社外取の役割についての議論を促進してくれそうな記事を見つけた

みずほの一連のシステム障害およびそれに関連する経営陣の交代に関し、先週は多くのニュースが相次いだ。その中でも以下読売新聞の記事は、執行執行側の取締役のみならず、その執行を監督すべき立場にある社外取締役の責任についても言及されており、みずほシステム障害という一企業固有の問題にとどまらず、「そもそも社外取の役割って何だっけ」という広範なテーマの議論を読者に投げかけてくれる記事となっている。

社外取締役の役割とは何か。その企業の業務・運営に携わってきたわけでもなく、その業界の前提知識も持ち合わせていない社外取締役が多く見られる中、企業に提供できる付加価値とは何なのか。「経営者としがらみなく客観的立場から経営者のモニタリングが行える・社内にない知見に基づく助言が行える」というのが教科書的な付加価値ではあることは重々承知しているものの、もっと地に足のついた答えはないのだろうか。

以前より疑問を持っていたが自分にとって、それは「企業のアップサイドリスクではなく、ダウンサイドリスクを監督する」ことだと理解していた。経営のアップサイドリスクは、その業界に長くいてビジネスを十分熟知していないと取りづらく、したがって社外取締役には適さない。一方で善管注意義務、コンプライアンス・法務、会計といった分野の専門性が光るのは何かしら企業にダウンサイドリスクが生じた場合であり、こうした分野はまさに公認会計士・弁護士出身といった社外取締役が得意とする分野だからである。

もう一つの理由として挙げられるのは、社外取締役の報酬体系にある。彼らの報酬は固定報酬が大半であり、業績上昇時の報酬アップが期待できない。一方で、業績悪化時の取締役としての経営責任を負う立場にあり、インセンティブ構造上、基本的にダウサイドリスクの監督に力を入れるはずだから、というのがその背景である(以下、詳細は補足説明パートをご参照)。

だが、今回はダウンサイドリスクの最たる実例であるシステム障害、そして法令違反さえも監督できていなかった状況である。この事象に対し、実際にどのような監督がなされていたのだろうか。今回のみずほシステム障害問題が、一企業としての問題にとどまらず、社外取締役のそもそもの役割とは何か・実効性のある運用の仕組みとは何か、といった問題提起にも派生していき、よりよいコーポレートガバナンスの仕組みが設計に向けた議論の契機になることを望みたい。

(以下、ご参考)

社外取締役の報酬体系は業績連動報酬ではなく、固定報酬であるケースが大半である。以下はみずほの直近のIR資料に掲載されていた役員報酬体系に関する資料であるが、社外取締役の報酬体系は一番右側「非執行の役員」に該当すると考えられる。

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業務執行側の役員の報酬体系が会社の業績連動形で、株主価値の向上が自身の報酬向上のインセンティブになる一方、社外取はどこまで言っても固定報酬である金銭的なインセンティブという観点だけで言えば、執行側の役員以上に社外取が企業の株主価値向上に関心を持つ理由は見出せないであろう。

また、自分自身のリソースのほぼ100%を所属する企業に投下している執行側の役員とは異なり、リソースを複数の企業に投下しているのが社外取締役である。株主との関係性でいえば、ある程度利害関係が一致するのが前者であり、さほど一致しないのが後者、つまり社外取締役である。すこし大胆な言い方をすれば、就任先の企業にそこまで全身全霊フルコミットせずとも、自身としては固定報酬の食い扶持がもらえてしまう立場なのである。

とはいえ、社外取は取締役としての善管注意義務や監督責任を問われる立場にある。その責任とは、新規事業の失敗、M&Aの失敗等の攻めの経営の失敗から始まり、今回のようなシステム障害、法令違反等の守りの経営の失敗に至る。

このような責任と報酬体系を踏まえると、社外取締役としては企業のアップサイドリスクの監督(イノベーション、M&Aによる事業拡大、新規事業の開始、事業多角化等)よりもダウンサイドリスクの監督(法令遵守対応、システムリスク対応等)によりインセンティブがあると考えられる。


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