睡眠薬の処方を避けたい理由
お薬手帳を見るとデパス、マイスリーなど睡眠薬を漫然と飲んでいる高齢者が多いです。
患者 「眠れないの」
医師 「眠り薬、出しておくね」
という会話だけで処方されているのでしょう(もっと別の会話もあるのかもしれませんが…💦)。
睡眠薬、特にベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の処方を避けたい理由を打ち明けます。
睡眠薬とは?
そもそも、睡眠薬とは何か?睡眠薬には、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、その他の薬剤、の3種類に分かれます。非ベンゾジアゼピン系薬剤は、‘Z-ドラッグ’とも言われます。
<ベンゾジアゼピン系>
超短時間型 ハルシオン
短時間型 レンドルミン、リスミー、エバミール
中間型 ユーロジン、サイレース
長時間型 ドラール
<非ベンゾジアゼピン系>
超短時間型 アモバン、マイスリー、ルネスタ
<その他の薬剤>
メラトニン受容体作動薬 ロゼレム
オレキシン受容体拮抗薬 ベルソムラ、デエビゴ
ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系ともにベンゾジアゼピン受容体(正確にはGABA受容体)に作用して睡眠を促す効果があります。‘非’ベンゾジアゼピン系と言っても、やってることはベンゾジアゼピン系と同じ。
ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の効果
睡眠薬なので眠りやすくなる効果は理解できます。具体的にどのような効果があるのでしょうか?
高齢者における効果は、
総睡眠時間 25.2分 延長
夜間覚醒回数 平均0.63回 減少
です。
それに対し、好ましくない効果は、
記憶障害 4.78倍 増加
日中の倦怠感 3.82倍 増加
です。つまり、短期的には睡眠時間を延長し、わずかだが夜間覚醒を減らすが、副作用もある、ということです。
ベンゾジアゼピン系は、8か月以上の連用で常用量依存形成すると言われています。つまり、漫然と使っていると、いつの間にか効かなくなって、
患者 「最近薬が効きにくいの」
医師 「じゃ、増やしとくね」
という流れで、薬剤が増えていくことになります。依存形成すると薬剤を中止しにくくなります。長期間時間をかけて漸減中止する必要があります。できる限り短期間の使用に留めたいところです。
ベンゾジアゼピン系薬の有害事象
よく言われているのは、
・認知症
・骨折
・死亡
・転倒
・肺炎
・せん妄
です。頻度は低くなりますが、非ベンゾジアゼピン系でも同様の有害事象は見られます。
処方を避けたい理由
ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系の効果はあります。徐々に効かなくなるのは事実で、知らぬ間に依存形成していることも事実です。
特に高齢者の場合、認知機能低下、転倒、骨折、肺炎などと健康寿命や生命予後に寄与しそうなイベントを起こしてしまうリスクがあります。かといって、眠れないつらさも理解します。今では新しい薬剤も出始めており、可能な限り、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬を1st choiceにしています。
しかし、「マイスリーじゃなきゃ困る」と言われる方も多いです。
心の中では、「年齢が上がるにつれて眠る時間は短くなるし、昼間寝てるなら、夜は眠れなくなるのは当然だし…。足腰弱ってきてるから、別の薬にしてほしいな~」と嘆いております。
それでも希望される方は、ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系を処方するときは、「短期間に留める」、「漫然と使わない」、などの意識をもって処方するようにしています。
できるだけ薬剤に頼らない睡眠ができるように「睡眠12か条」を一読してほしいものです。
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