短期滞在研修プログラム2022「生きることとアートの呼吸」発表会レポート1
長野県のアート拠点や芸術祭、信州アーツカウンシル(以下、信州AC)支援事業やNAGANO ORGANIC AIR(以下、NOA)が実施されている地域を参加者が訪れ、実践者との交流を通して、アートと風土の関わりや地域の多様な魅力を体感する「【短期滞在研修プログラム2022】生きることとアートの呼吸 〜Breathe New Life」。
10月21日から5日間の日程で開催しました。
最終日の10月25日は、小海町のセミナーハウスにて参加者7名による発表会が行われました。本プログラムのホストであるブルーベリーガーデン黒岩/わかち座の黒岩力也さんと司白身さん、小海町高原美術館の館長・名取淳一さんと学芸員・中嶋実さんほか、オブザーバーとして、ISHIKAWA地域文化企画室代表・石川利江さんや信州ACカウンシル長・津村卓らが出席しました。
【1/7】過去を思うだけではなく、これからを考える/大司百花
信州大学人文学部に所属する大司百花さんは、地域における芸術活動についての研究を行っています。
10月22日に訪れた木曽ペインティングス(木曽郡各所)では、前日に作品を観たアーティストがステージショーをやっているのに遭遇。作品からは想像することができなかったアーティスト本人と出逢い、作品と作者について思いをめぐらせたり、「地域にアートが溶け込んでいることの不思議さや心地よさ」を感じたそうです。
また、木曽ペインティングスで観た短編演劇「木曽、わたしたちのまつり」(脚本・演出:NOA木曽アーティスト・私道かぴ)に触発され、「踊りは、多様な人々のコミュニケーションツールとなり、場をつくる力があるのでは?」という問いを立て、大司さんが暮らす松本市で新しい踊りを創作するプロジェクトの立案につなげていました。
大司さんは、出身地である奄美大島で、「伝統行事にまつわる地域住民の活動」を地域芸術と捉えて研究しており、トビチ美術館(辰野町)や小海町高原美術館などでの体験をとおして、「記憶装置としてのアート(過去を思うだけではなく、これからを考える)」をテーマとしたアートプロジェクトの構想をまとめ、話してくれました。
信州大学発の芸術思想集団「現代限界芸術研究会(俗称ゲンゲン)」の会長でもある大司さん。「日々の生活の中に芸術的な要素をみつける」ことを活動のテーマにしているとのことで、アートプロジェクトの祝祭性とゲンゲンの日常にもとづいた視点が、どうつながっていくのかも楽しみだなと思いました。
*参加者・オブザーバーから大司さんへ
参加者からは、プロジェクトについて「どういった場所での踊りを考えていますか」「木曽踊りのどういった点を魅力に感じたのか教えてください」といった質問があり、大司さんは「木曽踊りは、誰もが気軽に踊ることができるシンプルさが魅力。まずは大学内から始めて、少しずつまちに広がっていくようにやっていけたらいいなと思っています」と答えていました。
【2/7】拝啓、未だ見ぬあなたへ/岸本麻衣
インタビュアー、プロデューサーとしてラジオ番組の編集などにも携わっている岸本麻衣さん。プレゼンのタイトルは……。
岸本さんの視点は、文化芸術活動をいかにパブリックな場へと広めていくかというもの。「どうしたらこの素敵な活動をもっと多くの人に知ってもらえるか」や「世界の捉えかたは無数にあると知ったら、生きることがもっとラクになる人がいると思っているから」という自身の考えに加えて、
など、各地で出会ったホストの声を紹介。「生きることとアートのあいだにある線を『線』ではなく、浸透率の高い『膜』にしていけないか」といった目的を設定し、「未来状ポスト」と「追伸ラジオ」というPRを提案してくれました。
「未来状ポスト」は、「未」「来場」「未来」「招待状」をかけあわせた「お手紙サービス」。信州ACが助成する各プロジェクト会場に、ポストと便箋を設置し、来場者が、展示作品を「まだ見ていない人」や「きっと見ないであろう人」に向けて、手紙を書くというもの。
「追伸ラジオ」は、アートを楽しんだ人の声を届けるラジオ番組。各会場で鑑賞した人の感想をボイスメッセージとして紹介する、まるで「追伸」のような存在とのこと。誰かが、誰かのつぶやきを聴くことで、芸術文化活動に関わる人の「体温」を伝えるようなサービスでした。
*参加者・オブザーバーから岸本さんへ
信州AC・藤澤:「カルチベートチケット」といって、演劇のチケットを誰かにプレゼントするサービスをやっている劇場がある。未来状チケットは、そんな感じでやっていけそう。追伸ラジオは、ある作品を二次創作していくような感じがしておもしろいと思いました。
平野:芸術に興味がない人にも届けることができるかもしれない。すてきだなぁと思いました。
【3/7】変わる街と変わらない街/後藤湧力
信州大学人文学部に在籍する後藤湧力さん。アートが地域にどのように受け入れられていくのかに興味を持ち、今回の研修プログラムに参加してくれました。
王滝村のゲストハウス常八に描かれた近藤太郎さんの壁画からは、「失われた街を、失われた時代を、知らない人が描く/街が外に開かれている」という思いを抱き、後藤さんが参加するまつもとフィルムコモンズの活動とつなげて、昔の映像と現在のまち並みを比較し、それらを記録に残すワークショップを考案しました。
後藤さんは、まつもとフィルムコモンズで発掘されたフィルムを会場で流してくれました。松本市にある美鈴湖がスケート場だったときの1960年代のモノクロ映像が流れると、会場から「おぉ〜」という歓声が。シニア世代の懐かしさと若い世代の驚きが入り混じった声だったのでしょうか(笑)。
「『有機的なつながり』を今回の研修の中で学び、私たちの今行っている生活も未来につなげたい」という思いから、現在のまちの風景を、あえて8mmフィルムなどのアナログカメラで撮影し、記録作品として残すアイデアも。その作品自体が「未来から眺めた今」としても認識できる点がおもしろい、と共感が寄せられました。
*参加者・オブザーバーから後藤さんへ
信州AC・佐久間:松本出身ということもあり、ワークショップに参加したいと思いました。移り変わるまちの記憶をつないでいくきっかけにもなるといいなと思いました。
【4/7】女性と踊り、想像とリサーチ/松本奈々子
パフォーマー・振付家の松本奈々子さんは、「滞在中、それぞれの地域で出会った人が、それぞれの立場で関わったり、制作をしたりしていたことが印象に残っています」と述べ、誰と関係して、誰と活動するのかが具体的に意識されている点も、今回訪れたホストに共通していた、という感想を話してくれました。
また、自分の活動と関連してやってみたいこととして、「有機的に長野県と関わっていくにはどうしたらいいか」という問いから、小さな活動をつなげて創作につなげたいこと、また、「ストッキング リサーチ プロジェクト(仮)」のアイデアを発表し、オブザーバーから大きな注目を集めました。
このプロジェクトのアイデアは、本研修の初日に「Re-SHINBISM1 そして未来へ」展(長野市)で鑑賞した中村恭子さんの作品から始まっていました。その作品は、《書割少女》(2020、21年)と名付けられた日本画で、後ろを向いた少女のふくらはぎから下だけが描かれているもの。松本さんは、「足がみえる女性の掛け軸の絵がずっと心に残っている」と話し、足やストッキングをめぐる女性性や社会的背景についての連想から、シルクストッキングと長野県の養蚕業、岡谷市出身の劇作家・岸田理生の作品などにも触れました。
*参加者・オブザーバーから松本さんへ
信州AC・野村:「ストッキング リサーチ プロジェクト(仮)」は、かなりしびれる感じの角度でした。上田市には「らいてうの家(平塚らいてう記念館)」があって、それが上田地域の女性たちの元気につながっているかもしれないと思っています。社会学者・沢辺満智子さんの養蚕文化の研究や岸田理生の戯曲「糸地獄」など、このプロジェクトに関連するリソースが、長野県には結構あるのではないかと思いました。
信州AC・津村:松本さんは、ものすごい導かれたなという感じがしました。
石川:ぜひ中村恭子さんにも会っていただきたいです。
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(文:水橋絵美)
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