【マッチレビュー】2022 カタールW杯 グループE ドイツvs日本
主なマッチイベント
基本システム&スタメン
ドイツも日本も大方は試合前の予想スタメンの通り。
ドイツは、4-2-3-1のシステム。久保や三笘といった日本のスカッドの中でも随一のドリブラーを警戒してか、対人処理に優れたジューレをRSBとして起用。また、この試合でも展開することになる4バックの左肩上がり形状によるビルドアップでは、RSBは中央に入り3バックを形成するため、攻撃性能はあまり重要視されていないとも言える。
ボランチには、ドイツ代表の心臓とも呼べるキミッヒ。その相棒には、今回ギュンドアンが起用された。日本のハイプレスを予想して、ゴレツカよりもプレス回避性能の優れたギュンドアンを選択したように思える。
2列目はサネの負傷により、ミュラーを起用。左肩上がりのビルドアップにおける適材適所を狙って、左からムシアラ・ミュラー・ニャブリを配置した。
対する日本も、4-2-3-1のシステムでスタート。合流直後の影響が気になる三笘・冨安・守田はベンチスタート。ただ、W杯直前のブンデスリーガで脳震盪を負った遠藤は、この一戦になんとか照準を合わせてスタメン起用に間に合う形になった。
W杯前最終のテストマッチとなったカナダ戦で、調子を確認できた板倉&田中はスタメン起用。また、W杯が近づくにつれて試運転していた久保の左サイド起用もカナダ戦から継続して選択した。
探り合いの序盤
試合前の結果予想の段階では、世界中の大半がドイツが無難に勝利することを考えていただろう。実際に、試合の大勢としては、ドイツがボールを握り、日本が守備ブロックを構築する流れになった。
ドイツはボール保持で左肩上がりに可変し、ビルドアップを図る。対して日本は、鎌田と前田が横関係になる4-4-2の守備ブロックを組んで対応。4-4-2のブロックで対応しながらも、SB(🇩🇪)vsSH(🇯🇵)・SH(🇩🇪)vsSB(🇯🇵)のマンツーマンマークの姿勢は崩さない。
序盤はドイツも日本の守備ブロックのやり方を伺う姿勢。いずれ日本の守備を翻弄するラウムを中心とした左サイドだが、序盤では大きな変化はない。日本は4-4-2の3ラインの距離感を意識し、人を捕まえる迎撃守備の体勢をとった。
前田と鎌田は"釣瓶"のように、ゲートを広げないようドイツの2CBに対して制限を加える。日本の3ラインの距離感とドイツの様子見姿勢によって、ボールを握れているドイツであったが、中盤で日本の守備に引っ掛かる場面も見られた。
この試合で最初の決定機を迎えたのは日本。ドイツのビルドアップに対して、組織的に狙いを持って奪い切れたわけではなかったが、遠藤や鎌田といったブンデスリーガで活躍する個人の質でカウンターの起点を作った。
日本としては、良い意味でのドイツのスロースタート姿勢であり、ドイツとしては、拍子抜けのスロースタートになったのではないだろうか。
ドイツの適応による攻勢
ドイツはボールを握りながら日本の守備ブロックの仕組みを把握していく。
ラウムの配置された左サイドの可変が、時間を追うごとに顕著な形になっていった。SB(🇩🇪)vsSH(🇯🇵)・SH(🇩🇪)vsSB(🇯🇵)のマンツーマンマークを利用し、伊東を引きつけて高い位置をとる。酒井も内側に入るムシアラに引っ張られて絞り込むしかないため、日本の右サイドから徐々に制限がかからなくなっていった。また、押し込まれる時間が増えていくにつれて、3バック(🇩🇪)vs2トップの制限の緩さが拡大し、カウンターにも移行できなくなっていった。
また、2トップ(🇯🇵)の脇に運ばれる事象は、左サイド(🇯🇵)でも守備局面で後手を踏む原因になってしまう。
元々、SB(🇩🇪)vsSH(🇯🇵)という構図からジューレに対しては、久保が制限をかけるマッチアップになっている。しかし、SBの位置ではなく、3バックのRCBのような位置でジューレがボールを運ぶため、久保はカバーシャドウで消すべきコースが絞りきれない。
加えて、RSH(🇩🇪)のニャブリがサイドレーンに開いて高い位置を取ることで、LSB(🇯🇵)の長友をピン留め。久保の背後にあるスペースにミュラーが流れることで攻撃のリンクマンを担う。このミュラーの動きによって、遠藤-田中のゲートが緩くなる原因を作られたり、久保のプレスが無効化される場面が多かった。
結果として、押し込まれた局面でクリアすることが増え、全体としてカウンターに移行するエネルギーを蓄えることができない時間帯が続いた。
PK献上
左サイド(🇩🇪)はラウムをWGポジションにまで押し上げる可変システム。右サイド(🇩🇪)はミュラーのポジショニングによって久保のプレスの無効化。左右のいずれでも日本は前線から制限をかけることができないことを、前項で説明した。
失点につながるPK献上場面では、その制限がかからない左サイド(🇯🇵)を突かれ、ラウムに深い位置までの侵入を許した。
久保は自身の背後にミュラーが流れることを把握しながらプレスをかけたいが、1列後ろの長友はニャブリのポジショニングによってピン留めされている。その結果、正対して構えることができず、運ばれてしまう。
ミュラーの空けたスペースにFWラインからハヴァーツが降りてくる。ミュラーに落とした時点で、久保のプレスは完全にいなされてしまった。
その後、自らミュラーが持ち上がり、日本の最終ラインとボランチを押し下げることでキミッヒのエリアが必然的に空いてしまう。
そして、ラウムの駆け上がりに対して、伊東は背後を取られ、酒井はムシアラに食いついてしまう。キミッヒは後出しジャンケンのようにぽっかり空いた酒井の背後に逆足ながらも正確にパスを供給。最後は、クロスコースがないとわかったラウムが、権田の飛び出しをうまく使ってPK獲得。
流れの中からの失点ではなかったが、制限がかからない守備ブロックの隙間を使われ続けて失点につながった点で、ドイツの狙い通りの攻撃だっただろう。
首の皮一枚…
失点したことにより、ピッチ上の選手たちは今一度前線からの守備の再構築を図ろうとしているように感じた。
前田-鎌田のゲート間で出し入れを繰り返すボランチ(🇩🇪)に対して、日本もボランチを一枚高い位置に配置して、圧力をかけようとした。しかし、2トップvs3バックという不利な状況は変えることができず、シュロッターベックに持ち運びを許す。結果として、ムシアラやミュラーのスペースを抑えきれず、中盤に大きなスペースが生まれる。そして、一時的にオープンな展開に陥った。
VARによって取り消されたドイツの2得点目もオープンな展開から前進を許した結果であった。
勝負の3バックへ
森保監督はハーフタイムに久保に代えて冨安を投入。システムも4バックから3バック(5バック)に変更した。
日本の守備ブロックが4-4-2から5-2-3になったことで、ドイツの3-2-4-1にズレなくマッチアップすることが可能になる。今まで2トップで抑えることのできなかった3バック(🇩🇪)に3トップ(🇯🇵)をぶつけ、前進を抑制。高い位置をとるラウムに対しては、RWBの酒井が対応することで、後ろ重心になりすぎずに正対できるようになった。
DFラインからボールを引き出してゲームをコントロールしていたダブルボランチ(🇩🇪)に対しても、遠藤&田中が対応。各局面で1vs1を生み出すことによって、前線からの守備の形を整頓した。
その一方で、各地点で1vs1でドイツの攻撃を受ける日本の守備ブロックにも弱点はある。日本の2-3の前線からの守備がひっくり返され、前を向かれてしまうと直接的にゴールに迫られてしまう。実際に、局面局面の個人の質で守備の網を抜けられ、ゴール前に迫られる場面も序盤から散見された。
ギュンドアンのシュートがポストを叩く攻撃もそういった僅かな質の差によってもたらされたズレから生まれたものであった。
最大火力配置
田中に代えて堂安、酒井の負傷により南野を起用することによって、日本の最大火力配置が完成。両WBに日本の誇る卓越した攻撃性能を持つ2人が配置された。
日本が3-4-3(5-2-3)に変更して以降、攻撃でもメリットを発揮した。3バック(🇯🇵)のビルドアップに対して、1トップ(🇩🇪)+両SH(🇩🇪)で抑えにくるドイツだが、配置の性質上、日本のWBに対しての制限が甘くなる。このWBに生まれた時間とスペースを有効活用し、SB(🇩🇪)の裏に果敢にボールを配球していった。
堂安が同点弾を奪った場面でも起点はLWBの三笘の位置から。南野がジューレの前に立ちながら、中央にピン留め。ドリブルとパスの選択肢がある中、三笘は内側に運び、南野へラストパス。南野のシュートに堂安が詰めて同点とした。
一瞬の隙を突く逆転弾
第2戦にスペインとの対戦が控えるドイツは、第1戦の日本戦をどうしても落としたくないはず。もう一段ギアを上げて日本ゴールに迫ることが予想された。
対する日本としても、まずは勝点1以上を前提に守備から再スタートを図った。同点に追いつくまでは、3-2-4-1(🇩🇪)と5-2-3(🇯🇵)の配置を生かして、前線から積極的なプレッシングを継続していたが、ファーストラインを一段後ろに下げたように感じた。
中盤のスペースを空けてまで前に出ていくのではなく、セットした状態から正対した相手に対してプレッシングをかける設計に。このことによって、遠藤のデュエル力が発揮される狩り場が復活。球際において、ブンデスリーガでもトップの数値を誇るボランチがドイツの攻撃に待ったをかけるシーンが増えた。
日本というアジアの国に対して、引き分けているという状況がドイツの選手にとって燃えないわけではなかったはず。しかし、明らかに統率力を欠いていたことの事実。
日本の2得点目の場面で、ドイツの4バックは意思疎通が全くできていないと思わざるを得ないほどのラインコントロールになった。ラウムは前方でニャブリが切っているはずの伊東のコースに食いつき、ジューレは最もラインが見えるポジションにも関わらず、一人でオフサイドラインを下げた。
一瞬の隙で、浅野が卓越したコントロールとシュートテクニックを見せて逆転を実現させた。
ドイツの失速
ドイツは逆転したことで、また一段とギアを上げることが想定されたが、ピッチで有効な攻撃は展開されなかったように思う。
ギュンドアンとミュラーが交代したことによって、ドイツは日本のブロックの隙間でボールと人を出し入れする回数が明らかに減った。ただ、前線に長身のフュルクルクを投入したこともあり、パワープレーに移る選択もあった。
それでも、ドイツは後方から丁寧に日本の守備の隙間を作ることに時間を割いた。日本とドイツにFIFAランキングの差があったとしても、5-4-1のブロックを崩していくことは簡単ではない。ゴレツカやフュルクルクを前線に上げているものの、密集に放り込もうとはしないドイツ。
残り時間で、ドイツが日本のゴールに迫った場面は、全てがアバウトなロングボール起点だったことを考慮すると、何だかチグハグな終盤になってしまったのではないだろうか。
第2戦にスペイン戦があることを考慮して、ミュラーやギュンドアンを交代させたかもしれないが、ピッチ内の配置と人選の特徴と、行っていたサッカーの形はミスマッチに見えた。
まとめ
前日にサウジアラビアが逆転でアルゼンチンを破ったことに続き、アジア勢が優勝候補を2日連続で破る、歴史的な夜になった。
前評判を大きく覆す逆転勝利は、まさに日本チームの狙い通りの形でもたらされたと言い切れるだろう。
前半はカウンターを主体にしながら、1失点までは想定しておいたはず。明らかに3-2-4-1(🇩🇪)の攻撃と4-4-2(🇯🇵)の守備にはミスマッチが生じていたものの、焦れずに45分間プランを遂行。ハーフタイムに入って、準備していた5-2-3の前線からの激しい追い込みを実施。これまで、日本代表を見てきた日本国民ですら、森保監督の保守的な采配には疑いを持たなかった。それは、敵将フリックも同じはず。
後半開始からシステム変更を加え、早い段階で選手たちを交代していく采配がCL優勝監督の想定を上回った。個人の質で日本のプレスをいなす以外、後半の戦いでドイツ代表の良さが現れることはなかった。
4-2-3-1、4-1-2-3では世界に誇れる2列目の選手の才能を生かしきれないという意見をぶった斬るかのように、5-2-3で見事に才能を共存させて見せた。
まさにプラン通り。運も味方したが、勝ち筋を明確に捉えて戦い続けた日本代表が勝利に値したことは、結果論ながら妥当性のあるものだった。
対ドイツとして仕込んだ5-2-3。次戦コスタリカ戦では、どのように相手の良さを消し、日本の長所を生かすサッカーができるだろうか。第3戦にスペイン戦が控えていることを考えると、是が非でもコスタリカに勝利して決勝トーナメント進出を確実にしたい。
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