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時そば台本



江戸っ子の好きな食べ物には
そばってものがございます
昔から屋台なんかでは 
にはちそばなんてのが
16文で提供されていたわけなんですが
今の値段だと400円ぐらいという
手頃な値段で食べれるもので
ございます
まぁそういうそばをめぐる
お話ってのもあるんですけど

「そーばーうーう、うー」

「おー、蕎麦やさん!
  ちょいとこっちきてくれ!」

「へい!どうも」

「いやぁ蕎麦やさん 今日は冷えるね。」

「いやぁもう お寒うございますね」

「でね、実はね、ちょいとそばを 
   食いたいんだけど 何があるんだい」

「えぇ、花巻に、しっぽくでございます」

「おぉ、花巻にしっぽくかい。
   そいつはけっこうだね
 それじゃあね、ちょいと
    しっぽく 熱くしてくれねぇかな」

「へい、わかりやした」

「そいえばね、蕎麦やさん 
   ちょいと気になるんだけどね
 おめぇさんとこの 屋号 
   これはなんてぇんだい
 的に矢があたってるねぇ  
   ずいぶんかわってるじゃねぇか
 これはなんだい?」

「はぁ これでございますか えぇ 
   手前どもは 
 的に矢が当たっておりましてな 
    これで当たり屋ともうしております」

「当たり屋さんかい 
   なかなか縁起がいいじゃねぇかよ
 実はね おらぁね ここでもって 
    ちょいと 蕎麦たぐったあとにね
 わきでもって がらっぽん 
   悪い遊びをしようってんだ
 そこいくってぇんで 当たり屋ってのは      景気がいいじゃねぇか
 いやいやこいつは景気がいいねぇ
 あぁ でもなんでぇい お前さん 
   近頃 しょうべぇの方は」

「いやぁ これがねぇ 
   さっぱりでしてねぇ」

「そいつぁ けっこうだね」

「作用でございますか?」

「そりゃそうだよぉ 昔からね 
  商売ってぇのはね
 回り越しなんだよ
 いいやつがいれば 悪いやつもいる 
    ね? でも
 辛抱しなくちゃいけねぇよ えぇ
 辛抱してやっていりゃぁよぉ 
    いつかこう めぐりめぐって
 いいめがでるときだってあるんだよ
 だからな 商売ってのはな 
   飽きずにやらなきゃいけねぇ
 商いってぇぐれぇのもんだ」

「はぁ なかなか 面白いことを 
 おっしゃいますなぁ
 どうも お待ちどうさま」
「ああ いいねいいね 
こうやってね 一言二言会話を交わして
 スッと蕎麦が出てくる 
やっぱりこうじゃなきゃあな
 おれは江戸っ子だから 
気が短けぇんだ あぁ
 いつまでもね 
ぐずぐずぐずぐず待たされたんじゃぁ
 蕎麦は延びちまうし 
くうきだってなくしちまうってんだい
すって出てくる 
ってのはいいじゃねぇかよ

いいねぇ 割り箸だよ
いゃぁ食い物のしょうべぇだ
近頃はね エコがなんだか知らねぇがね
ぬり箸出してくるとこがあるってぇんだ
綺麗に洗ってるかもしれねぇけどよ
誰が使ってるかわかんねぇじゃねぇかよ
そこにいくってぇよ
この割り箸ってのはぁねぇ
結構じゃねぇかよ
(箸を割る音)
いやぁねぇ この割り箸の割る音
ってぇのがいいんだよねぇ

ちょいと おっ (器を見る)
いいねぇ (間) 物は器で食わせろって
言うけどよぉ いい丼使ってんじゃ
ねぇかよ いやいや こういうのがね
いや別にね お前んとこの蕎麦が
不味いって言ってるわけじゃ
ねぇんだけどよ
こういうのをね 目で見て楽しむって
こういうのが大事なんだよ

またまた香りがいいじゃねぇかよ
かつ節踊ってんね
こいつぁ楽しみだね
(汁をすする)
っあぁ
思った通りだ へへへ
いい味だよ
こいつぁ蕎麦も楽しみだねぇ
どれどれ(蕎麦を上げる)
おぉ (間) 細いねぇ
やっぱりねぇ 蕎麦ってのはこう
細くなくっちゃいけねぇよ
おめぇ なかなかうめぇよ ええ
てぇしたもんだよ

中にはさ
このうどんみてぇに太ぇもんがあってよ
あんなもん お前
人間の食うもんじゃねぇよ
病人が食うもんだってんだよ
(蕎麦をすする)
おぉ う〜んいいねぇ
すっと喉越し これだよ
蕎麦ってぇのはねぇ

お、大したもんだよ
いやぁしっぽくだからよ
竹輪がへぇってるってのはわかるよ
でもいいのかい
こんなに厚く切っちゃって
いやぁこれで儲けでんのかい?
そうかい?
でもおめぇところはいいぜ
他所ん時はだめだぜ
ちくわぶなんてまがい物だすとこ
あるんだよ
ち く わ ぶ
あらぁ 麩ってのはぁなぁ
人間が食うもんじゃねぇんだよ
金魚の餌なんだよ
あぁ いやぁこうじゃなくちゃいけねぇ
(熱々の竹輪を食べる)
おーいいねぇ 味が染みててまた熱々
だけど、こういうもんじゃなきゃいけねぇよ
(美味そうに蕎麦すする)
あー美味かった
えーどうもごちそうさん
あーもういっぺぇといきてぇ
とこなんだけどよ
他所でいってまじぃもんやっちまった
いっぱいで勘弁しておくれぃ」
「ようござんすよ」
「そうかい、勘定いくらだった?」
「へぇ、16文になりますが」
「そうかい!銭こまけぇんだ
    手ぇ出してくんねぇか?」
「へぇ、ではこちらに」
「いくよ!ひー、ふー、みー、よー
    いつ、むー、なな、やー
    蕎麦屋さん 今何時でぇ?」
「へぇ、ここのつでぇ」
「とぉ、十一、十二、十三、十四、十五
    十六、あばよ」と


さぁ男は帰っていってしまいます
その様子を影からじーっとこう
見ている男がいまして

「なんだよ、あの野郎は え?  
    散々蕎麦屋のこと 褒めちぎってよぉ
    んなもん、蕎麦なんてのは 昔からねぇ
    はなまきに しっぽく
    値段だって16文って
    決まってんじゃねぇかよ
    いやぁねぇ
    あんまり褒めちぎるもんだから
    あの野郎よぉ 食い逃げでも 
    するんじゃねぇかとおもってぇ
     俺は見張って やってやったんだよ
     食い逃げ野郎を
      こぉってやって とっ捕まえて
      恩を売るってぇと
      蕎麦の一杯ぐらい
      タダで食わしてくれんじゃねぇかなと
       思ってよぉ
      でもあの野郎 普通に銭へぇって
      帰っちゃったよな
      じゃなんだって あんなこと言うんだ?
     ただあの野郎、妙なところで
     随分、時を聞いてたよなぁ?
     ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー
     なな、やー
     蕎麦屋さんなんどきでぇ?
     へぇ   ここのつでぇ
     とぉ だなんて
     あんなこと言ってたら 
      まちげぇちまうよなぁ?ん?

     ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー
     なな、やー
     蕎麦屋さんなんどきでぇ?
     へぇ   ここのつでぇ
     とぉ 十一  おぉ
     なるほど (手を打つ)
      あの野郎 1文誤魔化しやがったな」

ようし、俺もやってやろうなってんで
奴さんよせばいいのに
その晩は細かい銭の持ち合わせが
ありません
翌日、ちゃんと用意しますってぇと
昨日よりいくらか 早い時間出てきまして

「そーばーうーう、うー」

「おー、昨日の蕎麦屋きやがったな
    おーい、蕎麦屋ー!」

「そーばーうーう、うー」

「おーい!蕎麦屋!」

「そーばー」

「おい!!蕎麦ー!!待てコノヤロウ!
   そばやー! 」怒鳴り声

「ちょちょちょ
    な、な、なんですかあんた!」

「なんですかじゃねぇよ!俺さっきから
    よんでんじゃねぇかよ!え?おめぇ
     耳遠いのかよ!聞こえねぇのかよ
     どうなってんだよ」

「何でもございませんが。えーっと
    蕎麦でございますか?」

「そうだよ!蕎麦食いに来たんだよ」
「へぇ、いらっしゃいませ」

「けど、なんだな。(汗拭って)寒いな」

「いやあんた、汗かいてたでしょ」

「今走ったから熱かったんだよ!
    昨夜は寒かった」

「あーそうでしたなぁ
     冷えこみましたな」

「でよ、おめぇんとこ そば
  何できるんでい?
      花巻に、しっぽく?そうだよな。そうだよ
      おりゃ 知ってんだよ。
       知ってて声掛けたんだよ
       じゃあ しっぽく熱くしてくんねぇか 」
「へい、わかりやした」
「でよ、おめぇさんとこ、早速屋号
    褒めてやろうじゃねぇか
    おめぇんとこ…
    的に矢が当たってないねぇ
    丸にま ってかいて なんていうの?」

「実は手前 こないだ初孫が 
 生まれましてね
 それがまぁ嬉しかったもんで 
 ああいう字を当てまして
 孫やと」

「おういいじゃねかよ おめでとう
 おめでとう。でね おりゃこれからね
 ここで すっと そば食って
 わきでもって、もう悪い遊びをしよってんだよ
 ガラっポンとな 博打だよ!
 そこ行くてぇとよ てめぇんとこ 
 いいじゃねか まごまごしちゃうんだぃ
 ・・・駄目なんだよ まごまごしちゃ へへへ
 まぁいいやいいや
 まごのことなんか どうだっていいんだよっ
 でぇどうでぃ 近頃景気の方は?」
 
 「いやこれがもうたいそう儲かっておりまして」
 間
 「なんでいちいち逆らうんだよ
  儲かってんの? まぁ でもいいや。
  あのな、いいか、世の中の景気ってのは
  回り持ちなんだよ。今いいったって
  油断すると悪くなるぞ。でもな悪くなったってぇも
  いんや~ 駄目だ 嘆いちゃいけねぇ。おう
  辛抱しなきゃいけないんだよ!
  飽きずにやらなくちゃいけないんだよ。」
 「へぇ 商いと申します。」
  間
 「はい。知らなかったの昨日の蕎麦屋と
  俺だけか。あそう まぁいいや、
  でぇ とりあえずそばは? あ、どうも
  ありがとう はいはいはい、まぁいいや
  とりあえずそばでてきたからね。
  でもなんでぇ よそ行くってぇとあれだぜぇ
  塗り箸使ってるとこあるんだよ
  あんなのいけねぇよ 
  いくら洗ってるか知らないけどよ
  他人の使った あんな訳わかんないもんじゃねぇ
  するってぇとな おめぇんところはな
  割りばし・・・ おぉ 割ってある割りばしだよ・・・
  いいねぇ・・・うん。しかもさ  先にネギぶら下がってるよ
  え?何?本当に誰も使ってないの?
  本当にぃ?いや でもいいよ 俺そういう細けぇこと
  気にしねんだよ
  わってあるってことは 割る手間が省けてるんで
  薬味がここについてると そう思えばいいんだよ
  俺はそういう細かいこと 気にしねんだよ
  江戸っ子だから、ね
  物は器で食わせろってんだよね器が↓汚ねぇ器なぁおい
  ごめん、これ洗ったの?洗ってんのホントに?
  すごいね~。いや、どっからどう見ても これ汚いよ
  まぁまぁ でもなんでぃ、熱々のものが入ってるって
  ことはよ それでもって煮沸消毒してんだよ。
  そういうこと気にしねんだよぉ
  ねぇ こう鰹節がおどって 蕎麦の香りが(すぅ~~うぇっ)
  なんかすごいっ あの今まで嗅いだことのない
  匂いなんだけど   これ何、何で出汁とってんの?
  あ、聞かない方が身のためです?
  わかった怖くて聞けないよ。
  聞かないよ、わかった いいよいいよ。
  どんな出汁だって旨けりゃいいんだよな。(ずーっつ、ぶーっ!)
  何?!ソーシャルディスタンス?!
  そんなもん気にしてられないよ!!!!
  あのさ、蕎麦つゆってさ、甘いとか辛いとかしょっぱいてのは
  わかるよ。なんでお前の 苦くてエグイんだよ 
  おかしいだろこれ??
  俺目覚めちゃったよ ったくよぉ いいや!
  いいんだよ別に! そばつゆなんかどうだって
  肝心のそばだよ、江戸っ子の食う 蕎麦ってのは細いんだよ!
  太いのはうどんなんだよ!
  病人の食うもんなんだよ!えぇ お前のとこのは・・・
  すげえ太てぇな    なんだこれ?
  これ山梨の ほうとうぐらい太いね。
  いやいいよ・・俺病人だから・・うん 
  このぐらいでいいんだよ な?
  のどごしさえ 良ければ いいんだよ
  喉すっと 入っていきゃ いいんだよ
  (ずーっ、うぅ~っ)
  詰まった、ゴホゴホ。コシもなんもねぇ
  まさかね 俺蕎麦食って 窒息しそうになるとは
  思わなかったよ。 まぁまぁまぁいいよ、いいよ!
  俺はね、寛大な人間だよ 江戸っ子だから
  我慢してやるよ ねっ!!

  しっぽくってぇことは ちくわだよ
  ちくわさえ入ってりゃって・・
  これどこでちくわ入ってんだよ!!
  入ってる??本当??   ごめん。あった。
  これ、あんまり薄いからさ。丼の模様だと思ってた。
  薄いねこれまた そばあんなに太いのに
  なんでこんな 薄くちくわ切れるの?

  ほら、お前の面 こうやって 透けて見えてんだよ。
  もう名人だよ  まぁでもね、いくら作ったって
  本物だったらいいんだよ よそ行くってぇとあれだぜ
  ちくわぶ つかってとこあんだよ。
  ちくわぶってのはなぁ 金魚の餌だよぉ なぁ
  (すっー)こう 舌の上で すっと溶けたよ。

  本物の麩だよ いいんだよ、俺ぁ先祖 禁教だから
  え あ ごめん あのさ、よそでっていうか
  いやこれ以上まずいものないんだけど
  あの一杯で勘弁してくれよ」

  「えぇ何杯でも結構でございます」
  
  「おぉそうかい!!(パン!!)。えーと 
   おめぇんとこ勘定いくらだったかな?」
  「えぇ16文でございます」

  「そうかい??銭こまけぇんだ 
   手ぇ出してくんねぇか?」
  「えぇ じゃ こちらへ」
  「じゃ行くよ! ひー、ふー、みー、よー、いつ、むー
   なな、やー 蕎麦屋さん、今何どきでぇ??」
  「へぇ 四つでございます」
  「四つかよーーー いつ、むー、なな、やー・・・」
   
   時そばでございます どうもありがとうございました。


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