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コーナーからの3PシュートはNBAで如何にして最も効率の良いシュートとなったか

バスケット上のコートで最も狭いスペースであるコーナーエリアは、現代バスケットボールで最も効率性の高い、最も重要なシュートエリアとなっている。そんな内容の記事が書かれた非常に面白い記事を見つけた。以下、データも挿入しつつ和訳していきたい。

(以下、記事の概要。完訳ではありません)


1.NBAにおけるコーナー3ポイントの重要性

2023年現在、コーナーからの3ポイントシュートはNBAにおいて主要なオフェンス手法の一つとなっている。コーナーのスペースはNBAのコートにおいてほんのわずかな面積を占める小さなスペースだが、リーグ全体のジャンプシュートのうち、なんと19.6%はこのエリアから放たれているのである。

NBAではジャンプシュートのうち、19.6%はコーナーエリアから放たれている。

今やコーナー3ポイントシュートはNBAで最も一般的なシュートエリアであり、リーグの強豪チームはこのエリアからのシュートが如何に効率が良いかを熟知している。

2.ブルズ王朝の終焉後、コーナー3ポイントシュートに着目した強豪スパーズの台頭

マイケル・ジョーダンが最後に優勝し二度目の引退をした1997-98年は、一つの時代の終わりを象徴した。このシーズン、コーナーからの3ポイントシュートはリーグ全体のフィールドゴール試投数のわずか3%に過ぎず、また1試合平均試投数はわずか4.7本だった。この年のNBAファイナルでジョーダン率いるシカゴ・ブルズに敗れたユタ・ジャズは、シーズンを通してわずか105本しか3ポイントシュートを打っていない。

1997-98シーズンのコーナー3P試投数

話を現代に戻そう。2021年−2022年になると、コーナー3ポイントはリーグ全体のショットの10%を占めるようになり、1試合平均の試投数はは17.6本がまで上昇した。1997-98のNBAファイナルに到達するまでの間、1試合1本コーナー3ポイントを打つのががやっとだったジャズが、2021-22シーズンにはなんと852本(NBA全体で3位。ちなみに1位はシャーロット・ホーネッツ、2位はマイアミ・ヒート)を放ったのだ

2021-22シーズンのコーナー3P試投数

時代は変われば戦略も変わる。ブルズ王朝が終焉を迎えた後、サンアントニオ・スパーズはリーグで最も革新的で成功したチームの1つになった。データ分析がリーグに浸透し、コーナーからの3Pシュートの効率性が可視化されるずっと前から、グレッグ・ポポビッチヘッドコーチと彼のスタッフはその価値を既に認識していた。スパーズは2000年から2014年の間、毎シーズン、コーナー3ポイントが全シュートに占める割合でリーグトップ4に入っている。

スパーズがコーナー3Pシュートの価値を見出したことによって、それまでシューターとして特に目立っていなかったブルース・ボウエンは、突如スポット3Pシューターとしての才能を開花させた。ボストン・セルティックス、フィラデルフィア・76ers、マイアミ・ヒートでプレーした最初の5シーズン、ボーエンのコーナー3シュート率は34.9%で、1試合平均わずか0.6本だった。しかし、サンアントニオでコーナー3ポイントという生き残る術を見つけ、3&Dプレーヤーの典型となった。スパーズでの8シーズン(うち3シーズンで優勝)、ボウエンの3Pシュート成功率は40.5%だった。

ボウエンのような選手は得点効率が非常に良い。3Pシュートを40%で決めるとすると、1回のシュートあたり期待できる得点は1.2点である。これは2Pシュートを50%で決める選手(1回のシュートあたり1点が期待される)よりも効率が良く、現代バスケットでは需要が非常に高い。

3.コーナー3Pシュートは高い得点効率を誇る

2022-23シーズンの平均的なコーナー3Pシュートはシュート1本につき1.17点だが、オープンのコーナー3Pシュートはシュート1本あたり1.29点の得点が期待できる。どちらの数字も、NBAの平均的な1ポゼッションあたり期待される得点を上回っている。

「コーナーからの3Pシュートは、オフェンスがリズムに乗っていてディフェンスが(コート中央で)集中してディフェンスしなければならない時、コーナーに立っているプレイヤーがオープンとなり、そこにパスを出すことでよく決まる」と、ゴールデンステイト・ウォリアーズのステフィン・カリーはESPNに語る。

ご参考:カリーの2022-23シーズンのシュートエリア別成功率。右コーナー、左コーナーの3ポイント成功率は驚異の約60%。1本シュートを打ったら1.8得点稼げる計算になる。

同じくもう一人のスプラッシュ・ブラザーであるクレイ・トンプソンも同意している。

「ワイドオープンのコーナー3Pシュートは、間違いなくベストなシュートの選択肢の1つだ」とクレイ・トンプソンはESPNに語る。「オープンになったらボールを放つだけだからね」

トンプソンは2013-14シーズン以降、160本のオープンコーナー3ポイントを、48.8%の確率で成功させている。同じ期間で、カリーは135本のオープンコーナー3ポイントを60.7%の高精度で決めている。つまり、1本あたり1.83得点を稼いでいる計算(3点×60.7%)になる。

コーナー3Pシュートが重要だという根拠は2つある。第一に、ステフィン・カリーとクレイ・トンプソンという世界で最も偉大なシューターが多用していることである。第二に、このエリアからシュートを打つ際の条件が良いということである。コーナーエリアで選手がシュートするケースというのは、オープンになって足をセットし、チームメイトからパスを受けたときだけだ(このエリアは非常に狭いため、逆に言うとそれ以外のオフェンスのパターンで活用するケースが想定されない)。

「通常、ドリブルしてからコーナーで3Pシュートを放つ選手はあまり見かけない」と76ersのフォワード、PJ・タッカーは語る。「コーナーはキャッチ&シュートのためのエリアだ」。

PJタッカーの2022-23シーズンのショットチャート。コーナー3Pシュートとゴール下でのオフェンスに特化している。

機械学習を用いたスポーツデータの分析を行うSecond Spectrumによると、2022-23シーズンのコーナー3Pシュートの91%以上がキャッチ&シュートである。また、2013-14シーズン以降、NBAのシューターのキャッチ&シュートでの3Pシュート成功率は36.7%である一方で、ドリブルしてからの3Pシュート成功率は32.1%にとどまる。

カイル・コーバーは2013-14シーズンから2019-20シーズンにかけて、645本のコーナー3Pシュートのうち347本を50.7%の確率で成功させている。1回のシュートあたりの得点効率は1.54点になる。現役選手では、デンバー・ナゲッツのフォワード、マイケル・ポーターJr.がキャリア通算で280本のコーナー3Pシュートを放ち、うち50.4%を成功している(1本あたりの得点は1.52点)。

一方でSecond Spectrumによると、2013-14年以降、NBAで1回レイアップを行った場合の期待される得点はおおよそ1.17点だった。リーグ最高のシューターにとって、コーナー3Pシュートはレイアップと同等の価値どころか、より効率の良いシュートなのだ。

4.コーナー3Pシュートと相性の良いルカ・ドンチッチ、ジェームズ・ハーデン、そしてレブロン・ジェームズ

コーナーに1人、あるいは2人のシューターを配置しておくことで、オフェンス側のチームは相手ディフェンスを外に膨らませ、結果ゴール近辺に(ドライブをするための)スペースを開けることができる。

多くの場合、NBAのコーナー3Pスペシャリストと、彼らの中盤を間引く能力が、この集中を助けている。

ルカ・ドンチッチを中心としたダラス・マーベリックスのオフェンスは、昨年10年にヒューストンが採用したダントーニとハーデンのオフェンススタイルによく似ている。マブスにはタッカーはいないが、2022-23シーズンのコーナー3PシュートではNBAをリードしており、ドンチッチが毎晩のようにハーデンの真似をしているため、1試合あたり12本近くを放っている。レジー・ブロックはマブス版タッカーとして頭角を現し、2022-23シーズンでは201本のコーナー3Pシュートを放ち、そのうち44%を成功させている。

コーナー3Pシュートと相性の良い選手を語る上で欠かせないプレイヤーがいる。レブロン・ジェームズだ。レブロン・ジェームズほど多くのコーナー3P シュートをアシストした選手はいない。NBA史上、900本以上のコーナー3を成功させたシューターはいないが、ジェームズは1,590本をアシストしている。

レイ・アレン、シェーン・バティエ、ダニー・グリーンのような選手がリングから22フィート離れてディフェンダーの注意をアウトサイドに引きつけていたお陰で、レブロン・ジェームズはインサイドに切り込み、より簡単に得点することができたのだ。

ジェームズが同世代の誰よりもリムにプレッシャーをかけ、そのようなシューターがディフェンスを間引くのだから、ジェイムスがファイナルに11回進出したのも不思議ではない。ジェームス+シューター=止められないハーフコートオフェンス。

2013年ファイナル第6戦でのアレンのスーパーショットは、シリーズとジェームズのキャリアの流れを変え、史上最高のシューターの一人であるアレンと、彼が有名にしたショットを永久に結びつけることになった。

1996年にアレンがリーグに入ったとき、オフェンスリバウンドの後にコーナーに後退するトレーニングをしていた選手はいなかった。しかし、リーグが進化するにつれ、アレンも進化した。クリス・ボッシュが2010年代で最も重要なリバウンドを取った後、ゲームを決めるシュートを打つために必要な正確な振り付けをワークアウトで練習したことは有名だ。

マイケル・ジョーダンがいたころのNBAではそんな選手はほとんどいなかったが、レイ・アレンとスパーズが変えた。コーナー3ポイントシュートはNBAでで最も練習されるショットのひとつだ。今となってはNBAのどの練習場に行っても、選手たちがベースラインでの3ポイントトライを何度も何度も練習しているのを目撃するだろう。

メンフィス・グリズリーズのガード、デズモンド・ベインは「どのチームもコーナー3Pシュートをたくさん打ち、得点を量産したい。だから、あそこに立って、あそこからシュートを打てるように練習することが最も効率のよいオフェンスになる」という。

デズモンド・ベインの2022-23シーズンのショットチャート。確かにコーナーからのシュートの効率は非常に良いことがわかる。

5.ビッグマンも3Pシュートを打つ時代に

そして、コーナーからシュートを放つのは、もはやボーウェンやタッカーのようなロールプレーヤーだけでなく、アレンやベインのようなガードだけでもない。

ボストン・セルティックスのセンター、アル・ホーフォードはNBAでの最初の7シーズンで合計10本の3ポイントシュートを決めた。2022-2023シーズン、彼は62本のコーナー3ポイントを決めて3位にランクされた。 事実上、すべての選手がフロアをストレッチしてシュートを打てるようになった。

1998年のファイナルでは、ブルズのビッグマン、デニス・ロッドマン、ビル・ウェニントン、リュック・ロングリーの3ポイントシュートは6試合でゼロだった。そんな時代は終わった。ホーフォードは2022年ファイナル第1戦だけで8本の3ポイントを試み、うち6本を成功させた。

アル・ホーフォードやブルック・ロペスのような選手たちが輝かしいキャリアを伸ばしてきたのは、リーグの大きなトレンドに適応してきたからだ。

ホーフォードと同じように、ロペスもキャリアの初期はほとんど3Pシュートを打たず、最初の8シーズンで31本試投して3本しか成功しなかった。ミルウォーキーでの5シーズンで、ロペスは1,500本近い3ポイントを試み、その35%以上を成功させている。

過去25年間、統計学的手法・数学的手法がプロバスケットボールの戦術に応用されるにつれて、コーナーからの3Pシュートも浸透してきた。チームも選手も、オフェンスの効率を更に高めるために戦略を磨き続けている中、フロアで最も効率的なエリアである、コーナー3Pシュートは今後更に重用されることだろう。

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