脱水症,睡眠時無呼吸に関連した頭痛

仕事柄,頭痛を診ることが多い.
頭痛はgeneral neurologyと言われる分野で,脳神経内科としては外来でよく遭遇する疾患に当たる.

よく患者から言われるのが,「片頭痛があって…」,「片頭痛だと思っているんですけど…」という言葉.
医師でもなければ,知らなくておかしくないし,医師でも頭痛に普段から関わっていない医師は知らなかったりするが,本当は片頭痛には厳密な定義がある.

片頭痛の定義とは,
A. B-Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B. 頭痛発作の持続時間が4-72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす
 ①片側性
 ②拍動性
 ③中等度-重度の頭痛
 ④日常的な動作(歩行や階段昇降)などにより頭痛が増悪する.
  あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 ①悪心または嘔吐(あるいはその両方)
 ②光過敏及び音過敏
E. 他に最適なICHD-3の診断がない
(国際頭痛分類第3版: ICHD-3, 2018: https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html: )
である.

私自身の専門医試験の二次試験で以上の定義が問われた.
その時,試験官に問われたことの一つは,「体動で良くなるのは?体動で悪化するのは?」
答えは,「体動で良くなるのは緊張型頭痛,体動で悪化するのは片頭痛」.
こういう患者の体感も参考になったりする.

ところで,ここで出てきた緊張型頭痛というのが,大体の方が片頭痛と思っているものの正体だったりする.
肩凝りや眼精疲労,ストレスに伴って発症する,あるいは増悪することが多い.
頭痛体操や非薬物治療で軽快することもあるが,薬物治療が必要なこともある.
(頭痛体操: https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_728.html)

ここまでは良い.
でも,緊張型頭痛と診断されて,鎮痛薬など投薬加療をされている人の中で,別の頭痛じゃないかなという人がいる.
ここでは,臨床の現場で比較的見逃されやすい頭痛を2つ紹介する.

①脱水症
よく見逃される頭痛だったりする.よくわからない頭痛,緊張型頭痛,片頭痛と言われている人の中に一定数いる.
加齢と共に口渇中枢の機能が低下する為,年齢が上がるほど有病率が上がる印象がある.しかし,若年でなっている人もいる.
口渇中枢の機能の低下をわかりやすく言うと,身体が必要としている水分量に対して,摂取量がそれに満たなくとも喉の乾きを感じなくなることを言う.これが加齢と共に進行していく.
経口補水液で数時間から数日,長くて2週間程度で軽快,3ヶ月程度までに全快になる人が多い.
ちなみに,口渇中枢の低下と言えば脳梗塞.
特に夜間睡眠中,次いで入浴時が脱水になりやすいと言われる.また,カフェインを多く含むコーヒー,紅茶,玉露等でも脱水になりやすい.
以前,温泉地の近くの病院にいたことがあるが,温泉に入る,お酒を飲んで騒ぐ,起床時に脳梗塞というパターンが多く見られた.
科内で大塚製薬の協力の元,OS-1をOnSen-1とラベルして温泉地に配って,脳梗塞発症率がどれくらい下がるか研究しても面白いかもしれないと話していた.
話が脱線したが,以上の経緯から朝から頭痛がある人が多い.
この頭痛は循環血漿量が通常時より格段に増えている妊婦や授乳婦にも疑われることがあり,経口補水液で大幅な改善を認めることがある.
インターネットでてきとうに巡回していたら同様のことを記載している人がいた.
脳神経内科医は皆,似たようなことを考えているのだろうなと思う.
(大清水クリニック 脱水による頭痛のメカニズムと改善: https://oshimizu-clinic.com/2021/05/31/zutuu_dassui/)

②睡眠時無呼吸性頭痛
これも案外いたりする.同じく朝から頭痛がある人に多い.頭痛診療ガイドライン2021 p448から引用すると,
『睡眠時無呼吸性頭痛は睡眠時無呼吸が原因となり,朝に発現する頭痛で,通常は両側性で,持続は4時間未満である.睡眠時無呼吸頭痛は,以前考えられていたより頻度は低く,持続時間も長いとされる.睡眠時無呼吸患者では,一般の人々に比べて,朝に発現する頭痛が有意に多い.診断確定には終夜ポリソムノグラフィーが必要である』となる.

一般的に睡眠時無呼吸の患者では拡張期血圧が上がりやすく,そこから気付くこともある.睡眠時無呼吸は痩せ型の人でも案外いるので注意が必要である.
片頭痛でフォローされていた若年痩せ型の人で,拡張期血圧が高いことから睡眠時無呼吸性頭痛の可能性を考慮し,聞くといびきや無呼吸があるとのことであり,ポリソムノグラフィーを行うと重度の睡眠時無呼吸であったこともあった.
人は見かけによらないのである.
そして,血圧治療の際も注意が必要である.
(第59回 日本心臓病学会学術集会シンポジウム 「睡眠時無呼吸症候群と高血圧」: http://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jjc/pdf/J071-8.pdf)


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