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なぜか潰れない最弱念珠店のバックヤード⑥(営業マンが出来なかった営業)

知っている人は知っている。

僕は今から10年以上前は、とある仏具屋さんに営業マンとして勤めていた。
小さな会社だったので、俗に言うルート営業ではなく、なかなか厳しかったんだ。

何をすべきか、何を売るべきか、そしてどのような営業を仕掛けるかということを常に自分で考えて行動しなければいけなかった。

当時の社長との雑談のなかで、「僕はいつか経営者になりたい」と漏らしていたことがある(らしい)。それは、社長の後を継ぐとか、会社を辞めて独立するとか、そんな具体的なことではなかったと思う。後から社長に言われて気付いたことで、自分では話をした記憶もないんだけどね。

しかし、社長にとっては、とても引っかかった言葉で、そういうことなら何でも自分で出来るようにと、いつもチャレンジさせてくれていたのだ。

当時はしんどかったが、給料を貰っておきながら、大変な経験を積ませてもらったのだから、振り返れば感謝の言葉しか出てこない。

ただ、いくら自分で考えて行動するといっても、チームで動く会社の中でやっている事だ。上司の方針を無視して、自分勝手な行動をとるわけにいかない。

そんな事情だったので、たくさんのアイディアをだしたけど、会社的にボツということはたくさんあった。その中でも捨てきれないアイディアを、独立してからは片っ端から試したんだ。

安ければ買うか

実は、10年数年前、北海道の寺院仏具業界は、大きく揺れていた。

それ以前に北海道を回ってくる本州企業といえば、主に京都からで、当然ながら国産の最高級品を基本としていた。それか、寺院仏具といえば、北海道内の古株業者とお寺が密で、ほとんど、新参者やよそ者が入る余地はなかった。

ところが、業界を震撼させる程の海外仕入の超激安仏具を持って、ドサ回りをした業者がいる。そういうことをすると、当然悪い評判も立つが、実際にその業者の商品で一式揃えたお寺もあるし、ちょっとした仏具を試しに買ってみたという話もよく聞いた。

実際に、買った人はほとんど同じ意見で、不安がないわけでもないが別に問題無いとか、多少は荒が目立つけど、値段を考えたら十分じゃないかという意見だった。

そこで僕はひとつ検証してみたかった。

とにかく安ければ売れるのか?ということ。

さっそくやったことはこうだ。

主要な仏具の見積を仕入先で一覧にしてもらい。通常ならばそこに小売店の営業経費や利益を乗せなければならないが、ほぼ、そのままの値段で手擦りのチラシを作った。そして、それを札幌市内、近郊のお寺にできるだけばら撒いた。

お寺にしてみれば、後にも先にもない、卸原価で買えるまたとないチャンスだったわけだ。

その結果。

なんと、売上どころか問合せすらゼロ!! 

もう、笑うしかないよね。

これから商売をしたい人は覚えておくと良い。
人は、安くても買わない。これは立証された。

安くて売れるのは、大量生産品や消耗品だ。同じメーカーの同じ型番の商品で売れ筋の物かつ、相手が元々求めているものだったら、他社よりも1円でも安ければ買う理由になりえる。

または、この超激安(冗談抜きで卸値)という営業を、1年も続けたら、けっこうな売上が出たかもしれない。ただし、本当に卸値なので、いくら売っても利益はゼロ。

後で聞いた話だけど、チラシを配った地域ではかなり噂になったみたいだ。札幌の同業社から、「あんなの配られたら・・」と、ちょっと嫌みを言われた。

自分もそれ試してみたいと思った人がいたら、悪いことは言わないので辞めた方がいい。こういうことは、敵を作るので、あんまり賢いやり方じゃない。僕の失敗談で笑ってくれたら十分だ。

関係を築く方法

安くても売れないということは、お客さんは意外と条件だけで選んでいるわけではないということだ。

お客さんの本音は、好きな業者から安く買えるというのが理想だろうけど、少なくとも、「どこのどいつかもわからないが一番安い」という条件では売れないことがわかった。

だとすれば、次にやることは決まっている。

人間関係を築くことだ。僕が何者で、どんな商売をしているか知ってもらう活動をしなければいけない。

ここで、ピンときたのが、蓮如(れんにょ)さんという室町時代のお坊さんだ。

現在たくさんの宗派がある日本の仏教の中でも、浄土真宗というのは数が多い。

親鸞聖人を1代目とカウントされてる(本人は初代を名乗ったわけではないが・・)浄土真宗は今のように全国最大の教団というわけではなかった
。その伝承がかなりピンチという状態を救ったのが8代目の蓮如さんだと言われている。

たとえていうなら、親子代々やってきた潰れかけの個人商店が、今ではセブンイレブンになった、くらいの想像をしてもらうとわかりやすいだろう。

すごくない?すごいんだよ、ホントに。
こんな言い方したらそちらの方面の人に怒られそうだけど、プロ意識という意味では、相当えげつない人だったんじゃないかと想像している。

色々なビジネス書を読み倒したが、蓮如さんの功績を「マーケティング」と考えるとズバ抜けて見えた。

蓮如さんは、布教のために条件を出しただろうか。

お坊さんなので、何かを売っていたわけではないけど、たとえば、どこよりも安いお布施でお経を上げてくれるとか・・? まさか、そんなことは無かった。

蓮如さんがやったことは、まさに人間関係を気付く方法だった。
それも、一人で、全国の大勢を相手にだ。

お手紙大作戦

浄土真宗の勉強をすると、正信偈、三帖和讃(厳密にはお経では無いが、お経のように日々のお勤めされている)に、最初に触れることになる。

これらは、現代でも定番中の定番とも言えるお勤めセットであるが、これを勧めたのが蓮如さんだ。

これをどうやって広めたか。

ブログ書いて、Twitterにリンク張ったらバズった・・・というとふざけているようだけど、これに極めて近いことが、室町時代にあったのだ。

まずは、正信偈+和讃というセットで、木版にした。そして印刷したものを配布したんだ。そして、大切な思いを自分の言葉で綴ったやたらたくさんのお手紙を残している。

この手紙を受け取った全国の門弟は、木版印刷に書かれた次第にそってお勤めをし、それぞれの地域の縁のある人に広めた。田舎で字が読めない人にも読んで聞かせた。

現代風に言えば、「リツイート」や「シェア」が連鎖していったわけだ。

そこで僕は、前回の激安チラシとは真反対の紙を刷った。

宣伝は一つも書かない。

ただひたらすに、自分の考えていることのみを綴った。
しかも、バラまかない。知っているお寺にのみ、出来るだけ手渡した。どうしても会えないところには、1通ずつ送ったんだ。

実はこれ、会社員時代に提案したけど、却下されたことだ。
そりゃそうだよね。今でも会社の公式Twitterをはじめたところなんかは、投稿内容の精査がむずかしい。社員の個人の意見とはいえ、炎上したら下手すると会社の存続問題。私的な文章を配るのはダメって言われた。(会社は悪くないよ、妥当な判断)

チラシではないので、なんのCTA(行動喚起)もない。
電話くださいでも、見積もりしますでもない。読んでも次の行動はない。

だから、受け取ったお寺は戸惑ったと思うよ。
何が目的なのかわからない、極めて私的な思いを綴った紙が時々届くのだ。

これは地道に続けて行くと、少しずつ反応が出てきた。

反応と言っても、商品の問い合わせがあったり、注文がとれたりというわけではなかった。

これが良い反応もあれば、悪い反応もあってね。たぶん、何も言ってこないけど、コイツは何を言ってんだみたいに思ってた人も沢山いると思う。僕も若気の至りで気が立っていたので、時々わざと嫌みを書くような事もあった。

ずっと続けてきてわかったけど、賛否は別として、反応してもらうっていうのは凄いこと。まず、認知されるんだ。

売れるまでの営業道

営業っていうのは、普通の会社で言うと、お客さんに宣伝して口説いて、商品を買ってもらうまでの仕事のことをいう。

でもね、それは、会社の仕組みがある程度出来ている中でやっている事で、自分で小さな商売を始めると、まずは、マーケットに存在すらしていないということに気付かなくちゃいけない。

マーケットに自分の存在に気付いてもらって、それから何を売っているのか知ってもらって、それ以降に始めて、商品が欲しいとか要らないとかっていう判断が出てくる。

売れるまで・・・。

とっても長い道のりだね。

だれもが近道を探すし、時々偶然ショートカットできることも本当にある。
でも、商売をやってきて思うのは、とにかく足を止めないってことだね。

走って疲れたり、急ぎすぎてコケても効率が悪いし、大怪我のリスクがあるショートカットが魅力的に見えるときもあるけど、その判断はよく考えて。

そんな中で、一番強いのは、営業道ゆっくり歩く足を止めないことだ。

会社勤めをしていると、金曜の夜に開放されて、月曜の朝に憂鬱になっていた。

今は違う。24時間、365日、ずっと仕事のことが頭から離れないし、人生をトータルで考えたときに、あらゆる行動は全部未来への投資にしていく。

そんなの疲れちゃうよって感じる人は、身の丈に合ったペースよりも速すぎるんだと思う。

ゴルフして、お酒付き合って、いけてるスーツでおしゃべりが上手なのが、営業じゃないよ。

それも一つの方法だけど、だれもがきっと、自分に合う営業方法ってのがあるはず。会社に勤めていると、自分流を発揮するのは難しいけど、自分1人から始めるスモールビジネスでは、そこから始められる。

単に、働きやすいという話では無く、生きやすくなれるということを伝えておきたい。

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今回の記事の最後の方にでてきた、「あらゆる行動は全部未来への投資」ってところを、次は書いてみようかな。

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