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産婦人科①

【総合医育成プログラム研修記録】
今回は産婦人科領域の研修記録です。妊婦のかかりやすい病気や薬剤、胎児被曝などの内容でした。

妊婦と薬剤

・健常妊婦では、
  先天異常(奇形)の自然発生率 約3%
  流産の自然発生率 約15% 
  (妊娠・授乳と薬の知識(第2版).医学書院;2017)

・妊娠前~妊娠3週末:ごく少数の薬剤を除き、胎児奇形率は増加しない
・妊娠4~7週末:奇形を起こしうる
・妊娠8~12週末:小奇形を起こしうる
・妊娠13週以降:胎児機能障害の可能性がある

・妊娠3週までは「All or None」の時期。この時期に胎児に影響がある薬剤を使用し有害な影響があった場合、受精卵が着床しないもしくは流産になる。
・「生理が遅れた」という状況には注意が必要。既に妊娠4-5週の可能性がある。必ず、妊娠可能な年齢の女性をみたら「妊娠を考慮」する必要がある。

妊婦と薬に関連する内容は下記の参考書籍を参考にしてください。

妊婦のレッドフラグサイン

一般内科医が
 ⑴ 胎動減少
 ⑵ 破水
 ⑶ 子宮収縮
 ⑷ 性器出血
に出会ったら、産婦人科受診を勧める。

胎動減少について…
 胎動は妊娠20週前後で感じられるようになる
 胎児は20-40分毎に寝たり起きたりしている
 1時間動かないのはおかしい!
 例)胎盤が剥がれる→胎児きつい→動かない→胎動を感じない

子宮収縮について…
 子宮筋が収縮して固くなる+下腹部の痛みを感じる
 1時間に1-2回は生理的に収縮する
 例)1時間に4-5回収縮するのはおかしい

妊婦と感冒症状

インフルエンザ

妊婦~産後2週間は重症化しやすい 1)
・妊婦、授乳中の方で感染した場合や濃厚接触した場合は、タミフル、リレンザ、イナビルを使用する 2)
・ゾフルーザ、ラピアクタはデータが不十分
インフルエンザワクチンは全妊娠期間で投与可能 3)
 妊婦はインフルエンザワクチンをしていた方が良い

1) 10 Mar_22021_WHO influenza clinical guidelines
2),3) 妊娠中のお薬Q&A | 国立成育医療研究センター (ncchd.go.jp)

新型コロナウイルス感染症

妊活中、妊娠中、授乳中もワクチン接種可能
・妊婦がCOVID-19に感染したら
  胎児の奇形リスクの増加はない
重症化早産のリスクが高くなる(特に妊娠後期)
  母乳で感染する報告はない
・入院すれば、一般的にレムデシビル(ベクルリー®)を使いながら、中等症Ⅱ度以上でステロイド投与を検討する。ニルマトレビル/リトナビル(パキロビット®)は禁忌ではない。胎盤透過性の低いプレドニゾロンの使用が一般的に進められる
・モルヌピラビル(ラゲブリオ®)、エンシトレルビル(ゾコーバ®)は妊婦に禁忌
・上気道症状に使って良い薬剤
 発熱  アセトアミノフェン
 咳嗽  デキストロメトルファン、麦門冬湯、はちみつ
 咽頭痛 はちみつ、アセトアミノフェン
 鼻汁  抗ヒスタミン薬、点鼻薬

https://www.mhlw.go.jp/content/001136687.pdf

気管支喘息

・妊娠女性の1/3で喘息の悪化がある。特に妊娠中期に悪化しやすい
・妊娠中の喘息治療薬は継続する。
・胎児への悪影響は報告されていない。(以下薬剤)
 吸入ステロイド、β2刺激薬、ロイコトリエン拮抗薬、テオフィリン

感染症

・妊婦がなりやすい感染症:腎盂腎炎
  妊婦の無症候性細菌尿は治療対象!
  熱が無くても尿検査で細菌尿がある場合は治療する。
・妊娠女性で診断しにくい疾患:虫垂炎

・妊婦に使用できる抗菌薬:ペニシリン系、セフェム系
・妊婦に禁忌:キノロン系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、ST合剤
・若い女性に妊娠の可能性を聞かず、キノロン系を処方するのは危険性がある。

妊婦と腹痛

便秘

・意外に多い便秘。
・必ず虫垂炎と常位胎盤早期剝離を除外すること!
・妊娠中の便秘改善に有効な方法は、「食物繊維の摂取が勧められる。効果が十分に観られなければ下剤の使用を考慮。」
・酸化マグネシウムは使用することに問題はない。
・センノシドやピコスルファートナトリウムは、下痢傾向になったときに子宮収縮につながるので、一般内科医であれば、産婦人科医に相談しておく方が良い。

虫垂炎

妊娠中の急性腹症の中で最も頻度が高い。穿孔すると早産や胎児脂肪のリスクが上昇する。疑ったら「エコー→単純MRI→単純CT」

ここで、放射線被曝と胎児への影響についてまとめます。

【妊娠中の放射線被曝の胎児への影響】
・受精後10日まで:奇形発生率の上昇なし
・受精後11日~妊娠10週まで:胎児被曝は奇形を誘発する可能性はあるが、50mGy未満では奇形発生率を増加させない
・妊娠9-26週:中枢神経障害の可能性あり 100mGy未満では影響しない
・妊娠27週以降:中枢神経系に影響しない
・造影剤は妊娠中に極力使用しない

産婦人科診療ガイドライン産科編2023

産婦人科診療ガイドラインによれば、「通常の撮影で用いられる被曝量であれば、催奇形性リスクは上がらない」。「妊婦はCT撮影ができない」というわけではない。下記の表によれば、腹部CTで最大49mGyであり、50mGy未満である。妊娠中であっても診断にCTが必要な場面では撮影を行わざるを得ない。ただし、患者家族には医学的事実を丁寧に説明する必要がある。

妊娠と医療放射線ICRP https://www.icrp.org/docs/P84_Japanese.pdf

常位胎盤早期剝離

腹部エコーで、①胎盤の厚さが5.5cm以上②胎盤の中や裏に血腫がある、場合は常位胎盤早期剝離を考え産婦人科に即連絡する。

 日本産婦人科学会https://www.jaog.or.jp/note/6%E5%B8%B8%E4%BD%8D%E8%83%8E%E7%9B%A4%E6%97%A9%E6%9C%9F%E5%89%9D%E9%9B%A2/

円靭帯痛

・妊娠20週前後に起こる鼡径部・側腹部の痛み
・子宮増大により円靭帯が引っ張られて痛い
・体交で改善する(⇒経過観察でよい)

妊婦と腰痛

・妊娠22週から腰痛が出現する。
・鑑別疾患:腎盂腎炎、腰椎ヘルニア、恥骨離開、脊椎すべり症
・対応:鎮痛薬(アセトアミノフェン)、運動・鍼灸
 禁忌:NSAIDS入りの湿布や内服のNSAIDS

モーラステープにはケトプロフェンという非ステロイド性抗炎症薬NSAIDSが含有しており、動脈管収縮や羊水過少症の原因となっている。多くの湿布にはNSAIDSが含まれている。NSAIDS含有していない湿布は、温湿布と冷湿布がある。

医薬品・医療機器等安全性情報 https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/312_1.pdf

妊婦と頭痛

妊娠高血圧症候群に注意する
血圧140/90mmHg以上はダメ!
・血圧上昇→頭痛、目のチカチカする感じ
・降圧薬:メチルドパ、ニフェジピン、アムロジピン

*一般内科医が対応せざるを得ない場合は、産婦人科医へ相談すべき。
*過度な血圧低下は、胎盤血流を下げるため胎児に影響を与えてしまう。

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_akagi_ikeda.pdf

その他

漢方薬にも注意を

・大黄:子宮収縮につながる
・麻黄:子宮血流低下につながる
※短期使用は可能だが、注意が必要

ステロイド軟膏

・安全に使用できる
・胎児奇形、胎児死亡、低出生体重児などにつながらない

点鼻薬、点眼薬

・安全に使用できる
・血管収縮薬が含有されている点鼻薬は極少量に留める。

受講:2024/2/25

最後に

妊婦に薬剤を処方するときは非常に気をつけます。時間がかかっても必ず調べるようにしています。インターネットで調べるとき、信用できる情報源にたどりつくまで時間がかかることがあるし、かゆいところに手が届かない情報もある。そのような経験から、下記の本が一番おすすめ。救急診療をすることがある人には、「女性の救急外来 ただいま診断中!」が手元にあると助かる場面が多い。


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