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親の介護が始まった日・第二話「診断の結果は・・・」

息を切らし家に着き、玄関を開けると、母が病院に行く準備をしていた。子供は心配そうに居間の戸びらからこっちを見ている。

「おかえり、母さん、行ってくるね。タクシー呼ぶから、子供よろしくね。」
「うん、ありがとう。ママ(嫁さん)が帰ってきたら交代して、俺も車ですぐ病院行くよ。」
「分かった。」
母は車の運転免許を持っていないので、タクシー会社に電話した。普段より早口になり、明らかに動揺しているのが分かった。電話口でタクシー会社のオペレーターに伝える家の場所の目安に手こずっていた。

電話を済ませた母に、父の保険証と多めにお金を持った事を確認し、子供のもとへ。
子供も空気を察し動揺している。
「パパが帰ってきたから、もう大丈夫だよ。」
なんとか子供を落ち着かせように笑顔を作る。

そうこうしているとタクシーが自宅前に到着。
顔を硬らせながら靴を履いている母に、落ち着く様に伝え見送る。
私はとりあえず連絡したママの帰宅待ち。
その間にお腹が空いたであろう子供に食事を作り、風呂の支度をした。
しばらくしてママが帰宅。
なるべくゆっくりした物言いで現状をママに伝え、母が教えてくれた病院に車で向かう。
「気を付けて…」
ママの声にうなづく。
「じゃ、あとよろしく。行ってきます。」車のドアを開けてシートに座る。
深呼吸をしてからエンジンを掛ける。
正直、深呼吸をしても落ち着くわけがないが…
行きの車中は頭が真っ白だった。

病院に到着。
病院の夜間用のインターホンを押し、父の親族である事を伝え、看護師さんに案内され、処置室の前へ。長椅子に座り、目を閉じ、うつむく母に声をかける。

「ああ、パパ。」
「大丈夫?」
うなづく母。

「父さんの具合は?」
「今は点滴打って寝てる。さっきCT撮ってきたって。診断はこれから。」
「そっか、お疲れ様。何か温かい飲み物でも買ってこようか?」
「…そうね。」
母の声に力が無い。疲れている事が分かる。

私は自販機で温かいペットボトルのお茶を買いに行き、すぐに戻って母に渡した。
母はお茶は飲まずに、両手で温かいペットボトルを握り、暖をとる。
私は母の座る長椅子に腰をかけた。

しばらくして看護師さんから処置室に入る様に促される。

処置室に入ると、父は奥のベットで点滴を受けながら寝ていた。
顔の右半分に大きなガーゼを貼り、右の腕にも包帯が巻かれていた。
挨拶を交わし、医師から説明を受ける。

「とりあえず今のところは大丈夫ですね。」
ホッと胸を撫で下ろす母。

「先程、CTを撮ったんですけれども、ここの白い部分、分かりますか。ここに血のかたまり、血栓が出来ていて詰まっていますね。脳梗塞ですね。他にもここや、ここにも、白い部分があって、何回か軽い脳梗塞していたみたいですね。お歳だから仕方ないんですがね。ただ、今回のは詰まった箇所が悪かったから倒れたんだと思います。今、水分を点滴で入れてます。それと、倒れた時に怪我した部分ですね。顔と腕に包帯をしています。まだ倒れて間もないので、この後に何か急変もあり得るし、とりあえず今晩は入院して様子をみますね。……あとぉ、私、脳外科医なんですけど、お父さん、パーキンソンじゃないかと。このCTを見ると、頭蓋骨と脳との間に隙間がありますよね。これ、脳が萎縮しているんですよね。何か思い当たる事ってありますか?例えば、足をズルような歩き方をするとか…」

「あっ、こう、なんて言うか、すり足というか、歩くのが遅いって感じてはいました。」っと母が医師に伝える。

「あぁ、それってパーキンソン病の症状ですね。……まぁ、とりあえず、今後なんですけど、状態と怪我の治り具合をみて大丈夫そうなら、血液をサラサラにするお薬を入れていきますね。まだ今の段階では何が起こるか分からないので、もう少し先になると思いますが。そして、麻痺がないかみて、必要ならリハビリも入れてく感じになりますね。……以上ですかね、はい。」

「分かりました、よろしくお願いします。」

お礼をし、ホッしつつ、父に目をやる。
目を閉じて、すやすやと寝ている父。
横でかなり疲れた表情の母。
とりあえず緊張から脱した私達は、今日は帰る様に医師に促され、病院を後にしました。

家に帰り、今の父の状態を嫁さんに伝えました。
子供は既に寝ていました。

翌日の仕事は休みを取り、母と病院に行き様子をみる事にしました。

……つづく

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