ストレンジャー『(5)念入りな黒幕』

 友莉が沈黙を破った。
「君を雇ったのは私の父、奥山源次郎ですね?」
「……言えない」
 そうだよなぁ。
「あくまでシラを切るつもりなら、アンちゃん!」
 掛け声と同時に、友莉のストレンジ『アン』が長剣を首に向ける。
「殺すなら殺せよ」
「くっ……」
 どうやらアンは尋問に向いてないらしい。きっと斬りつけると殺してしまうんだろう。
 それならと、肩に止まっているカラスに話しかける。
「なぁ、まず名前は?」
「ヤタって言うよ」
「あー、やっぱり八咫烏がモデルなんだな」
「そうそう」
『あと』
「えっ?」
『声を出さなくても意思疎通はできるよ』
『テレパシーか……』
『うん』
『頼みがあるんだけれど、友莉の尋問を手伝うことってできないか?』
『できるよ』
『頼む』
『オーライ!』
 ヤタが話し出す。
「モデルのように素敵なスタイルのお姉さん!じゃあ、ちょっとずつ火傷していくのは耐えられる?」
「なっ!」
 思わず声を上げてしまった。
 地面に根性焼きのような後ができた。
「これを全身にやられても、その威勢でいられるかな?」
「おい、なんか悪役ハマり過ぎじゃないか」
「靭がやれって言ったんでしょ!」
「そうだけれどさぁ、なんていうかさぁ」
 二人が爆笑した。
「靭さん、面白いです!」
「ははは、そうだねぇ、面白い。あんた達には敵わないわ。まあ、私も脅されていてさ……」
 和やかな空気を切り裂くようにテレパシーが伝わる。
『靭!この空間にもう一人誰か来た!』
『そんなことできるもんなのか?』
「まずい、誰か私を消しにきた」
「アンちゃん、構えて」
「お三方、さっきまで殺し合っていたというのに、ずいぶんとまあ、仲のよろしいことで」
 暗い部屋の隅から、ツナギを着た大男が現れる。
「くっ、あいつは……名前は知らないが、ストレンジは完全なパワー型だ!」
「黙れ負け犬が!」
「アンちゃん」
 アンは長身の女を庇ってクマの毛皮を被った大男のストレンジの拳を受け止めたが、そのまま弾き飛ばされた。
『ヤタ、お前パワーはあるのか』
『変身できる。でもあいつよりパワーはない』
『ダメか……』
『いや、でも勝てるよ』
『じゃあいくぞ!』
 対峙する。
「僕が相手だ、デカブツ」
「ふはは、というより、もうまともにストレンジを使えるのもお前だけだ」
「友莉、アンへのダメージは?」
「かなりあります。すごい力です、そのストレンジ」
 さっきのように舐めてかかれない。
「源次郎さんも念入りだと思ったが、まあ、その読みは流石だとしか言いようがないな。普通はこんな幻覚みたいなものを見せられて、まともに対応できる訳がない」
「……」
「恐ろしい才能だよ、靭、とか言ったか。個人的には好きなタイプだけどな。死んでもらう」
「いくぞ、ヤタ」
 ヤタは僕くらいの人型へ巨大化し、カラス天狗のような、仙人のような姿形になった。
「ふはは、なるほど、俺とパワー勝負しようって言うのか!だが、そんな俺のストレンジ『ベアーマン』の半分もない腕で、勝てると本気で思ってやがるのか!!」
 突進してきた。
 ヤタが背中の羽根で飛び、それに引っ張られて空中へ飛ぶ。
『こんなこともできるのか』
『うん、で、腕は伸縮するから見てて』
「飛べるのか!」
『靭!気合入れて合図!』
 叫ぶ。
「オラァ!」
 ヤタの黒い腕が伸びて、ベアーマンに一撃入れる。
「オラオラな靭さんも素敵……」
 聞こえてるぞ、友莉。
「なっ、俺ほどじゃないが凄まじいパワー!それより、速すぎる……」
『ヤタ、お前相当強いのか』
『正確には強いのは靭なんだよ』
『まあいい』
 地面へ降りる。
「おい、ベアーマン」
「ちっ、俺にも名前はある、が、なんだ」
「本当に勝てると思ってやがるのか?」
「くっ……」
「空に逃げることもできる。でも、ここはあえて、パワー勝負してやるよ」
「な、に……?」
「ヤタの今までの能力を総合すると、あることができる、って結論が出る。ベアーマンは不利だ。体力で勝つしかない」
「てめぇ、舐めるのも大概にしろ!」
「いくぞ!ヤタ!」
『承知した!』

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