連続対談「私的占領、絵画の論理」について。その30「出かける面倒と出かける面白さと」
とうとう明後日です。
連続対談シリーズ「私的占領、絵画の論理」
第五回「絵画における人のかたちと外部」─及川聡子─
及川さんには作品画像などいろいろ準備していただいています。楽しみです。
加えて朗報です。及川さんには当日、作品一点と、更にサプライズ的な「何か」を持ってきて頂きます。実作を見られる貴重な機会ですので、お見逃しなく。
さて、今回で「私的占領、絵画の論理」第五回の事前準備のブログはおしまいなのですが、最後に一回、及川さんと関係ない話を書きます。コロナ禍の副産物として、美術における「現場至上主義」にも、見直しの機運が出てきました。各種シンポジウムはオンラインで行うことが常態化しています。これはかなりメリットがあって、端的に登壇者も参加者も地理的制約がなくなる。海外からだってアクセスできるわけです。このインフラが整ってきたのはすばらしいと思います。
また、展示についても一部に面白いものがありました。多摩美術大学彫刻学科の学生有志による「バーチャル彫刻展」がそれです。
タマビ バーチャル彫刻展
これがいわゆる「オンライン展覧会」と異なったのは、バーチャル空間のメディウム論的アプローチになっていることです。僕は一般的な絵画や彫刻のVR展示、あるいはgoogleストリートビュー的「オンラインで既存美術館を見て回る」系のコンテンツに興味がもてませんでしたが(無論そういう試みを捻出せざるをえなかった美術館なりギャラリーなりの切実さは想像できます)、タマビ バーチャル彫刻展は、そういう物とは異なる、あたらしいメディウム/メディアの創出に近い感覚を持ちました。
そのうえで、こういった可能性と排他的にならない形で、やはり「現場にでかける」意味、というものも再発見した、というのが僕の偽らざるところです。「私的占領、絵画の論理」は開始直後(初回が2019年12月の五月女哲平さんの回でした)にコロナ禍に襲われ、ほとんど合間を縫うように5回目を迎えたわけですが、なかば意地みたいに、現地集合現地解散を繰り返してきたところがあります。
意味はあったと思っていて、有原友一さんの回では有原さんの個展会場で開催できました。また他の回もすべて、作家さんに何らかの形で実作を持ってきていただきました。画像だけではない、実物の手触りを持ちながら作家さんご本人の肉体から出る声を聴くことが出来た(辻可愛さんのときは朗読なども行いました)のは、やはり現場に「出かける」ことにこだわってきた成果だと思っています。
戸塚伸也さんの回では、けっこうな点数の絵画作品を持ち込んでいただきました。小規模ながら展覧会的にも見えたのです。
上述のように、及川さんにも作品を持ち込んで(なんと宮城からですよ)いただきます。絵を、画像としてではなく絵として見ることができる。加えて、ART TRACE GALLERYでは毎回、どなたかの個展を開催中に「私的占領、絵画の論理」をやっている。こういった作家さんたちの作品を見ることができるのも、「私的占領、絵画の論理」の面白さです。
なかば僕の宣伝になりますが、先に美術手帖webで執筆した「FACE UP」展も、コロナ禍の中で試みられた「現場で作品を見る」ための方策として興味深いものでした。
夏の手紙──擬態の技術、物流の技法
他にもいろいろな実践があったと思いますが、「私的占領、絵画の論理」もまた、2020年以後の美術の戦いの一翼をになったと言う自負があります。記録の動画も公開していないのは、現場の空気感、そこでしか共有できない感覚を重視し「情報」に美術を縮減しないためでもあります。
これは及川さんについてのブログでも書きましたが、三菱一号美術館での「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜ーモネ、ルノワール、ゴッホ、ゴーガン展」もまた、「実物」を見る意義を再確認した展覧会です。ゴーギャンの佳作に触れましたが、ほかにもセザンヌやモネの重要な作品を見ることができた。また、ブーダンやドービニーといった作家の良作がまとまって見られたのも収穫でした。なにしろイスラエル博物館です。現地で見るのは相当ハードルが高い。ここのコレクションを日本で見ることができるとは思いませんでした。
個人的な後悔としては同じ三菱一号美術館での「コンスタブル展」を見逃がしてしまったことで、会期の一部では開いていたにも関わらず、油断しているうちに緊急事態宣言で閉じてしまった。あれほど悔しい思いをしたのも久しぶりです。行政に対する美術館博物館の閉鎖対応については言いたいことがかなりありますが、「コンスタブル展」を見逃したのは、単純に僕の「出かける面倒」に負けた結果です。
このことも考え合わせると、やはり「出かける習慣」は回復しておいたほうがいい。とりあえず、20日の「私的占領、絵画の論理」第五回「絵画における人のかたちと外部」─及川聡子─、お待ちしております。
では、会場でお会いしましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?