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悪い状況を「受け入れられない」わけじゃない

悪い状況とは、例えば、病気が進んで、もうどうしようもない状態。誰が見ても、「先が長くないな」って感じるような状態。そんな状態をイメージしてください。
(以前、記事にupした「悪い知らせ」のような定義はありません。)

医療者間での会話で、「あの患者さん、病気のことを受け入れられないんじゃないの?病状を受け入れてもらった方がいいのだけど…ね」という言葉が時折見られます。「(何かしらのことを)困ったな~」と感じている医療者の気持ちが言葉になっているのでしょう。(おそらく)ネガティブなニュアンスはありません。

こんな場面を想像してください

50歳代の男性。食道がんと診断され、その当時、余命半年と言われました。本人の気持ちもあり、ありとあらゆる治療を行い、診断後2年目を迎えました。徐々に、食道がんの進行、がん性胸水、誤嚥性肺炎を繰り返す状況となりました。胸水貯留で、右肺はほとんど機能せず、ちょっと動くと、酸素化が低下(SpO2 80%前後)し、はぁはぁ、ゼーゼー言う様子がありました。ベッド上でじっとしていれば、酸素化は十分合格点(SpO2 95%以上)でした。

排泄するときは、ゆっくり起き上がり、「はぁはぁ」、「ゼーゼー」と言いながら、病棟のトイレを利用します。

病棟スタッフ「〇〇さん、きつそうだから、ポータブルトイレを使ってもいいと思いますよ。」
患者さん「別に苦しくないから大丈夫。さっとトイレに行けば大丈夫。だからいらない。」

徐々に、体力も落ち始め、動作も鈍くなって、トイレに間に合わなくなり始めました。下着を汚すことも少しずつ増えました。

病棟スタッフ「〇〇さん、もしよかったら、ポータブルトイレとか、紙パンツのようなものを使っても…」
患者さん「いや、大丈夫よ。」

患者さんの気持ちと病棟スタッフの提案が、良い感じに交わることなく、平行線のままで時間だけが進んでいました。

よくある光景

トイレに失敗すると、患者さんは「あー、悔しい、情けない」と語られます。下着を汚さないようにするために、ポータブルトイレを準備したり、オムツを勧めたりします。オムツをつける、ポータブルトイレに頼らなければならない事実は変わりません。
患者さんが抱いている「情けない」という思いを完全に解決することは、医療者は理解しています(おそらく理解している方が多いと思います…、きっと…)。
代替手段を提案するのは、下着が汚れないことが「情けない」という気持ちを軽減してくれることもあると知っているからです。

医療者は「受け入れてほしいな」と思ってしまう

先の例のような患者さんのように、いつもの対応ができないときにどうするか…。医療者は悩みます。
悩んだ末、「(身体が悪くなっているので、いつもできたことができなくなっていることを)受け入れてほしい」という考えに至ってしまうようです。

さて、「受け入れる」必要があるのでしょうか?

私の答えは、「受け入れられる人もいるし、受け入れられない人もいる」です。(中途半端な答えなのは理解しています💦)

今回のように、がんにより身体機能低下が明らかである状況、つまり、悪い状況を「受け入れる」かどうかは、患者さんの’心の状況’次第です。
「受け入れる」or「受け入れられない」を議論するのではなく、『受け入れられない』ことを受け入れるようになりたいものです。同時に、ある程度のリスクを考慮し、患者さんがしたいことを実現できるような工夫を整えていく、支えることを重視したいものです。

先の例では、今の時期では対応が難しいかもしれませんが、病棟トイレに近いベッドに移動する、可能な範囲で付き添ってみる、などでしょうか。

少なくとも、「あなたの身体はこんなに悪くなっているから、トイレに行くのは難しいので、ポータブルトイレにしてください、オムツにしてください」と医学的に説明することが答えではないと思います。

「感じさせなくてもいいんじゃない?」

はっ! とさせられた言葉があります。

「病気を感じさせなければいいじゃん」

そんなことってできるのかしら?と思うかもしれません。なかなか難しいのでは?と思う私。
がんだけでなく病気の進行で身体機能は衰え、できないことが増えます。身体機能が失われていくのは、患者さん自身がより実感していて、より「悔しい」と思っています。少なくとも、周囲にいる医療者が「できた」と認識することが、患者さんの「悔しい」気持ちを軽減できるのではないでしょうか。

先の患者の例であれば、

  • (きつそうにトイレに行っていたけど)「トイレに行けましたね」

  • (下着をちょっと汚してしまったけど)「便がでてよかったですね」

患者さんが、嫌だなって思っている部分を、別の言葉に置き換える。ポイントは、少なからず「できてますよ」という言葉に置き換えること。

今回、記載した内容がすべての答えではありません。患者さんごとに合ったコミュニケーションが必要なのは皆さんもご存知の通りです。1つの工夫として皆さんに届いたら幸いです。

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