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カメラマンがライターを兼任することの強み

 2020年9月11日、銀座の喫茶店にて「カメラマン兼ライター」の武山智史氏(以下、武山氏)による講義が開催された。この講義では武山氏がカメラマンとライターを兼任するメリットを中心に、具体的なエピソードを交えて生の話を伺うことができた。

 まず、武山氏に関しての簡単なご紹介から。武山氏は「カメラマン兼ライター」という肩書で活躍されており、ライターとしては「新潟高校野球展望号」や「ベースボール神奈川」「報知高校野球」などに記事を寄稿。カメラマンとしても、現在出版されている「激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち」「球伝 Kyuden」などの書籍のカバー撮影などを担当。2016年からは新潟県のアオーレ長岡にて、野球の写真展「グラウンドの主役たち」というイベントも開催されている。

 カメラマンとライターの両方を兼任している人は少ないとのこと。そんな中、武山氏は兼任するメリットとして2つ話してくれた。

 1つ目は、カメラマンしか入れない場所に入れること。例えば野球の取材の場合、ライターとしての取材だと試合中は記者席しか入れないことが多いが、カメラマンであればベンチ横のカメラマン席など、より選手に近い場所を行き来することができる。ベンチ横であればそれだけ近くで選手の様子を見ることができることはもちろん、選手の表情もよりわかりやすく、選手の声なども聞くことが可能だ。そこで見たものが記事の切り口になることもある。

 今年の夏に開催された、令和2年度新潟県高等学校夏季野球大会の決勝。試合は中越高校が日本文理高校に勝利したのだが、試合後の優勝インタビューの時の話だ。中越高校の勝利監督インタビューや主将へのインタビューが行われた際に、武山氏はふと、敗れた日本文理高校のベンチにカメラを向けた。すると、日本文理高校の鈴木崇監督や選手が、立ってインタビューを聞いている様子がレンズ越しに表れた。日本文理高校の選手はきちんと立ってインタビューを聞き、終了後には拍手を送っていた。スポーツマンシップに則った素晴らしい態度だと感じるが、武山氏いわくこれには伏線があるようだ。
 昨年日本スポーツマンシップ協会代表理事の中村聡宏氏による講義が、新潟県の高校野球部の主将向けに行われた。その影響もあってか、2020年1月24日には、日本スポーツマンシップ大賞のヤングジェネレーション賞に新潟向陽高校野球部の主将が選ばれている。そういった背景もあり、武山氏が担当されていた『報知高校野球9月号』の新潟独自大会の原稿で、スポーツマンシップとの関連性にも少し触れた。この件はカメラマンとして、よりグラウンドに近い場所にいたからこそ気づくことができ、独自の切り口として原稿に加えることができたと言える。

 2つ目は、カメラマンとライターというそれぞれの立場を経験することで新しい発見があるということだ。例えばメモの取り方もその1つである。武山氏は取材をする時、聞きたいことを事前に箇条書きで整理しておくとのこと。ある日カメラマンとして武山氏が取材に参加した時、同行したライターの方がメインテーマを紙の中心に書き、その内容に関連することを枝葉がわかれるようなマインドマップに近い書き方をされていたとの事。

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<メモの取り方における事例を説明されている武山氏>

 このことに関して、武山氏はいろいろなメモの取り方があり参考になったと語っている。また、インタビューの仕方も人それぞれで、雑談から入ってから核心に迫る聞き方をする人もいれば、いきなり核心から入るなど様々な聞き方があることを学んだと武山氏は話してくれた。
 確かにライターとして活動しているだけでは、囲み取材などを除くと他のライターの方と同行するという機会は少ないかもしれない。その場ではカメラマンとして取材に参加したとしても、実際に他のライターの仕事の仕方を学ぶことができるのは、ライターとしても貴重な機会になるはずである。カメラマンであれば取材の内容によっては、事前にライターの方とどのような写真を撮るか打ち合わせをすることもあるだろう。そこでライターとしての考え方や視点についても、一緒に仕事をするカメラマンであれば話してくれることも多いはずなので、言葉は少し悪いがヒアリングをしやすい所もあるはずだ。

 反対にライターの立場になった時にカメラマンの経験が生かされることもある。例えば自分で記事をデザインすることができるという点だ。自分がライターとして仕事を受けていると、原稿を執筆する過程で「こういった写真がほしい」とイメージすることもあるそうだ。
 そんな時カメラマンとライターを兼任できる場合、欲しい写真を自分で撮ることも可能とのこと。それにより執筆するテーマに合わせた写真を用意してページを作っていく事もできる。写真もライターの方が撮る写真はポーズが似通ってしまうことも多いが、カメラマンとして様々な構図を撮る経験を積むことで、記事に使われる写真を撮るときにもバリエーションが出せる。カメラマンとライターという仕事が記事及びページを作るという点で密接に関わっているからこその話であり、なるほどと感じた。

 カメラマンとライターというそれぞれの職種は、雑誌などのページを作るにあたって、非常に関連性が強い職種と言える。だからこそ、兼任すればそれぞれ生かせることも多く、大きな強みになることもあるのだろう。今後ライターとして活動していきたいと考える受講生にとっては、学ぶことが多い講義だったのではないだろうか。

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