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「すばる」2023年3月号にグレゴリー・ケズナジャット『開墾地』(講談社)の書評を書きました。タイトルは「エクソフォニーからの帰還」――。

本作は第168回芥川賞の候補作。

今回、「エクソフォニーからの帰還」というかっこいい(褒めてください)書評のタイトルをつけたのですが、僕はこの言葉がこの作品の全てを言い当てていると自負しています。作者のグレゴリー・ケズナジャットさんは一昨年、第二回京都文学賞の受賞作『鴨川ランナー』を刊行し、話題になりました。アメリカから日本へ語学教師として派遣され、念願の京都暮らしを実現した青年の疎外感、寂しさ、現実を前にした失望と諦念が、〈きみ〉という語りかけのなかでまざまざと表出されていたあの作品は、多和田葉子さんの言葉を使えば「エクソフォニー」の産物だったわけです。

エクソフォニーとは〈母語〉の外に出ることで、世界を眺めるその眼差しのあり方がどう変貌するかを思索するための概念。それまで文学の世界では、母語の外に出て書かれた文学といえば「亡命文学」や「植民地文学」といった政治的なフレームで捉えることが常とされてきました。だけど、エクソフォニーという概念はその視座をより拡張し、生まれた国の言語から離れる状態を、何気ない冒険として、つまり、政治性とは関係なく捉える可能性を示したのでした。(参考:多和田葉子『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』2003年)

僕はグレゴリーさんの『鴨川ランナー』はまさしくエクソフォニーの先で生まれた感情、言葉が押し詰まった珠玉の作品だと思っています。その意味で僕は、今回の、日本に長年滞在していた主人公が故郷に還り、自分と〈母語〉の関係性を掴み直す物語である『開墾地』はエクソフォニーからの帰還によって生まれた内面の葛藤を掬い取る小説だと考えています。書評にはそのことを書きました。ぜひ、書評も小説もお読みください。

ちなみに赤坂の本屋の「双子のライオン堂」でグレゴリーさんにインタビューした動画もあります。こちらも、もしよかったら、どうぞ。

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