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サウナーのためのサウナ学

「ああ、自分もそんな年齢になったのか、、」
ある日銭湯でロッキングチェアに揺られながら、そう感じてしまった。

私の父も重度のサウナ―であり、よくサウナ室に向かう背中を見送ったものだ。その父の付き添いでサウナに入ったときは、蒸された密室でおじさんが野球や競馬を見ながら黙々と汗を流している異様な雰囲気に圧倒された。

子供からするとたまったものではない。

そんな負のイメージしか持っていなかった私がものの見事にサウナにハマり、今では週に1回はサウナに行かないと調子が出ないように感じるようになっている。

これは私に限った話ではなく、世間も空前のサウナブームであり、サウナに入れば20代の若者が半数以上を占めることも珍しくない。「おじさんの趣味」であったはずのサウナがなぜここまで世の中に求められ、愛されているのか。
ここに私なりの「サウナ学」を記したい。

1.サウナの効果

サウナには様々な効果がある。
一度でもサウナの経験がある人であれば、なんとなく体の疲れが取れたり、頭がすっきりしたりと、その効果を感じたことがある人も多いのではないだろうか。

サウナが流行している要因として、3つの観点からその効果を考える。

サウナのもたらすメリットとは何か?

1-1.身体的効果

代表的なサウナの効果として、発汗に伴う身体的な効果が挙げられる。
サウナに入ることによって発汗や血流が促進され、老廃物の排出と、血管や心臓の増強が期待できる。
また、血流の変化により身体の凝りがほぐれ、疲労も回復する。

さらに副次的な効果として、発汗や血流促進により深い疲労感を感じることで良質な睡眠が得られるうえに、身体の免疫力も向上すると言われている。

1-2.精神的効果

続いてサウナによる精神的な効果として、サウナ・水風呂・外気浴のサイクルによって交感神経と副交感神経がスイッチすることで、自律神経の働きが鍛えられ精神が安定することが挙げられる。

イメージとしては、自転車で坂道を登った後はペダルを漕がずに下れるのに近く、一度つらい思いをすることで、その反動で精神が安定するということらしい。

1-3.情緒的効果

これは上記の2つの効果とは毛色が異なるが、サウナをサードプレイス(家でも職場でもない第3の場所)とすることで、心と身体のコンディションを整える効果も期待されている。

情報が散乱して常に何かしらの情報がインプットされるこの時代に、1人でじっくりと思考に没頭する時間を持つことや、新たなコミュニティの中で情報を発散することは、頭をクリアにして自身の内面と向き合うマインドフルネスや、新鮮な知見の獲得と整理に繋がる。
サウナはこれらの恩恵をもたらすサードプレイスとなり得る。

2.サウナ流行の理由

上記に挙げた3つの効果のうち、極論を言えば、身体的効果を得るためにはマッサージや長風呂でもいいし、精神的効果を得るためには寝るのが一番とも思える。
一方、情緒的効果をもたらす自分と向き合う時間は思うようには作れない。

そこで、情緒的効果をもたらすうえでのサウナの強みについて考える。

サウナならではの魅力とは?

2-1.思考の排除

最近よく耳にするマインドフルネスは、「日々の心配や不安な気持ちを思考から解き放ち、いま自分自身がここにいることだけを意識することで、心身のコンディションを整えることができる」とされているが、実際に体験するのは難しい。
私もヨガや座禅をしたことがあるが、無意識に他事を考えてしまうものだ。

しかしサウナは80~100度に蒸された特殊な空間であり、その過酷さから余計な思考が削ぎ落とされ、無心になれる。考えることといえば、サウナに入ってからどれくらいの時間が経ったかということくらいだ。

こうして自分と向き合う時間を無意識的に作り出せることが、サウナの大きな魅力の1つであると考えられる。

2-2.習慣化

「お風呂に入るのはいつも面倒だが、お風呂に入ったことを後悔したことは1度もない」という言葉に深く共感したことを覚えている。

温浴はそれほど日常に溶け込んでいるルーチンであり、温浴の延長であるサウナは生活に組み込むハードルが低いと言える。
友人と共有できる趣味としてフックになりやすいことも、サウナが流行している要因ではないだろうか。

2-3.サウナの発展

他にも、近年のサウナの発展は目覚ましく、様々な個性を持つサウナが日々作られている。近未来風の芸術的な雰囲気の場所もあれば、大自然に囲まれる中で心からリラックスできる場所もある。

サウナの効果で挙げたように、サウナに求めるものはその時々によって異なるが、自分に合ったスタイルや雰囲気の場所を探し出すこともサウナの醍醐味である。

特に最近は上質な時間や豊かさを演出するハイエンドサウナが多く生み出されていることからも、自分と向き合う時間がより重視されているように感じる。

1人用サウナや客室のサウナなど、高級路線が進む

3.最後に

総じて、サウナブームの背景にあるサウナの魅力とは、自分と向き合う時間と場所を作れることではないかと思う。

時には最新鋭の技術に刺激を受けながら、時には大自然の中で癒されながら、また時には地元の落ち着いた雰囲気で落ち着きながら、家族や仕事、未来のことに想いを馳せる空間がサウナである。

あの日に見たおじさんだらけのサウナは、一人ひとりにとってかけがえのない空間であり、これからも多くの人の憩いの場となることを願う。

▼出典
・人生を変えるサウナ術 なぜ、一流の経営者はサウナに行くのか?- 本田直之・松尾大/KADOKAWA
・医者が教えるサウナの教科書 - 加藤容崇/ダイヤモンド社
・究極のサウナフルネス 世界最高の教科書 - 東洋経済新報社


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