見出し画像

短期滞在研修プログラム2022「生きることとアートの呼吸」発表会レポート2

長野県のアート拠点や芸術祭、信州アーツカウンシル支援事業やNAGANO ORGANIC AIR(以下、NOA)が実施されている地域を参加者が訪れ、実践者との交流を通して、アートと風土の関わりや地域の多様な魅力を体感する「【短期滞在研修プログラム2022】生きることとアートの呼吸 〜Breathe New Life」。

今回は、最終日の10月25日に小海町のセミナーハウスで行われた発表会の後半部分をレポートします。

発表会レポートの前半はこちら。


■テーマ「生きることとアートの呼吸」というタイトルを踏まえ、あなたが今後やってみたいと思う活動や企画をお考えください。
■発表時間 10分程度
■発表形式 自由

【5/7】今田人形・飯田と己を超える/ヤマモトミホ

ヤマモトミホさん

飯田人形浄瑠璃振興会に所属し、文楽公演のサポートを各地で行っているヤマモトミホさん。今回の滞在では、岡谷市で公演された「SUWA×文楽」や上田市の劇場兼ゲストハウス「犀の角」で、それぞれの地域のキーパーソンから聞いた話に感銘を受け、自身の企画を発表してくれました。

「SUWA×文楽」会場の照光寺(岡谷市)。住職の宮坂有憲さんにもお話をお聞きした

それは、今田人形と犀の角のコラボレーションによる公演&ワークショップのアイデアでした。今田人形とは飯田市龍江に伝わる伝統芸能で、普段は地域の中学校で人形遣いや大夫を指導したり、イベントなどでの公演を行っています。

ヤマモトさんのプレゼン資料より

ヤマモトさんが犀の角を選んだ理由は2つありました。1つは「普段、観劇の機会がない人(宿泊者)が、思いがけず舞台と出会ってしまう場」であること。もう1つは、人形浄瑠璃にちょうどよい舞台構造を有していること。

ヤマモトさんのプレゼン資料より

舞台と客席の境界線を曖昧にし、誰にでも開かれた環境で今田人形に触れてもらうことがヤマモトさんの狙い。演者と観客みんなが交流できるようなお茶タイムを考えている点にも、心が和みました。上田市だったら「みすゞ飴」、飯田市だったら和菓子など、それぞれの地域を代表するお茶請けを用意するそうです。

*参加者・オブザーバーからナカムラさんへ

信州AC・津村:文楽の世界は昔からチャレンジングな人が多いんです。若い演出家が一生懸命考えて持ってきたプランを人形遣いの大御所が見て「これ、おもしろいねぇ。50年前にやったよ」という逸話があったり(笑)。ヤマモトさんのアイデアもおもしろいから、ぜひやってほしいです。

野村:犀の角のショーウィンドウを舞台にして、通りから観てもらったり、義太夫は通りに聴こえるように演奏してもらうのもいいかもしれない。芸能の外に開かれた感じがいいなと思うので。

津村:まちの音と混じり合ったりするのもいいですね。

【6/7】そこで生まれる「ゆれ」をどう享受するか/大村麻弥

大村麻弥さん

大村麻弥さんは、イエナプラン教育を実践する学校で音楽を教える傍ら、ワークショップデザイナーとしてアートワークショップの企画・実践も行っています。

今回は「ORGANICにつなげること」に興味を持って参加してくれました。大村さん自身がワークショップを行う時は、そこで生まれる「ゆれ」をどう享受するかを大切にしているとのこと。享受を「共受(共に受ける)」という言葉でも表現していた点が印象的でした。

大村さんプレゼン資料より

文楽の上演や対話型鑑賞など、自身の学校ですぐに実践してみたいことをフェーズ1、県内各地に点在する「アートの呼吸=息吹き」をつなげるオンラインミーティング、そこから生まれる新しい踊りの創作などをフェーズ2として設定し、多彩なアイデアを発表してくれました。

そして、今回の滞在で自身の中に生まれた感情や葛藤を、スライドショーと音楽で表現してくれました。

演奏する大村さん

「多くの人に『息吹き』を伝えたい」という思いから生まれたフェーズ1、2を経て、「私にとっての『息吹き』とは……」という「ゆれ」のような何かから生まれた大村さんの演奏。ピアニカとスリットドラムで演奏された楽曲は、1日目の善光寺のお朝事で聴いた声明を発端にしたものでした。

4日間の滞在をスライドショーと音楽で表現する大村さん

ひとりの身体をとおしていろいろなものをつないでいくことと、音と音が重なり合う様子は、「オーガニック」という言葉とも共鳴しているようでした。参加者それぞれの心に響くものがあったのではないでしょうか。

*参加者・オブザーバーから大村さんへ

:すごくよかったです。アートに触れている時は嘘をつきたくない、正直でいたいなと思いました。

【7/7】山、山、また山/平野明

平野明さん

平野明さんは舞台照明の仕事に携わる一方、京都と東京を行き来して劇団ユニットで劇作も行っています。

「自然を前にすると、人間や『アート』がとても頼りなく、チャチで小さいものに感じた。自然の生命力やパワーに人間は勝てない。(略)だからこそ、山の前で成り立つ作品のあり方に興味をもった。ホワイトキューブなど人工的な空間ではなく、負けることが前提の場所で立つ方法を」と平野さん。ひと晩でひとり芝居の創作に挑戦してくれました。

作品のタイトルは、「おやすみまえのレパートリー01『こわいもの』」。

劇の始まりは、小さな明かりが言葉の川を照らすシーンから

平野さんのひとり舞台。
薄茶色に変色した紙が蛇行する川のように広がっており、
木箱はほとりのように置かれている。
水辺を歩きながら言葉を紡ぎ、その声が周りの山々に響く。
舞台奥の窓からは高原の紅葉が見えるーー。

拾った言葉を集めて束にするシーン

今回の研修プログラムをとおして、芸術にはどのような役割があるのかを考えたという平野さん。

「1つはメッセンジャー、1つは啓発者、1つは美しい人(ロマンチスト/理想)」

平野さん曰く、今回の作品は「ドローイング」で、3つ目の「ただただ美しい」描写ということなので、これらの線がどのような厚みをもって編纂され、またほどかれていくのか、続きが観てみたくなりました。

「圧倒的な山の美しさをただ映して提示する。そして川から言葉を拾ってそれを編んで、ほどいて、また川に戻す、これをやりたかった」と平野さん

「山、山、また山」という平野さんの声は、本研修プログラムが終わっても不思議と脳裏に響いており、それだけ見応えのある劇だったのだと思いました。

*参加者・オブザーバーから平野さんへ

「いつ、これをやろうと思ったんですか?」という質問には、「昨日(10月24日)の夜です(笑)。一昨日(23日)ぐらいから、この場所に来てからどうするか決めようと思っていました」。用意した木箱はもともとセミナーハウスにあったもので、濃淡がさまざまな紙は、夜中にコーヒーで染めておいたとのこと。照明として活用されていた懐中電灯も、夜ごはんを買いにいった時にホームセンターで買ったそうです。これには、会場内が「ひぇ〜」「おぉ〜!」とどよめきました。

会場となったセミナーハウス(小海町)

自然にも人間にもポテンシャルを感じる

最後にホストとオブザーバーの皆さんから全体の感想をいただきました。

小海町高原美術館館長・名取:美術のいろいろな面を見せていただいたり、聞かせていただきました。私たちも、より多くの方とコミュニケーションをとりながら、次のステップをつくっていきたいと思いました。

10月24日の研修は小海町高原美術館。館長の名取さんからお話を聞く
小海町美術館開館二五周年記念展覧会「浮田要三と『きりん』の世界」で、学芸員の中嶋さんによる解説

小海町高原美術館学芸員・中嶋:7名の発表の仕方がそれぞれ違っていて、そこに感動しましたし、とても勉強になりました。皆さんの未来は明るいなと思いました。こうしてお知り合いになれたので、ぜひ今後もお付き合いをしていただきたいと思います。

黒岩:「(長野県は)自然がきれいで美しい」という話がありましたが、ぼくは今日、人間が美しいなと思いました。すごく刺さりました。

:それぞれの発表が、それぞれにその人らしくて、すごくよかったです。呼んでいただいて、ありがとうございました。

10月24日、黒岩さん・司さんのブルーベリー畑を訪問。ブルーベリーガーデン黒岩/わかち座(小諸市)

石川:今回参加してとってもよかったです。若い方のさまざまな表現をサポートするようなことをやっていきたい、とぼんやり思っていたのが、今日、確実な想いになりました。みなさんのおかげです。ありがとうございました。

右から、ISHIKAWA地域文化企画室代表・石川利江さん、ブルーベリーガーデン黒岩/わかち座の黒岩力也さん・司白身さん、信州ACカウンシル長・津村卓

津村:おつかれさまでした。過去をちゃんと未来につなげていこうという感じが、皆さんの中からすごく伝わってきました。今まさに、その時代にきているんじゃないか、という気持ちになりました。私は長野県出身ではないのですが、年々、長野県のポテンシャルを強く感じるようになっています。自然にも、人間にも。これからも、みなさんの活動が長野県と関係を持ち続け、お互いにつながっていければと願っています。今日は感謝しております。ありがとうございました。

「【短期滞在研修プログラム2022】生きることとアートの呼吸 〜Breathe New Life」は無事終了いたしました。来年度はどんな展開が待っているのでしょうか。どうぞお楽しみに。

(文:水橋絵美)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?