団体の一覧が記された項目があり、この中にブラスバンドも複数あるのではないかと推察できます。なお、この年鑑では北海道に吹奏楽団体が76あることが確認できます。
昭和6年の北海道団体
76団体の内、団体名称にブラスバンドとあるのが23団体、吹奏楽とあるのが17、喇叭鼓隊*1が24、鼓笛隊*2が5、音楽部(隊)が6、軍楽団が2、協会が1 です。なお二つの編成を兼ねている団体があるので総計が76を超えています。この中で最小人数の団体は厚岸「真龍小学校ブラスバンド」で5人編成、最大は85人編成の函館「大谷高等女学校鼓笛隊」です。北海道全体での平均編成人数はおよそ21人で、名称に「ブラスバンド」が含まれている団体の平均編成人数は16人です。少人数編成の団体の中に金管楽器と打楽器のみのブラスバンド編成もあったのではないかと思われますが残念なことに推測でしかありません。
小学生ブラスバンドの発展
明らかに金管楽器と打楽器で編成されたとわかるバンドは、ヤマハが推奨していた編成の一つとしての小学生の活動が始まりです。1970年(昭和45)頃からヤマハが主導して多くの小学校へ金管楽器の導入が行われ、それがトランペット鼓隊そして金管バンドへと発展していきました。それまで多くの小学校では笛とアコーディオンや打楽器で編成されていた鼓笛隊の活動が高学年全員での特別な活動として行われていました。そこにトランペットを導入してメロディーラインを強化するという形の鼓笛隊が確かに存在していました。それが学年全員の活動から希望者の活動へと移行する中で金管楽器が導入されていったという経緯もあったと記憶します。
コンクール小学校の部の開始
北海道吹奏楽コンクールで小学校の部が開始されたのは1983年(昭和58)です。確かな記録は確認できていませんが、それ以前の北海道大会で小学校団体が演奏したことがあったと思われ (名寄南小、留辺蘂小) ますし、各地区大会への小学生バンドの参加は以前からありました*3。
全国に目を向けると栃木県宇都宮市立五代小学校の小組曲(アーノルド)やバンドロジー(オスターリング)の演奏を1986年頃の「こども音楽コンクール」の記録レコードで聞いてびっくりした記憶があります。
小学校の部が開始された1983年(昭和58)の北海道コンクールにブラスバンド(金管バンド)編成で出場したのは千歳北栄小学校(53人)のみで、演奏したのはヤマハが出版していた「ブラジル (A.バローゾ/岩井直溥)」です。北栄小学校は’84に「マイ・フェア・レディより 踊りあかそう (F.ロウ)」、’85に「森の鍛冶屋(T.ミヒャエリス)、86’に「バンドのための民話 (J.A.コウディル)」とヤマハの楽譜を中心にした選曲を続けました。他の金管バンド編成小学校は、’85から女満別小と札幌北の沢小が、’87から福島小、’88から函館青柳小があり、ヤマハのレパートリー以外の楽譜も取り入れて大会に参加するようになりました。
ブリティッシュブラスバンドの楽譜
小学校の部では海外出版のブリティシュ・スタイル・ブラスバンドの楽譜を使用する学校が徐々に増えていきました。
6つのスザート組曲 より J.アイヴソン (‘86北の沢小)
3つの讃美歌メドレー G.ラングフォード(‘87北の沢小)
バンドのための第1組曲より I.シャコンヌ III.マーチ G.ホルスト ( ‘88福島小)
祝典のための前奏曲 E.グレッグソン (’88北の沢小)
ランド・オブ・マイ・ファーザー G.ラングフォード (‘88北の沢小)
コンサート プレリュード P.スパーク (‘89札幌南小)
ジュビリー序曲 P.スパーク (‘89北の沢小)
イギリス民謡組曲よりI、III R.ヴォーン=ウィリアムズ (‘89福島小)
ザ・プライズウィナーズ P.スパーク (‘90北の沢小)
「吹奏楽のための第1組曲」より I.シャコンヌ III.マーチ G.ホルスト (‘91函館青柳小)
クラウインペリアル W.ウォルトン (‘91北の沢小)
三つの讃美歌メドレー G.ラングフォード (‘91札幌南小)
大人のブラスバンド
日本での本格的なブリティッシュ・スタイルのブラスバンドは、1972年に設立された東京ブラスソサエティに始まったと言われています。東京ブラスソサエティはブリティッシュ・スタイル・ブラスバンドの普及と研究を目的に*4、東京芸術大学の中山富士雄氏を中心に音楽大学の講師や音大生等が集まり、日本楽器東京支店の協力で活動を始めました。初演奏は1972年5月21日に銀座ヤマハホールで開催された「"ブリリアント・ブラス"イギリスのブラスバンド編成による金管合奏(指揮 中山富士雄)」です。
救世軍
一方、救世軍では1895(明治28)年9月22日の集会でコルネットの演奏が行われ、1900年代初頭には金管楽器合奏が行われていたと推察できます。それは同じプロテスタント福音書系の「中央福音伝道館」(1901-1917)でブラスバンドが編成されていたことからも明らかです。note1931年(昭和6)「喇叭の吹き方」にあるように布教活動の一環としてのブラスバンドの活動が重要視されていたのがわかります。この活動は救世軍を中心に100年を越える歴史を持つことになりますが、信者の活動に留まっていました。1979年にはニュージーランドの救世軍バンドであるウエリントン・シタデルバンドが来日して全国各地(東京、浜松、大阪、名古屋、京都、前橋)で演奏会を開催しテレビとFMラジオでの放送や日本のレコード会社によるレコーディングもおこなわれました。なお、1995年には救世軍の楽譜が一般公開(発売)されることになりました。
海外バンドの来日
それまで海外留学経験者や救世軍バンドの演奏に触れたわずかな人々しか聞いたことのなかったブラスバンドの実演奏が、1970年に始まる海外ブラスバンドの来日公演により多くの人々が耳にしたことにより、日本のブラスバンド団体創設の大きなきっかけになったと考えることができます。
1972年の東京ブラスソサエティ創設に始まる日本のブラスバンド団体の創立は年を追うごとに加速して全国各地に広がっていきました。
北海道の大人状況
吹奏楽コンクールで小学校の部が開始される以前に札幌市民交響吹奏楽団の1975年頃の定期演奏会でブラスバンドの編成で演奏をしたことがあると聞いた記憶がありますが、確かめることができていません。
ブラスバンドの結成
2000年頃から北海道内でもブラスバンド結成の機運が高まり、各地に継続的な活動を目指すブリティッシュ・ブラスバンドの結成がなされました。それらの団体が集まって、2010年5月15日にはサッポロファクトリーを会場に4つのブラスバンド(Obrigado Brass Consort・The Brioso Brass・ブリティッシュブラス札幌・函館ブラスアンサンブル)が集まる「ブラスナイト」という演奏会が開催されました。この演奏会は2019年まで他に開場を移す年や参加団体の増減もありながら継続開催されました。
2022年には縮小・イベント名変更して札幌ちえりあで開催、2023年5月には遠軽メトロプラザを会場に5バンドが参集して「ブラスバンド・ショーケース」が開催されます。
ブラスバンド・ショーケース 2023.5.6
オブリガードブラスコンソート (Obrigado Brass Consort)
指揮 木鋤義昭 参加人数 28名 北見
① Home Of Legends (Paul Lovatt-Cooper)
② Mini Fantasia On A London Theme (Robert Collinson)
③ Light As Air (Goff Richards編曲)
④ I Will Follow Him (Stole/Roma/Plante arr. Goff Richards)
⑤ MacArthur Park (Jim Webb Alan arr. Fernie)
おとふけブラス
指揮 太田 究 参加人数 26名 音更
①優しいあの子 (草野正宗 arr.佐藤丈治)
②Tone Poem Resurgam -I Shall Rise Again (Eric Ball)
③Demelza (Hugh Nash)
④ゴジラのテーマ - 怪獣大戦争マーチ (伊福部昭 高橋宏樹 arr.大瀧美和)
ザ・ブリオーソブラス(The Brioso Brass)
指揮 大熊勝映 参加人数 16 旭川
①ARSENAL (Jan Van der Roost)
②Elza's Procession to the Cathedral (Richard Wagner arr. William Himes)
③シンフォニックジブリ on ブラス (久石譲 arr. 上岡洋一)
④Samba Temperado (大野雄二 arr. 泉修)
ノーザンクリスタルバンド札幌・ブリティッシュブラス札幌
指揮 平出 能 参加人数 24人 札幌
①Prismatic Light (Alan Fernie)
② Highland Cathedral (Michael Korb & Ulrich Roever arr. Andrew Duncan)
③Breezin’ Down Broadway! (arr. Goff Richards)
④ A Malvern Suite (Philip Sparke)
マスバンド
指揮 ひらいでちから 99人
① Walking with heroes (Paul Lovatt-Cooper)
② Hope (Stijn Aertgeerts)
③ Horizons (Paul Lovatt-Cooper)
北海道のブリティッシュ・ブラスバンド
(活動停止中を含む)
2003 Obrigado Brass Consort (北見)
2023.3.5に20周年記念演奏会を開催しました。
2004 The Brioso Brass (旭川)
2023.1.28 に第17回演奏会を開催しました。
2005 ブリティッシュブラス札幌 (札幌)
2019.12.7に第15回 定期演奏会を開催しました。
***** 函館ブラスアンサンブル (函館)
2009.1.4に第17回定期演奏会を開催しました。
2009 おとふけブラス (音更)
2022.9.18道の駅おとふけでコンサートを開催しました。
2012 ノーザンクリスタルバンド札幌 (札幌)
2019.11.4に第6回定期演奏会を開催しました。
2017 くしろブリティッシュブラス (釧路)
2017.5.16帯広で開催のブラスナイトに参加しました。
2019 日吉ヶ丘ブリティッシュブラス (函館)
2023.1.17 に第2回演奏会を開催しました。
*1 喇叭鼓隊(らっぱこたい)はピストの無い数種類のラッパと大太鼓・小太鼓で編成された吹奏楽の一形態。
*2 鼓笛隊(こてきたい)はファイフ(横笛)と大太鼓・小太鼓で編成された吹奏楽の一形態。「ザ・ファー・イースト」を読む その4をご覧ください。
*3 北見地区大会に最初に小学生バンドが出場したのは、1969年(昭44)の留辺蘂小学校(吹奏楽編成)です。北見地区の記録では翌1970年から3年連続で全道大会に出場したとあります。
*4 我が国におけるブラスバンドの変遷に関する一考察 兵庫教育大学大学院 森田満 P.83
writer Hiraide Hisashi
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