naganonym

映画を作ったり売ったりする仕事をしています。 見たものや聞いたものの個人的感想を備忘録がわりに残したいと思っています。万が一読んでしまった場合は、読了後30分以内に忘れてください。 よろしくお願いいたします。

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成瀬巳喜男監督『乱れる』と決して乱れない高峰秀子の前髪

どえらい傑作。なぜ今まで見てなかったんだろうと強く後悔…。デコちゃんこと高峰秀子のあらわな額、完璧にとかしつけられた前髪がついに「乱れる」その瞬間にすべてを賭ける。どこまでも唯物的な、その着地点が美しい…。カタストロフでありながら、センチとはほど遠いラストシーンひとつとってみても、高峰の夫・松山善三オリジナル脚本による本作は、やはり単なるメロドラマとは一線を画している。言ってしまえばあのラストカット、成瀬巳喜男のフィルモグラフィー中でもおそらく屈指の、高峰秀子の超クロースアッ

    • 虚構に全ベットされた本物、Netflix『Mr. マクマホン: 悪のオーナー』と私の中のWWE

      2003年頃のこと。学校帰りに遊びにいった友達ん家でWWEに出会った。最初はゲームだった。混沌たるリング内で人間離れした動きを繰り返すレスラーたち、リング下から無限に供給される武器、リングを離れ花道を走り回って戦った挙句、6.1mの金網上から飛び降りるレスラー、粉々に崩壊した実況席、流れ弾ならぬ流れ技を食らって気絶するレフリー、ひとたび相手がフィニッシュムーブに入れば座して死を待つかのごとく技を受けるのを待つレスラーたち…。ゲーム自体も荒唐無稽だったが、数日後にDVDを借りて

      • 史上初の純粋テニス映画『チャレンジャーズ』が動体視力の果てに見た永遠の運動、あるいは人間の狂気について

        ルカ・グァダニーノ新作にゼンデイヤ主演、かなりエンタメ寄りのトランスなアッパー映画だという前評判、目に映る範囲では口コミもかなり良さそうだったのに、日本ではおぞましいほど興行振るわず、スクリーン数もあっという間に減少し、スポーツ映画は当たらないのジンクスを多少考慮したとしても、いよいよ日本の洋画配給の危機的状況を感じずにはいられない今日この頃。かくいう私も昨年の第一子誕生以降ほとんど映画館に行く機会はなく、本作もついぞ劇場で観ることはかなわなかったので、なにも言う資格はないの

        • ギョーム・ブラック監督『リンダとイリナ』にしか伴わない感情と大いなる疑問について

          仕事以外の時間はすべて一歳育児から放射状にひろがる家庭生活に注ぐ毎日、もはや仕事以外では映画館へ行くこともままならない身だが、そんな折ひさびさに降ってきたしばしの自由時間、私は迷うことなくユーロスペースへと向かった。そう、世界にはまだ、ロードショーを逃すと次いつ見られるのかわからない映画というものがある。 世の中の父親の平均的行動からすれば、ほとんど変態と思しき行為かもしれない。何を好きこのんで、ようやく手に入れた束の間の休み時間に、海外の無名役者 (でさえないかもしれない

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          舞台「ふくすけ2024 -歌舞伎町黙示録- 」所感

          作・演出:松尾スズキ こんな禍々しい戯曲を当時20代で (若さゆえにこそ) 書ききった松尾スズキその人がまさしく異形の人であり、それ自体がひとつの偉業だ。 あえて断じてしまうと、やってることは結局「こんなセックスは嫌だ」的なありえないセックスと破滅的シチュエーションの大喜利なのだけど、それってダイレクトに人間の欲望の多形、多様性、そこに渦巻く深いカルマを描くことになるので、根っこは実は超王道の人間ドラマになっていたりもする。 多様なセックスを仰々しい音楽とともにカリカチュア

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