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【ちそうの学校#3 レポート】 野母崎の内と外の関係性を模索する

12月16日(水)に行われた第三回「ちそうの学校」。今回もその内容と見どころをダイジェストにまとめてお届けします!

第三回は「地域資源の観光化と生態系維持のはざまで」というテーマについて、お二人のゲストをお招きしてトークセッションを行いました。

■ゲスト紹介

ゲスト1人目は、人口減少時代を生きのびるための地域社会のデザイン研究・実践を専門とする井上岳一さん(日本総研 創発戦略センター シニアスペシャリスト)。昨年出版された『日本列島回復論 : この国で生き続けるために』では、障害者ケアにおける回復(リカバリー)の考え方を応用した高度成長期以降の日本が進むべき道筋について深く考察がなされており、これからの地域社会について興味ある方は必読です。

2人目のゲストは野母崎在住のイラストレーター山本春菜さんです。イラストレーターとして活躍するかたわら、「長崎伝習所のもざき自然塾」塾長として野母崎の自然についての調査・学習・発信を行うなど、地域の自然を財産として守り、活用していくための活動を行っておられます。

▽ゲスト詳細

井上岳一(日本総研 創発戦略センター シニアスペシャリスト)
1994年東京大学農学部林学科、2000年米国Yale大学大学院修了(経済学修士)。農林水産省林野庁、Cassina IXC(家具・デザイン雑貨の製造・販売)を経て、2003年に日本総合研究所に入社。大企業からベンチャー企業までの経営コンサルティング、中央官庁の政策立案支援、自治体の支援(特産物づくり等)に従事した後、2010年より創発戦略センターに所属。創発戦略センターでは、持続可能な社会システムの創出に向けたインキュベーション活動を行っている。

山本春菜(イラストレーター)
1985 年福岡生まれ。福岡教育大学生涯芸術課程卒業後は、ヨーロッパの美術品を扱うアンティークショップに入社。かたわら、福岡県「芦屋釜の里」にて芦屋釜復興を担う職人の手伝い、鹿児島市平川動物公園の動物生態画を描く仕事にも携わる。2015 年、長崎市地域おこし協力隊として野母崎地区に着任し、2018 年夏まで野母崎の文化や自然の調査および情報発信を中心に活動。以降はフリーのイラストレーターとして、継続して野母崎に在住。

そして毎回同様、長崎アートプロジェクト ディレクターの林 曉甫(NPO法人インビジブル 代表)と同キュレーターの桜井 祐(TISSUE Inc. 共同設立者)を交え、4人による恒例のトークセッションが行われました。

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トークセッションの様子(左上:井上 左下:パブリックビューイング会場中央:林 右上:山本 右下:桜井)

「地域資源の観光化と生態系維持のはざまで」というテーマはどこから?

今回のテーマは「地域資源の観光化と生態系維持のはざまで」です。これは「ちそうの学校」第1回の感想について野母崎で話していたときに、山本さんから聞いた話がきっかけでした。

(山本)私は野母崎の自然を地域の財産として守るべく、多くの人々が正しく理解してもらうことを目的に、自然に関する発信を行ってきました。

ただ、情報発信を行うことでそれまで知られていなかったことで守られていた「野母崎の自然に関する情報」が世に広まってしまい、一部の人による自然を乱す行為を誘発してしまっている側面があるんです

生態系を守るべく知識を持ってもらおうと行っている行為が生態系を壊すことにつながってしまっているという点で、どうすればいいのか悩んでいます。

今回のトークセッションの目的は、このような自然維持の問題をどのように捉え、どのように向き合っていくべきかを模索することです。

トークセッションは山本さんが上記で語った内容をプレゼンし、参加者に問題提起する形で始まりました。それでは、具体的に見ていきましょう。

■野母崎の自然と問題

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(山本)野母崎にはイルカや日本での観察事例が1〜2しかないような希少種の渡鳥も渡ってきます。魚や鳥だけでなく、オオカバマダラというような、虫の渡りの中継地にもなっています。

とにかく自然が豊かで魅力的。これは地元の方も感じていることだと思います。というのも、以前野母崎夢塾でアンケートを取ったのですが、「子どもたちに残したい野母崎の魅力」は圧倒的に「自然」だったんですよね。

アンケート結果でも明らかなように、野母崎の魅力は自然の多様性。しかし、現在山本さんは、このような自然あふれる野母崎の魅力をSNSで発信することを躊躇っています。なぜなら、野母崎ではある問題が発生しているからです。

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それは野母崎の自然がテレビやSNS、Youtubeというメディアで拡散されることで、自然破壊の原因にもなってしまうということ。その一例が、釣り人がゴミを残していく問題です。

(山本)釣り人以外の事例もたくさんあるのですが、オキアミ(魚の餌)を現地にポイ捨てしたり、コンビニのゴミ箱に捨てたり、釣ってもいらない魚を袋に入れてその辺に捨てたり。不要になったものや持って帰りたくないものを、そのまま野母崎の土地に捨てていきます。釣り人全員がそうではないとわかっているのですが、訪れる人の母数が増えると、やはりマナーの悪い人も増えます。

マナーの悪い人が増えると、当然町の人もいい気はしません。もしかすると、観光客と地元の人が対立してしまう可能性もあります。現に野母崎では、一部で釣り人のゴミに対する怒りの声が上がってきています。

魅力を発信したいのに、発信したらマナーの悪い観光客が増えるかもしれない……トークショーの冒頭からすでに、山本さんのジレンマが伺えます。

では単に観光客が来るのを禁止すればいいのか?この問題に解決策はあるのか?
山本さんの問いに対して、井上さんを始めパブリックビューイングの方やYoutubeのチャットからも意見が多数集まり、議論は一層深まっていきます。

■解決策はあるのか

(井上)漁師さんには漁業権というものがあります。これは地域の漁師の生活を守るために設定されていて、メンバー以外は魚が取れないんですね。法律ではそのようにして土地の生活を守ってきました。国や行政の視点で考えると、何かが問題になった時、じゃあ法律で取り締まるか、となります。でも山本さんはそういう取り締まる行為にはモヤモヤを感じているわけですよね。
(山本)そうです。例えば「釣り人のゴミ問題があるから、釣りを禁止するのか」という点について。海に関しては釣りは自由漁業だし、子どもが自然に触れて魚というものを知るためのいい機会だと思うんです。こんなにビチビチはねるんだ、鱗はこうなってるんだ、とか。規制することは、良い側面を奪うことにもなってしまいます。

規制は簡単だけど、それはある種の死だと思うんですね。なんとか生き残らせる方法に頭を捻らないと、人間に有用性がないものは全部絶やしていいの?っていう、思考停止に陥りがちだと思います。共存できるやり方の模索が大事だと思っていますが、難しんですよね。ただ、一足飛びに我慢の限界だ、禁止しようとは思わないです。
(井上)経済学的には「共有地の悲劇」という風に説明されるんですよね。海などで自分一人がとっても大丈夫だろうと思って、結局全員で取り尽くすようなことを指すんですが。この共有地の悲劇をなくすには、
①国家権力で規制する
②完全に土地を分け与えて私有財産にして自分の財産の中で管理する
という方法が挙げられます。

あと一つ、昔から日本には、森でいう入合(いりあい)のような、
共有地として設定して仲間内で管理する仕組み
があります。メンバーシップを決め、独自のルールを作って管理する仕組みです。これもある種、共有地の悲劇を免れてると言えます。

悲劇を防ぐには、この3つくらいしかないのではないか、というのが研究の蓄積なわけです。この話に沿って考えると、今回の釣りの問題点は、訪れた人たちを海を守る仲間として設定できないってところですよね。

「禁止」や「規制」は解決策ではない。ではどうすればいいのか。一貫してシリアスな雰囲気で進む議論。しかしディレクター林による提案で雰囲気は一変します。

ここまでのトークでは自然保護について考えてたが、自然保護じゃなくてビジネスや観光、どんなテーマを選択するとしても、どういう状況が生まれれば野母崎の明るい未来につながるのかを考えよう土地と人が対立している状況を考え直そう、という提案です。

■土地の人と観光客の関係性

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林の発言により、前半とは異なる流れによって展開される議論。ここで見えてきたのは、土地の人と観光客の行き着く点が対立だと負荷がかかる、ということです。ここから対立以外の関係の模索が始まります。

(井上)例えば神奈川の真鶴町は神奈川唯一の過疎町村だったけど、2015年から泊まれる出版社ができたんですよね。で、ひたすら町を歩くんですよ。さらに出版機能もあるから真鶴の良さを発信できて。すると質の良い人たちが訪れるようになる。商店街のコロッケを美味しそうに食べてくれると地元の人も悪い気はしない、すると地元の人におもてなし精神ができる。ひと昔前は余所者のように見られたけど、今はみんな挨拶してくれるんですよ。過疎町村だったけど、今や社会ゾーンになったんです。

この例ではつまり、余所の人の関わり方が、町歩きというコンテンツで変わったんですよね。外の人にも町を開くし、内側の人も外の人とうまく交じらわせる、そういうインタフェースがあると結構変わるのではないでしょうか。関係が変わると、関わった土地に無体なことはできない人が増えていくな、と感じますね。地域の力が上がってきてると感じます。

外と内の融合を目指して議論は進みます。さて、野母崎の自然、ひいては野母崎の未来のため、熱い議論の果てにどのような結論が出たのかは、ぜひご自分の目でお確かめください……!

⏬続きは以下のリンクから視聴できます!⏬

■終わりに

今回は野母崎が実際に抱えている問題点からスタートし、普段よりも特に熱いトークショーとなりました。

「地域資源の観光化と生態系維持のはざまで」
という、出口の見えない難しいテーマに対しても、他所からくる人と住んでいる人、対立以外の関係性を考え、そして「ちそうの学校」の目的である、各々が持っている「知(知恵・知識・知見など)」を共有し、折り重ねていくことで、明るい糸口が見えるのではないか、と感じさせられました。

ゲストによって異なる様相を見せるトークショーの次回は2021年1月20日(水) 19:30〜、以下よりご視聴いただけます。どうぞお楽しみに!

▽テーマ
ちそうの学校 #4 「長崎恐竜物語」

▽日時
1月20日(水) 19:30-21:00

▽配信URL
https://youtu.be/x5jcLRh20TM

▽ゲスト
中谷大輔(長崎市教育委員会 恐竜博物館準備室 学芸員)
1984年生まれ、北九州市出身。山口大卒。2012年鹿児島大大学院理工学研究科博士後期課程単位取得退学。同年から佐賀県立宇宙科学館(武雄市)学芸員。2017年10月から現職。

▽聞き手
林 曉甫(長崎アートプロジェクト ディレクター/NPO法人インビジブル 代表)、桜井 祐(長崎アートプロジェクト キュレーター/TISSUE Inc. 共同設立者)


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