ストレンジャー『(1)深夜の出逢い』

 *
 日本時間、二○十七年、八月二十二日の夜中。アメリカ大陸で起きた。それを縦断するように、皆既日食が。
 日食は為政者の力を時に奪うもの。そして、新しい世界を創造させるのである。

 彼は楽しく生きてきた。何度かの困難を乗り越えたこともあるが、それも振り返ると大したことはなかったとさえ思える。
 特に何もなさずとも、たとえそれで一生がどこか退屈でも、これからも楽しくやっていこうという決意は固かった。人並み未満の生活でも、それならそれで、と。
 名古屋市の東にある住宅街。
 そこで倒れている一人の女性と、彼の出会いが、この物語の幕開けだ。

 青年は形容し難いほど強靭で、そして、才能があった。
 この世界はそれを見逃すことがなかったのである。

 *
 公園の手前の道路に女の子が倒れている。誰もいないと思ったのに、たまにここに来ると大体誰もいないんだけれど、もう一回よく見ても、やっぱり女の子が倒れている。なんでやねん。関西の人に怒られてしまうな。名古屋生まれ名古屋育ちだから。
 離れてしばらく様子を見た。でも動く気配がないというか、ここからだと生きているかどうかもわからない。
 そうか。最悪は救急車と思ったけれど警察ということもあるのか。iPhoneをハーフパンツのポケットから取り出して、声をかけてみる。
「……大丈夫ですか?」
「……」
 通じる人には通じると思うけれど、返事がないからただの屍かもしれない。いや、それは勘弁してください。
 声が小さすぎたかなぁ……。
「だ、大丈夫ですか?」
「ん……あ……」
 お、返事があった。
 彼女の、ショートの黒髪が揺れて。
「お、おぉ……」
 思わず呟いてしまった。
 茶色の綺麗な瞳がこちらを捉えた。
 上半身だけ起き上がることができたか。
「ここ……は……?」
 お天気お姉さん並みの美声だった。
 妖艶かつ、澄んだ音色で、それは、
「えーっと、忘れた。ここなんて公園だっけな」
 僕の思考を奪い取った。
 くす、と彼女は笑った。
「あ、すみません。寝てしまっていたみたいです」
「……ここが家なんですかね」
「ふふっ、そんな訳ないじゃないですかっ」
「あ、うん、そうですよね」
「はい」
「あ、じゃあ、何ともないようですからこれで」
 立ち去ろう。背中を向けて一歩踏み出す。
 いや、なんとなーくだけれど、嫌な予感というか、トラブルに巻き込まれる感触がだな。
「あ!あの!」
「はい」
 背中を向けたまま返事をする。
「私ってなんて名前でしたっけ……」
 ほらみろ————
 このまま連れて帰る訳にもいかないし、警察へ行くしかないな。

サポートしていただけるとどんどん面白いことできるのでぜひお願いしまーすっ