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天皇杯JFA102回全日本サッカー選手権大会 長野県代表への道程 【準決勝マッチレビュー】

 先週は2022 J3リーグが休み週でしたが、パルセイロは天皇杯県予選準決勝がありました。
 相手は北信越リーグ1部に所属するアルティスタ浅間、準々決勝では松本大学をPK戦の末打ち破り、準決勝進出となりました。準決勝からAC長野パルセイロ、決勝から松本山雅FCが登場するトーナメントになっているため、実質的にはアマチュアで頂点に立ったチームとの対戦となりました。
 パルセイロにとっては近年使っていない佐久陸での試合ということと悪天候、下位カテゴリーなのだから勝って当然という目線が注目する中の難しいゲームになったと思います。試合結果からは見えてこないところまで、試合内容の分析を通じてまとめていきますので、是非最後までご覧ください!

①試合結果

AC長野パルセイロ公式より

 試合結果としては1-0でパルセイロの勝利。点差こそ大きく開きませんでしたが、結果という最大の形でプロの意地を見せることになりました。得点差と得点時間帯を見ると、「このあとのリーグ戦大丈夫か」というネガティブな思考に陥るのも無理はないと思います。Y.S.C.C.横浜との戦いから2週続けて最小得点ですし、2点目を奪えないことで引き分けに終わった試合も上位相手に2試合ありますから不安が重なることも当然と言えます。ただ、これまでのパルセイロであったら、1得点すら遠かった試合であるとも捉えられるので、そこまで悲観的にならなくても良いと思っています。今季のJ3リーグが始まって以降、TRMも含めてほとんどの試合で得点を奪えており、無得点に終わったのは第4節のいわきFC戦だけだったかと思います。
 試合内容を振り返りながら、得点を増やしていくための策であったり、頭角を現したリーグ戦メンバー外であった選手にも触れていきたいと思います。

②基本システム

4-1-2-3vs4-1-2-3

 パルセイロもアルティスタ浅間もお互いに4-1-2-3のシステムを採用しての立ち上がりとなりました。パルセイロはリーグ戦でも取り組んでいる形で自分達の普段取り組んでいるサッカーでねじ伏せるような狙いがあったかと思います。対するアルティスタ浅間ですが、カテゴリー上の相手にも臆することなく自分達のサッカーで真っ向から勝負するという覚悟を感じました。
 アルティスタ浅間が普段どのようなシステムで試合をしているかは不明ですが、カテゴリー上の相手と行うトーナメント上の戦いでは、守備を安定させるという目的から5バック(3バック)や4-4-2の守備がしやすいシステムで臨むことが考えられます。しかし、ボール保持に利点のある4-1-2-3を採用し、守備でも積極的に前線からプレッシャーをかける場面が見られました。

③前半

【攻撃】

 攻撃面では組み立ての段階で、相手の策に対して有効に前進できない場面が散見されました。
 アルティスタ浅間の守備は基本的にはWGがSBに対するパスコースを切るようにして立ち、前向きでボールを受ける選手が出てこないように守備組織を構築しました。

外切りプレス回避

 CB-SB間のコースを切りながらWGがプレッシャーをかけてくるチームであれば、IHがプレス回避の経由地となるタイミングでアンカー脇に下りて瞬間的にダブルボランチのような形になることで、プレス回避しながら有効的な前進をすることができます。しかし、今回の守備の仕方は形が一緒でもプレス開始位置が異なっていました。

 基本的には上図のような形で待ち構える状態で守備組織を構築していたため、CBがボール保持をすることはできてもそれ以外のポジションの選手のプレー選択時間とスペースを狭められた状態になりました。IHやアンカーの選手を使いながら内外での出し入れを繰り返し、SBが前向きでボールを受けられた時はスムーズに前進することができましたが、グランドコンディションや強風(前半は向かい風)にも左右され、何度も成功させる場面は出てきませんでした。それでも基本的にはパルセイロが押し込んでいる時間帯が多く、後はフィニッシュの精度が求められる場面さえ決め切れば…といった決定機もありました。
 また、押し込んだ状態で川田と杉井から上がるクロスの精度はさすがで相手からすると非常に厄介な攻撃だったと思います。

【守備】

 守備時の役割はこれまでのリーグ戦と同様にかなり明確化されていたかと思います。
 まず、CFの位置に入る佐野はアンカーの選手に対してマンマーク気味でコースを消します。それに合わせて両WGがIHへ直接つけるパスコースを切りながらCBにプレッシャーをかけます。こうすることで、CBから通せそうに見える場所はSBへの外側の迂回経路しかなくなります。デザインされた守備で相手の前進経路を誘導することで、IHの選手がSBに対して即座にプレスをかけられるようになります。おそらく全体としての狙いで言えば完全にパルセイロの思惑通りであったはずです。
 それでは、なぜ前半の間に危険な場面を複数回作られたのか。
 推測に過ぎませんが、その理由は各選手の不得意領域によるものだと考えます。この試合でパルセイロの中盤3枚は東-住永-水谷が務めていました。3選手とも攻撃のリズムを作ることに特長のある選手だと思いますが、多くの試合で中盤のファーストチョイスになっている坪川-宮阪-佐藤の組み合わせに比べると対人守備での強度に関してはやや不安が残ります。全てのセカンドボールを拾えとは言いませんが、相手に体を入れられたときに正当なフットボールコンタクトでコントロールを不正確にさせる場面は前半で見られませんでした。
 一次攻撃で仕留め切れずネガティブトランジションに入った時、複数人で囲み、即時奪回から二次攻撃を高い位置で開始することが厚みのある攻撃につながりますが、前半ではなかなか即時奪回し切れない場面がありました。当然、アルティスタ浅間の選手の巧みさとも言えますが、トランジションにおける守備の不安さも少し関係してしまったかと感じます。相手の守備が整っていないところに攻められるのが二次攻撃の利点の一つなので、この点が流れからのシュートシーンの少なさに繋がったのではないでしょうか。

④後半

攻撃】

4-1-2-3から4-3-3へ

 後半のビルドアップでは前半と比べて中盤の3枚の位置が比較的流動的になっていました。前半のビルドアップでは4-1-2-3の文字通り、住永が1アンカーの位置に入り、IHの2人は住永より高い位置でボールの引き出しを伺っていました。しかし、アルティスタ浅間が3トップでSBのコース切り+1アンカーへのコース切りという形でプレッシングしたため、効果的なビルドアップに苦戦していました。
 後半からIHのいずれか1人、もしくは2人ともアンカー脇に下がって低い位置でボールを引き出すプレーが増えました。低い位置から中盤の3枚がローテーションしながらボールを引き出すことで、相手の中盤3枚も食いついてくるようになります。

DF-MFライン間

 アルティスタ浅間も守備の時は中盤で人を捕まえる立ち位置を基本にプレスをかけてくるため、低い位置でパルセイロの中盤の選手が関わるとDFラインとの距離を伸ばして圧力をかけます。このことによって、DF-MFライン間が大きく開くようになり、3トップに入れた後相手のプレスバックが遅くなりました。高い位置でボールが収まりやすくなり、前半よりも高い位置でプレーする時間が増えていたかと思います。パステンポのリズムを作り出すのが上手な中盤3枚だからこそできたビルドアップの変更ではないでしょうか。

 また、CBが持った時のSBへのパスルートの作り方にも工夫が見て取れました。
 右サイドの喜岡-川田のところは川田が比較的低い位置でボールを引き出すようになり、外切りプレスによって喜岡に負担がかかり過ぎないように立ち位置を変更していたように思います。
 一方、左サイドでは、前半、外切りプレスの影響もあり杉井が高い位置で良いポジションを取れていても、秋山-杉井間の距離が長くなり過ぎて秋山が供給する頻度が落ちていました。そこで、前半よりも流動的になった中盤の選手の1人がCB-SB間に下りて経由地点を作ることで、インターセプトの狙いを分散させて左からも有効な前進を増やすことができていたと思います。

サイドレーンでの渋滞

 パルセイロが攻めあぐねるときに起こりがちなサイドレーンでの渋滞を意識的に解消していくことで更に危険な位置からクロスをあげることにつながるでしょう。サイドレーンの崩しに集中しすぎてSB-WGに加えて中盤のIHorアンカーもサイドレーンに入ってしまい、結果的に相手が嫌がるスペースへの進入方法がドリブルのみに限定されてしまいます。
 図の黒丸で示したところに立っているだけでもドリブルのスペースを開けられますし、2列目から飛び出してより危険な位置からのクロスを上げられるようになります。この辺りのプレーは途中から出てきた原田が得意としてそうだったので、攻撃が停滞した時の彼の活躍に期待したいです。

【守備】

 前述したように攻撃時点での立ち位置が流動的になったため、守備面では1stDFの限定の仕方に悩まされたかと思います。中盤3枚の立ち位置が流動的になることでネガティブトランジションの時に自分が捕まえるべき選手の把握が大変で、スペースを気にしながらボールにアタックするので効果的でない方向からアタックすることになることがありました。そのため、「球際で負けてはいないけど、ボールはパルセイロ選手の背後+アルティスタ浅間選手の前にこぼれている」という事象が最初の方は頻発していたかと思います。
 ただ、それ以上に中盤の流動化がもたらした攻撃の厚みにより相手を押し込むことができたので、守備で苦しんだ印象は受けませんでした。攻守のシームレスなサッカーにおいては、攻撃の終わり方が守備の第一歩であることを再認識する良い事例だったのではないでしょうか。

⑤個人的MOM

 今回の試合でMOMに挙げるのは、三田尚希です!
 2020シーズン、2021シーズン共にチーム得点王であり、この人が得点をとった時ほどチームが勢いづくことはないでしょう。今季はリーグ戦で未だゴールがありませんが、チームを決勝に導くゴールを彼が決めたことに1点以上の重みがあると言えます。GWは3連戦が待っているので、彼の得点ラインキング巻き返しの大量得点に期待しましょう!

まとめ

 ここまで天皇杯県予選準決勝を振り返ってきました。カテゴリーの違う相手、プロが勝って当然という重圧、トーナメント緒戦というように戦いにくい要素は数多くありましたが、見事に90分間で勝負をつけて次のステージに上がる切符を掴み取りました。
 また、リーグ戦とは違ったコンビネーションや選手のプレーを見ることができて監督の言う「31人の素晴らしい選手がいる」という言葉の意味を再認識させられました。それぞれの活躍を見る限り、リーグ戦や天皇杯県予選決勝のスタメン争い、メンバー争いも熾烈なものになることは確定事項だと思うので、互いに切磋琢磨しながら連勝を続けてほしいと思います!
 ちなみに今季初の公式戦連勝達成になりました。リーグ戦も今季初連勝となるように、Uスタで鹿児島ユナイテッドFCに初黒星をつけましょう。

それでは、次回の記事でお会いしましょう!

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