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『読書 本を読む女』 (演出:勅使川原三郎 出演:佐東利穂子)

アップデイトダンスNo.102『読書 本を読む女』 (演出:勅使川原三郎 出演:佐東利穂子)を観る。
ローベルト・ムージルの長編小説『特性のない男』を読む女性。読書をしている彼女の姿を観ている私たちは、次第に彼女が読書している時に起きている内的体験の旅、様々におり重なった意識の層の旅を追体験することになる。
テキストの題材としては兄弟の近親相姦とも恋愛とも友情とも判別がつかないような不思議な人間関係が描かれている。
読書していた彼女が動き出すその身体は、読む行為というその外装的な姿から、読む行為のさなかに生まれる深層意識での内的体験の姿へと変化する。熾火のように燻った欲望のうねり、「ながめ」のようなぼんやりとした欲情が、形を変え続ける流体のようにうねり続ける。その動きは流麗でよどみなく官能的である。彼女の動きの中で印象的なのは、手の残像がまるでシャッタースピードの低いカメラで撮影したかのような軌跡を描き続けていることだ。
やがてテキスト内容の変化に伴い、それ以前の内的な官能性から、人と人との関係と葛藤の次元に移ると、身体の動きも流麗な官能性から、人の感情やそれに伴って生まれる仕草をトレースするような形になる。深層意識の形にならぬ形の変化の官能性から、表層意識の、形に囚われた感情や人間関係の葛藤へと変化する。そこにはそれまでの引き込まれるような美しさは失われ、息苦しさ、不自由さを追体験する。
その後テキストは変化し、ある深淵、闇と対面し、自分が自分であることから引き剥がされるような、全ての存在がどこにも帰着できない、あらゆるところから引き剥がされた絶望感と頼りなさを感じさせられる次元に移る。身体の動きも再び、表層意識の次元から深層意識の次元へ、最初のようにある種流体のような内的な表現へと移る。しかしそこには最初にあった官能性や流麗さはない。どこにも行き着けない頼りなさと苦悩、自分自身からをも引き剥がされて抜け殻のように取り残された身体。
やがてまた、本を読むという行為に回帰していく。
そして本を閉じる。窓の外の夜の闇を見、向き合う。読後の余韻と共に闇の深淵の残り香を漂わせながら舞台は終わる。

完成された舞台表現や、難易度の高い身体表現を観る、ということとは別な体験。向こう側にある「作品」という完成物を観るのとは異なる体験。作品という形づくられる以前の、存在の裸体のうねりと向き合うかのような体験。様式からは漏れてしまったもの、漏れたまま掬い上げられないものは確実にあって、あくまでも個の表現を磨き続けてきた勅使川原さん、そして佐東さんだからこそ掬い上げることができ、私たちにその存在を知らせてくれたのだと思う。


『読書 本を読む女』 佐東利穂子の集大成と言えるソロダンス。 存在し踊る身体、朗読の声、そして様々な音楽によるダンス や文学を超える「読書」する生命、深く激しく感情がさまよう。 本を開け本を閉じる女は物語を変容させる。 勅使川原三郎

https://www.st-karas.com/news_jp/

-公演概要-
アップデイトダンスNo.102「読書 本を読む女」
演出.照明 勅使川原三郎
出演 佐東利穂子

日程 2024年1月12日(金)ー1月21日(日) 
1 月12日(金) 19:30開演
1 月13日(土) 18:00開演
1 月14日(日) 16:00開演
1 月15日(月) 19:30開演
1 月16日(火) 休 演 日
1 月17日(水) 休 演 日
1 月18日(木) 19:30開演
1 月19日(金) 19:30開演
1 月20日(土) 16:00開演
1 月21日(日) 16:00開演
*全8回公演
*開演30分前より受付開始、客席開場は20分前
*全席自由席
【劇場】カラス・アパラタス B2ホール
【料金】一般 予約 5,000円/当日 5,500円 学生/予約・当日 2500円
〈ご予約方法〉 
・KARAS予約 フォーム アップデイトダンスNo.102 ご予約フォーム
・メール予約 updatedance@st-karas.com
件名を「アップデイトNo.102」とし、本文にご希望の日付・一般または学生・枚数・住所・氏名と日中連絡のつく電話番号をご記入ください。予約は前日24時まで受け付けています。開演後の途中入場不可。

主催:有限会社カラス 企画製作:KARAS

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