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中島知久平の「必勝戦策」。第一圖 昭和十八年航空航防戦状況

 まずはページを上げまーす。

 打ち込みまーす。

 所で之等の飛行機に対し、如何に攻防戦を展開して来るかを図に表せば第一図、第二図の如くになります。

 第一図は昭和18年、即ち本年に於ける航空攻防戦の情勢を表したものであります。日本の飛行機は現在双発爆撃機が最大でありまして、攻撃半径は一八〇〇キロメートルでありますから、各基地より防衛圏を畵けば赤線の如くなります。

 アメリカの空の要塞は現有のものはボーイングB-17型が標準型でありまして、馬力は1200馬力4発、総馬力4800馬力、航続距離は5400、5500キロメートル、速力は500キロメートル、爆弾積載量は、二瓲でありますから、攻撃半径は大体2700キロメートルであると見られるのであります。2700キロメートルを半径とした攻撃圏を畵きますと青線の如くになります。

 従って、本年の空の要塞の危険は殆どありません、ただB-29型が少数本年末迄に出来たとものを以て、やって来る場合には被害はありますが、数が少ないから、大したことはなかろうと思われます。

 航空母艦機は攻撃半径は800キロメートルを超えず、又、ノースアメリカンB-25型の如き陸上双発爆撃機を積載して来たとしても、その攻撃半径は1800キロメートルでありますから、青線の如くになり、彼等が餘程の冒険行為に出でざる限り日本本土攻撃は不可能であります、昨年の4月18日に遭った様な冒険行為は、常に繰り返し行うことは出来るものではないから、大体本年は日本の国防態勢は微動だにすることはないと思うのであります。

 打ち込み終わり。今回は意訳しなくても十分に伝わるかと思います。

 短縮、及び砕けた表現をすると、

「飛行機の攻防戦を世界地図で示しました。昭和18年は日本の双発爆撃機の性能を考慮し、各基地に点在すれば赤いラインまで防衛圏が設立します。

 アメリカのB−17爆撃機の性能を画くと、青線(※太い線)までです。本土空襲の危険はありません。ただ、B-29が年末に襲来するかもしれませんが、微々たる被害でしょう。

 空母から発進する艦載機の性能を考慮したのが青線です(※細い線)。敵が余程の無茶しなければ日本本土攻撃は不可能です。昨年の4月18日に遭った行為(※ドーリットル空襲)

 常に繰り返しは出来ないので、今年の国防態勢は安心です」

 あたりでしょうか。知久平さんは警鐘を鳴らしつつも、上層部をまずは安心させる文言を出しています。危機感のない上層部にエリートパニックに近いようなものを抱いていたのかもしれません。

 日本が第二次世界大戦に突入する前から、日本本土では「防空練習」をしていました。しかし「日本本土が空襲されるってことは、負けの一歩だよ(だから国防の考え方を変えなさい)」と痛烈に批判した、新聞記者の桐生悠々を思い出す人は多いでしょう。


 発表したのが昭和8年、8月という。これを発表したら彼が所属している新聞社の不買運動が起きたという。「人は欲するものしか見ない」ユリウス・カエサル、であり、何より日本人のDNAレベルの「縁起でもないことを書きやがって!」という言霊信仰でしょう。

 とはいえ、軍部は危機意識があった上での「防空大演習」という意味にもなりますので、「旧日本軍の上層部無能論」には、疑問符がつきますね。無論、上層部と現場の温度差は、軍に限らず企業や政府組織にもよく見られる現象です。 

 では、次回はB-29が登場する昭和19年の第二図の説明を打ち込みます。

 キャー! 青線が日本本土を跨いでいる。

 はい。今日の旧仮名遣いのお勉強です。

畵←画く

瓲←トン


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