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ノベリスト 第6話

第2章 澪 第一部

その3

祝賀会では、サンドイッチやスナック菓子やイオンあたりで売ってそうな寿司やオードブルが並んだ。軽い立食パーティみたいな感じだった。

   私がウーロン茶を飲みながらそれらの食べ物に手をつけていると、先程私に鋭い質問をした文芸ジャーナリストの赤池さんが笑顔で私の許へやってきた。

「先程はどうも失礼しました。なかなか骨のあるしっかりした作家さんだな...とは思いますよ...」

「あ...ありがとうございます」

  その後で彼女は手帳らしきものを取り出し、

「あの...私が寄稿してる『文芸.web』っていうサイトに池田さんのインタビュー記事を載せたいな、と思ってて、土日で構わないけど二時間くらい、まとまった時間は取れないかな?」

「あ、いいですよ。場所はどこになりますか?」

「普通に、御茶ノ水駅近辺のドトールかどこかで。ギャラも少し出るし、コーヒーくらいなら奢ります」

「ありがとうございます。勤労感謝の日あたりどうですか」

「ちょっと待って下さいね」

 彼女はスケジュールを確認した後、

「午後2時に御茶ノ水駅前のドトールでいいかな?あとLINEを交換しましょう」

  私は彼女とLINEを交換した。

「それでは、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

  そして彼女は私の許を離れ、出版社関係の人らしき男性の人達と談笑していた。

   私はウーロン茶を片手に、誰か有名な作家か誰か来ていないか会場を探した。

  そして会場の傍らにいた岸睦月を見つけた。

   私は岸睦月の「呪縛と束縛」という短編が好きだ。東京に住むSM嬢の話で、最後は好きな男の許で腹上死する物語で、耽美的でインモラルな感覚を追体験できる珠玉の短編だと思っている。

  私は岸睦月に思い切って話しかけた。

「こんにちは...岸さんですよね?」

「あ、こんにちは」

「あの、私、岸さんの『呪縛と束縛』の大ファンです」

 岸睦月は少し驚いた素振りで苦笑しながら、

「あ...高校生にしては、少し変わった趣味だよね...あれあまり評判は芳しくなかったけどね...」

「えっ、でも面白い短編だと思いますよ...」

 岸睦月は苦笑いして、

「はあ...そうですか...少し照れ臭いな...」

 その後で私は、

「あの、Twitterの相互フォローかLINEのアカウントの交換できますか?」

と岸睦月に尋ねた。

「Twitterで良ければ」

 彼はそう言って、私のTwitterをフォローした。

   祝賀会が終わり、関係者に挨拶して私は会場をあとにした。

   岸睦月とは、後日会う約束をTwitterのダイレクトメッセージでした。


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