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ベンチャーディールズ(34)タームシートに出てくるInformation Rightとは / Venture Deals - Information Right

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

今回は「Information Right」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他の講義も順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。

なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になるシリコンバレーVCのバイブルなので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)

前回前々回に引き続き、今回のタームシートの中でそれほど重要ではない項目、Information Rightについて取り上げていきます。

(クリント)Information Rightとは誰の何に対する権利ですか?

(ブラッド)投資家がスタートアップに対し情報を開示させるための権利です。VCを含め投資家はスタートアップのビジネスについてできるだけ多くの情報を持ちたいと考えているため、タームシートにこの権利を入れているのです。具体的には、投資家は財務諸表の定期的な開示、帳簿や会社内の記録へのアクセスに関する権利を持ちます。投資家は実務上ビジネスに必要なあらゆる情報にアクセスが可能なので、このInformation Rightは投資家がアクセス情報は何なのか、を契約上言い換えたものに過ぎません。

とはいえ、VCとの交渉上、論点はあります。

それは、少額を出資するマイノリティ投資家に対してもこの権利を付与するかどうか、です。ここで想定しているのは、まだ会社が若い頃のシードラウンドで10,000ドルから25,000ドル程度を投資した投資家です。率直に言って、これらの投資家は会社にとって重要な投資家ではありません。これらの投資家が、出資比率20%-30%の主要な投資家が得られる情報と同じ情報を得る権利がある、という考えは意味を成しません。多くの場合、主要な投資家とそうでない投資家との間ではこのInformation Rightを通じた情報へのアクセス権限に閾値を設定することが多いです。なぜでしょう?

多くのVCはシードラウンドで多数のスタートアップに対し小規模の投資を行っています。場合によってはあなたのスタートアップの競合に対して投資を行っている可能性があります。そんな中、VCがあなたのスタートアップの情報にアクセスできる権利を持っている中、競合他社に多額の投資を行う可能性がある、という懸念は、スタートアップにとっても心地のよいものではないでしょう。

この懸念に対してVCは「心配しないでください。チャイニーズ・ウォール(注:ここでは、本スタートアップ投資担当パートナーと競合他社に投資する投資担当パートナーとの間の情報を遮断し、情報を適切に管理することの意味合い)がありますから。」と言って安心させてこようとするでしょう。が、もしそのVCが、あなたの競合他社のCEOに送るメールを誤ってあなたに送信してきた場合、「本当に自分達の会社の情報が競合に漏れていないのか?」とまた不安は高まります。

マイノリティ投資家に対し、会社情報へのアクセス権を制限することはある程度理にかなっています。一方で、持分比率が多めの主要な投資家に対しもアクセス権を制限しようとする試みは、無意味な結果に終わる可能性が高いです。

(聴講生)タームシート上、VCが競合他社に投資するのを防ぐ手段はありますか?

(ブラッド)秘密保持契約の署名をしてもらうのが難しいのと同様、競合他社に投資しないことをVCに同意させるのは難しいです。

スタートアップができることは、VCについて調査を行い、理解することです。自分の会社に対して投資をしようとしているVCの行動・思考パターンを理解することは非常に重要です。これはタームシートや最終投資契約書の文言交渉よりもはるかに重要です。「私は本当にいい奴なんです。あなたもきっと私を気にいるはずです。私は素晴らしい人物なので、あなたの会社に損害を与えるようなことは決してしませんよ。」と言ってくるVCの言葉を鵜呑みにせず、まず調査しjましょう。

また、VCがあなたのスタートアップの競合に投資をしたとしても、が競争力のある投資を行っていたとしても、あなたがそのVCと署名する文書の条件には秘密保持契約が入っています。VCはがあなた会社の書類を故意に別の会社に送り出すという行為はできず、競合他社に情報が漏れる、という点については防衛策を講じることができます。

それよりも、なぜそのVCが突然競合他社に投資をしたのか。そちらの方がもっと重要な問題です。

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