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ベンチャーディールズ(7) 起業家がやりがちな失敗 -Venture Deals / Common Mistakes-

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

今回は「Common Mistakes」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。他のセッションも順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。

なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になる、あるシリコンバレーVCにとってのバイブルもしくは古典的名著のような本なので、是非ご一読ください。

なお、今回「なぜVCにNDAを要求してはいけないか」と言うやりとりがあるのですが、その回答があまり明確で無い一方、「Venture Deals」の書籍バージョンではそのあたりが詳しく書かれているので、別途そちらの記述もアップしていきたいと思います。

(以下、講義和訳)

1. VCにNDA締結を迫るべきではない(サインしてくれないから)

このセクションでは、資金調達の際、起業家がやりがちな失敗事例についていくつか説明します。

(クリント)まず、NDA(秘密保持契約)についてです。起業家はNDAを締結する際、間違いを犯しますか?

(ブラッド)起業家がNDAをめぐって犯す間違いは、ベンチャーキャピタリストにNDAの締結を求めることです。 VCにNDAを要求しないでください。意味がないです。あなたがとても純朴な人なんだ、と言うことを示しているだけです(NDAさえ結べば自分のビジネスが守られる、とピュアに信じているんだこの人はと思われるだけです)。

VCがNDAに署名できない根本的な理由は、NDAを個別に締結し続けると、自分たちが身動きの取れない状況に陥ってしまうためです。また、アーリーステージのスタートアップの場合、NDAが実質的にあなたのビジネスを保護することはありません。

VCが共有された情報をどのように扱うか、を知っておくことは有効だと思いますが、通常、NDAさえ結んでおけばあなたを助けてくれるということはありません。

2. VCとの初回面談でやりがちな間違い

(クリント)VCと最初のミーティングをする際にやりがちな間違いは何ですか?

(ブラッド)VCとの初回ミーティングは、通常、紹介・またはVC側からのアプローチにより設定されます。よくやりがちな間違いは、多数のVCに対し、同じ文面のメールを一斉送信することです。

起業家はどこからか入手したVCのリストを元にメールを大量に送信するわけですが、私はその受信者の一人として「Dear Jim」から始まるメールの受診します。私はこうしたメールが届いたときは「私はJimではありません」と丁重に返信しています。

この絨毯爆撃アプローチは、VCからの興味を惹くのには有効ではありません。不特定多数の投資家にランダムメールを送った後で、もしあなたが知人の紹介経由でとある投資家と知り合ったとしましょう。あなたがランダムメールを送っていた人物だった、とその投資家が気づいた途端、信頼は一気になくなります。

不特定多数の人にメールを送る、数撃てば当たるアプローチに力を入れないでください。代わりに、誰かから紹介を得ることに集中してください。

3. 投資から「No」と言われたら

(クリント)起業家が最初のミーティングで投資家から「No」と言われ、投資を断られました。ここはNo回答を受け入れず、粘るべきなのでしょうか?

(ブラッド)教科書的なことを言えば、セールスマンとしては「No」は絶対に受け入れないで下さい。これはセールスマンとしての基本です。

ただ、VCからの「No」回答は必ずしも「未来永劫あなたとは付き合いません」と言うことではありません。時間の経過と共にあなたのビジネスも前進するにつれ、Noと言われたVCと会話を再開することはあり得ることです。

VCとの関係を長期間にわたって発展させていくと、最初に「No(投資しない)」と言っていたVCのスタンスが「Yes(投資したい)」に変わることがあります。まあ、短期間でそれが起こることは異例ですが。

時間の経過と共に、「No」から 「Yes」に変わったRally Softwareの実例を紹介しましょう。彼らはGreylockのパートナー1人との面談に漕ぎ着けるまでに3〜4回アプローチしました。複数の資金調達ラウンドを経て、Greylockから最終的にレイターステージでの資金調達を受けることができました。

Rally Softwareは「No」を受け入れなかった、と言うわけではありません(少なくとも、その時点ではNoを受け入れ、資金調達を諦めたが、次の機会でまたチャレンジした)。新たな資金調達ラウンドの度に、Greylockを訪問し、ある程度自分たちのことに関心を持っていたパートナーに何度もコンタクトしました。Rally Softwareはそのパートナーとの関係を時間をかけて構築しました(そして、ついに投資を受けることができたのです)。

一方でこんなこともあります。とあるスタートアップに対し、私がNoを告げました。2日後、彼らは「あなたが間違っていると言うことを説得してみせる」と言ってきました。 そこで私はさらにもう一度「No」と言うと、彼らはまた戻ってきて「俺たちに投資しないなんて、全くもって間違っているよ!」と言うのです。その後、私はこう言うのです。「自分は確かに間違っていると思うよ。けど本当に(投資)したくないんだよ」

ここまでやりとりした上で彼らから来るメールは、以下のようなものです。「ベンチャーキャピタリストなんて嫌なやつらばかりだ。俺たちにNoなんて言うのは馬鹿げている。本当に嫌いになった」。

お分かりの通り、このやりとりは、お互いが長期的な関係を築くのに有効な方法ではありません。

(クリント)投資家から「No」を言われたとしましょう。その上で、他の投資家の紹介を受けることはできますか?

(ブラッド)

「No」と言われた相手には紹介を求めないでください。私が誰かを紹介したとしましょう。その相手は必ず私にまず「ブラッドは投資したのか?」と尋ねてきます。そこで私が「いや、していないよ」と言った瞬間、その紹介の価値はほぼ無くなります。

ただ、紹介がうまく機能するケースもあります。それは、あなたと私の間で一定の関係が築かれていて、かつあなたが私の投資専門外以外のビジネスを行っている場合です。この場合、私はあなたを誰かしらに紹介できます。Noと言われた対応策として他に誰かを紹介してもらおう、と言う考え方はそれほど有効なものではありませんが。

一方、私とあなたの双方がよく知らない間柄にもかかわらず、あなたが紹介を求めてきたとしましょう。これは、私に対して、よく知らない人(あなた)のために働いてください、と言っていることに等しいです。

もしあなたに紹介を求められたら私はこう答えるしか無いでしょう。「ごめんなさい。紹介を求められても、実際にあなたと過ごしたことがないため、信頼に足る紹介ができないのです」。

(クリント)どのくらいのプロセスを踏んだら、投資家にフィードバックを求めて良いものなのでしょうか。「No」の結論が出たら、合わせてフィードバックもくれるものなのでしょうか?

(ブラッド)それは、投資家によって異なるでしょうし、また彼らのフィードバックの内容の度合いも、状況により異なります。一部の投資家は、起業家の気分を害したくない、次の機会に備えてドアは開けたままにしたい、と言う理由からフィードバックをしない場合もあります。または資金調達について十分な時間をかけることができなかったため、十分なフィードバックができない、と言う場合もあります。

ただ、深く、多くの検討時間を費やした投資家から最終的にNoの回答を受けた場合、フィードバックを求めることは当然です。一方で深く付き合わっていない人にフィードバックを求めても効果的な回答を得られないでしょう。

本当に有効な関係を築いた相手からのフィードバックは非常に有効です。

4. ソロ創業者はつらいよ

(クリント)創業者が一人だけの会社についてはどう思いますか?

(ブラッド)ソロ創業者の成功例はあるものの、成功するのは非常に難しく、特に初期段階で資金を調達するには非常に困難です。

過去成功したスタートアップを見てみると、多くは2−3人の共同創業者がいます。たまに4人という企業も見かけます。 非常にレアなケースですが、17人なんて事例もあります(注:おそらくアリババのことを指している)。通常は1人から4人の間に収まり、2人から3人がちょうど良い共同創業者の数でしょう。

ソロの創業者には多くの問題があります。そもそも会社を作り上げていくのは本当に本当に辛く、ハードなことです。起業家が対処しなければならない問題・壁は沢山あるわけですが、それをパートナーと一緒ではなく一人で立ち向かうびはとてつも無く困難なことです。

多くの投資家は、創業者が一人だけの会社に投資することをあまり良く思っていません。その創設者がイマイチだった場合、どんな代替手段を取れば良いのでしょうか?

興味深いことに、表面的には創業者が一人だけに見える企業の多くの裏には、3人または4人の共同創業者がいるケースが多いです。目立つ創業者が前面に出ているだけで、他の創業者たちは裏方に回っているのです。こうした場合は全く問題ありません。

5. 特許の有無は投資判断で重要か?

(クリント)特許はどうですか?特許の存在はあなたをワクワクさせますか?

(ブラッド)ソフトウェア企業への投資家として、私は特許の有無についてはまったく気にしません。率直に言ってソフトウェアビジネスにとって特許は意味が無いと思っています。実際、USPTO(米国特許商標庁)は私たちと同様、ソフトウェア特許を持っていても(ビジネスを守る上では)有効性が無いと言っていました。

私が投資しようとしているソフトウェア企業の中には、特許を取得することに労力を費やしている企業もありますが、投資家としての立場から言えば、特許の有無が投資の意思決定要因になるわけではありません。中には特許の有無を気にする投資家もいますが。

ただ、ハードウェア企業とバイオテックの企業ではこの状況は異なります。この場合、投資家は特許の有無および特許保有により可能となる事業の機会に関心を持っています。

いずれにしても、投資家が何に関心を持っているか、誰が特許取得について関心を持っているのか、を理解することが重要です。

(クリント)質問はありますか?

(聴講者)紹介なしでVCにメールでコンタクトすることは絶対にお勧めしませんか?

(ブラッド)何のコネクションも関係もないまま、VCにメールを送るのは無意味だと思います。ではどうやってコネクションを作るのでしょう?誰かから紹介を受けずとも、やり方はあります。例えば私、もしくはFred Wison(注:ニューヨークのVC、Union Square Venturesのパートナー)とコネクションをゼロから作りたい場合はこうです。

私たちは2人ともブログを持っており(Brad Feld氏のブログはこちら、Fred Wilson氏のブログはこちら)、ブログのコメント欄では日々読者とのコメントのやり取り交わされています。まず私たちのブログにコメントしてください。ブログコミュニティの一員となることで、時間の経過と共に、あなたには私と直接コンタクトする権利が自然と生まれてきます。実際にあなたが私と一度も会ったことが無かったとしても、です。

起業家の中には、相手が何をしていて、何に興味があるかを事前に理解しないまま、不特定多数のVCにランダムにメールを送信し始め、「どのVCも返事をくれない」と文句を言う人もいます。

返事をくれないVCのうち、一部は本当に失礼なVCなのでしょうが、多くのVCは毎日500通の受信トレイをチェックしている人たちです。自分たちに全く関係の無いメールに対してまで考えをめぐらし、500通全てに回答をすることはできません。

何が最も有効なアプローチか、良く考えましょう。紹介を得る、もしくはコールドメール以外の方法で、投資家と接触する機会を得ることが、有効なアプローチです。

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