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短期滞在研修プログラム2022「生きることとアートの呼吸」滞在前半レポート

10月21日 
「生きることとアートの呼吸」はまず長野市のギャラリー82で行われたRe-SHINBISM展から始まりました。シンビズムは(一財)長野県文化振興事業団が2016年より始めた、長野県内の学芸員同士のつながりを深めることを目的とした企画です。この企画が始動したのには長野県内の風土とミュージアムを取り巻く環境とが強く関係しています。というのも長野県は「谷ごとに村が分かれる」と言われるほど多数の集落を持ち、そのどれもが独自の文化を持っていました。そしてその細分化された集落の各地にミュージアムが建てられたことで、長野県は日本でも有数のミュージアム数を誇る都道府県として知られるようになりました。しかし、同時に日本有数のミュージアム数を誇る一方、多くのミュージアムが一人もしくは少数での運営が行われている現状があります。こうした状況下で各地のミュージアムで、長野県にゆかりのあるアーティストの方を招き各地の学芸員の方同士が手を合わせて展示を行う形でシンビズムは始まりました。

こうして2016年にスタートし2021年までに計四回、全65名ものアーティストの方を招いて行われました。今回のRe-SHINBISMではそうした65名の中から特に15名のアーティストの方の作品が展示されるとともに、シンビズムが行われた5年間の振り返りが行われています。展示を見て驚くことはまずその作品の多種多様さでした。ある方はキャンパスに、ある方は掛け軸に、ある方は彫刻で全く異なる表現を展開していました。こうした全く異なる作品が同じ一つの場所に集まっているだけで、この企画がどれほど多くの学芸員の方たちの協力で行われたかが伺えました。初日にこの展覧会を覗くことで私たちは、長野県という土地で博物館を経営するために尽力されているたくさんの学芸員の方々の姿を想像することが出来ました。

10月22日
2日目のプログラムでは辰野・諏訪地域でのアート活動を巡る旅が行われました。
朝早くにまず訪れたのは辰野町のトビチ美術館でした。トビチ美術館は辰野町にある下辰野商店街を、一つの美術館と位置づけ、その空き家や空き店舗を活用しながら今はもう使わなくなった場所や道具などに再び光を当てるプロジェクトです。辰野駅横を流れる澄んだ川に沿って商店街は伸び、そこにぽつぽつと再活用された空き家が点在しています。このプロジェクトを主催した「○と編集社」の赤羽さんは設計事務所で働かれていた方で、もともとアートプロデュースが本職の方ではありませんでした。しかし、このことによってトビチ商店街は「アートによって街を再活用する」という新しい試みが実践されているように感じました。

辰野町や諏訪といった地方の町ではこのトビチ商店街に見られるような空き家の存在が大きな問題となっています。例えばそこで使われる石こうは、処理するだけで多額の費用がかかり、個人で取り壊すのは大きな負担となってしまいます。ここで展示されていた村上結輝さんの「gallery tooo」ではそうした石こうが見事に再活用され、白く無機質だけれど味のある空間が広がっていました。この活動は企業などからもお声がけされるほど社会への貢献が期待されています。また、最後に訪れた「&garage」では古い車庫がダンススタジオ兼ライブボックスへと再活用されていて町の方々との新しい交流の場を作り出されていました。数年前から流行したコロナウイルスの影響でアートはその存在価値を問われることが多くなりました。こうした「アートによって街を再活用する」という試みはそうした問いへの一つの答えのようにも感じることが出来ました。

辰野町を後にしたその後は岡谷市の照光寺で「SUWA×文楽」を鑑賞しました。

諏訪地方は人形浄瑠璃の題目である「本朝廿四孝 奥庭狐火の段」の舞台であり、同時に飯田地方に残る3つの人形座が人形浄瑠璃の伝統を受け継ぎ続けてきました。こうした背景もあり諏訪の照光寺を劇場とし、人形浄瑠璃が行われました。舞台は一時間の説明と一時間の劇とに分けられ脈々と受け継がれる伝統文化の凄まじさを体感することができました。三味線の演奏の仕方、人形の動かし方、語り部の言葉の発し方、そのどれをとっても素人にはマネすることのできない芸能の姿が広がっていました。

舞台の後には諏訪湖に立ち寄り、今回のプロジェクトに参加した参加者たち全員で諏訪湖を眺めました。そこで舞台にも登場した千代姫の像を見つけ、その後に諏訪大社に参拝しました。長野県内で今回訪れたようなアート活動が盛んなのは諏訪湖のような雄大な自然が無関係ではないように感じました。長野県のアート活動はそうした自然と地域の文化とが融合し合いながら作られているのだなと感じられました。

(文 信州大学人文学部生 後藤湧力)


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