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ベンチャーディールズ(25) ゲーム理論はスタートアップにどう役立つか / Venture Deals - Game Theory

以下、米国VC・Foundry GroupのBrad FeldやJason Medelsonが毎年2回提供しているオンラインコース(無料)、Venture Dealsの講義内容が素晴らしかったのでまとめてみました。

今回は「Game Theory」のセッションを和訳してみました(和訳することについてはBrad Feld氏と直接コンタクトし、許可を得ております)。今回のGame Theoryは、このベンチャーディールズで取り上げずとも、深く掘り下げた事例やもっとわかりやすい事例はネットや書籍でごろごろ転がっているので、そちらも適宜ご参照ください。また、他のセッションも順次アップしていく予定です。是非ご一読下さい。

なお、Venture Dealsについては、本でも出版されており、またこちらもベンチャーキャピタルを理解する上でとても勉強になるシリコンバレーVCのバイブルなので、是非ご一読ください。

(以下、講義和訳)
ゲーム理論については既に膨大な量の研究論文と学術論文があります。このセクションでは、ゲーム理論がどのように機能するかについてのいくつかの高レベルの例について話し、それについての考え方を理解するために時間を費やします。

1. ゲーム理論とは

(クリント)ゲーム理論はスタートアップにとってどう役に立つのでしょうか?

(ブラッド)投資家をはじめとした様々な関係者との交渉に役立ちます。ゲーム理論については既に膨大な論文がありますが、その多くは、人間の行動が様々な状況に対しどのように反応するのか、について述べたものです。

ゲーム理論は、交渉においてあなたが下す多くの決定を科学的に裏付ける理論です。交渉では一般的に時間の経過と共に内容が複雑化します。我々は交渉を司る多数の変数に対処し始めるようになると、実際には定量化が可能な事象を扱っているにも関わらず、その事実を見失ってしまうことがよくあります。そんなときにゲーム理論は役立ちます。人々が感情的な交渉ではなく合理的な交渉を行うことを手助けしてくれる理論なのです。

(クリント)すごいですね。ではそのゲーム理論の重要な概念を幾つか、かいつまんで紹介してくれませんか?

(ブラッド)一般的なゲーム理論の概念については既に何百万もの著作で説明されていますが、その中で何度も何度も登場する古典的な事例、「囚人のジレンマ」について説明します。この事例を聞けば、ゲーム理論が交渉という定性的な事象に対して、定量的に考えるためのフレームワークんを提供してくれるものだ、と気づくと思います。

2. 囚人のジレンマとは

「囚人のジレンマ」には罪人2名が登場します。この2人はどちらも相方が有罪かどうかを取調室で尋問される設定です。この際、囚人がとりうるシナリオは3つあります。

1つ目のシナリオは、どちらの罪人も黙り込むことです。2人とも相方を売るようなことはしません。2つ目のシナリオは、一方の罪人が相方の罪人を売るのですが、その売られた方の罪人は黙秘する、というものです。囚人Aは「Bは有罪だ」と告げるのですが、囚人Bは何も言わないんです。最後の3つ目のシナリオは、罪人2人が共に双方を売る、というものです。囚人Aは「Bは有罪だ」と言い、囚人Bは「Aは有罪だ」と告げるのです。

2人とも沈黙する1つ目のシナリオでは、中程度の刑罰、例えば懲役1年が科せられるとしましょう。次に、片方がもう片方を売る2つ目のシナリオの場合、売った方は無罪で、売られた方は懲役5年の刑が科せられるとします。この場合、1つ目のシナリオよりも売られた方は重い罰を受けますが、売った方はお咎めなしになるので、このシナリオを実現するためのインセンティブは2人とも持っているわけです。お互いを密告する3つ目のシナリオは最悪のケースです。この場合、2人とも懲役3年になるとします。2つ目のシナリオで売られた方の罪人の刑罰よりはいくぶんか軽くなりますが、それでも2人とも黙っていた場合よりは重い罰を受けることになります。

行動する動機や動機に基づき、異なる結果が待っているのがゲーム理論の典型的な例です。囚人のジレンマは、さまざまな前提条件に基づき、様々な結果が得られる交渉の古典的事例です。実際の結果は、各当事者の行動によって異なります。

囚人のジレンマの例では、罪人は自由になるか、刑務所に行くかのどちかのシナリオしかありません。ですが、現実の世界ではその続きのシナリオが待っているはずです。例えばあなたが相方を密告する一方、相方ががあなたを密告せず、相方のみが罪をかぶることになった場合、彼・彼女は刑務所から出るとき、あなたを追い詰めるでしょう。

ここまでの話は単一のシナリオ設定が単一の結果をもたらすシングルプレイゲームです。一方でマルチプレイゲームといのもあります。

マルチプレイゲームとは、例えば会社のライフサイクルの期間において複数の交渉が行われることを指します。例えば起業して間も無い段階で投資家と行っている交渉は、マルチプレイゲームの第一ステージに当たります。
これは数あるステージの序の口で、その先には別の資金調達、従業員給与の設定、他社の買収、あなたの会社が買収される等のイベントが用意されており、都度交渉が必要になります。これらの交渉は全てつながっており、これまでの交渉結果が将来の交渉に影響を及ぼしていく可能性があります。

1つの結果で完結し、将来的には二度と影響を及ぼすことのないシングルプレイゲームをプレイしているのか、それとも各交渉の結果が将来の別の交渉に影響を及ぼしていくマルチプレイゲームをプレイしているのか。何かしらの交渉を始めるとき、この点を意識することが重要です。

(クリント)聴講者で何か質問ありますか?

(学生)ゲーム理論を実践する際に役立つ書籍はありますか?

(ブラッド)1980年代に書かれた「Getting to Yes」(邦訳:ハーバード流交渉術)は古典的名著ですね。ゲーム理論式交渉を、ビジネスの文脈に当てはめた最初の本の一つであるため、非常に有用です。

スタートアップの交渉とは、常に投資家などから「イエス」を引き出すものなので、この本は起業家の皆さんに役立ちます。

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