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映画とトイガン:「マグナムブーム到来!その①『ダーティーハリー』という映画」

 1971年のアメリカ映画『ダーティーハリー』が日本で公開されたのは1972年だった。
 この年から日本のトイガンファンの間では、にわかにマグナムブームが到来する。

 映画『ダーティーハリー』で主人公のハリー・キャラハン刑事(クリント・イーストウッド)の愛銃がスミス・アンド・ウェッソン社のM29回転式拳銃だった。
 この拳銃に使用される弾丸が44口径のマグナム弾だった。炸薬が通常の拳銃弾より多いマグナム弾を使用する拳銃は堅牢で大きくなる。

 ハリーが使用するこの拳銃は通常、警官が使うような代物ではなく大きい。
 しかも、ハリーのM29は銃身が6.5インチと長いもので、短い4インチのものよりも、さらに大きく重い。

 警官が通常使用しないような大型拳銃をショルダーホルスターに差し込んで、武装した犯罪者と対峙した時は、すかさず抜いて的を外さない。
『ダーティーハリー』の魅力の一つは、この孤独癖のある無口でニヒルな刑事が、このような並外れた道具を使っているところだった。

 わざわざ、ハリーがこのような大きな拳銃を使うのは、なんとも奇妙な映画のなかの遊びなのだが、当時のアメリカ社会を考えると、これは必然であったかもしれない。

 ベトナム戦争の失敗に、アメリカ国民は強いアメリカの神話の一角が潰え去っていたことを知っていた。
 世界の秩序を乱すイデオロギーに対するデモクラシーの戦いが栄光の道から泥沼のなかへと沈み込んだのである。

 ハリーが追うシリアルキラーのスコルピオは殺人に使用するのは大日本帝国の二式テラ小銃、ナチスドイツのMP40型サブマシンガン、同じくナチスドイツの軍用拳銃ワルサーP38だった。
 第二次世界大戦で、世界の秩序を乱そうとした日本とナチスドイツのファシズムにアメリカは果敢に戦って勝利を収めた。
 しかし、ベトナム戦争では、社会主義勢力との戦いに事実上、敗北したのだ。

 いま一度、世界の秩序を取り戻したファシズムとの戦いを思いだそう。
 世界の秩序はサンフランシスコという都市というアレゴリーに姿を変えた。
 それが『ダーティーハリー』の一つのテーゼだ。

 ハリーが持っている大型拳銃S&W社のM29は劇中では単に44マグナムと呼ばれている。
ハリーは拳銃を構えて、反撃してきそうな相手に口上を述べる。

But being this is a 44 Magnum, the most powerful handgun of the world and will blow your head clean off……
(しかし、こいつは44マグナムといって世界でいちばん強力な拳銃だ。お前の頭なんか、きれいさっぱり吹っ飛ばせるぞ)

 映画『ダーティーハリー』に隠されたテーマは別にして、この44マグナムと刑事という小道具の関係は、映画を鑑賞する者に大きな魅力となった。
 それまで、西部劇であっても、戦争映画であっても、刑事ドラマであっても、主人公と結びつく強大な銃という発想は少なかった。
 テレビドラマの『拳銃無宿』におけるスティーブ。マックイーンが演じた、賞金稼ぎのジョッシュ・ランドールが持っている銃身を切り詰めたライフルとか、マカロニウェスタンでの『続荒野の用心棒』でフランコ・ネロが演じたジャンゴの機関銃だとかがせいぜい記憶にとどまる程度だ。
 ヒーローと並外れた武器というのは、西部劇や戦争映画ではまあ存在できても、よりリアルな世界に近い刑事ドラマでは見当たらなかったのだ。

 当然ながら、映画ファンもトイガンのファンもハリーの44マグナムに夢中になるのは、こうしたインパクトからだ。

 日本でも1972年、『ダーティーハリー』の公開とともにトイガンファンはハリーの拳銃を求めた。
 ところが、この頃は44マグナム、つまり、S&W M29モデルのトイガンは日本には存在していなかったのだ。

コクサイ製のモデルガン、S&WM29。
1970年代ではトイガンファンからは
44マグナムの名称で親しまれた。

(マグナムブーム到来!その2へ続く)

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