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舞台「ふくすけ2024 -歌舞伎町黙示録- 」所感

作・演出:松尾スズキ

こんな禍々しい戯曲を当時20代で (若さゆえにこそ) 書ききった松尾スズキその人がまさしく異形の人であり、それ自体がひとつの偉業だ。
あえて断じてしまうと、やってることは結局「こんなセックスは嫌だ」的なありえないセックスと破滅的シチュエーションの大喜利なのだけど、それってダイレクトに人間の欲望の多形、多様性、そこに渦巻く深いカルマを描くことになるので、根っこは実は超王道の人間ドラマになっていたりもする。
多様なセックスを仰々しい音楽とともにカリカチュア的に提示するような直球の下品さも持ちつつ、破滅的で尖っているばかりでない、人間のしようもなさ、どうしようもなさに対する、やさしい諦念が見えるので、途中で半ば筋を理解することを諦めてしまっても最後まで心が離れることはない。舞台的力業と根のやさしさ。烈しい怒りと憐憫。剛と柔の合わせ技の勝利、あるいは敗北。
なにより、演じるキャラクターの感情とは別の次元で、すべての演者の身体が「ふくすけ」に出ること、舞台に立つことの快楽に打ち震えているように見える。辻褄よりパワーを、正しさより愛を優先した圧倒的にアンバランスで悍ましいホンを与えられ、彼ら自身の多形的で複雑な欲望が、言葉と身体にのりまくっている。解き放たれた異形の役者たちの競演を目撃せよ。それだけでかの禍々しき歌舞伎町タワーに足を運ぶ価値がある。

そして私たちはまたしても試されている。時代を超えて甦った90年代の亡霊、その列に並んださらに古き亡者たちが叫ぶ。世の不条理に怒るなら、これくらい徹底的にやれ、さもなくば華麗に散れ、と。

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