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私立大学生の東京一極集中は、改善しているのか?

今回は大学経営の観点で、もう一つご紹介したいと思います。

総務省が8月5日に発表した住民基本台帳に基づく日本の人口調査によると、前年に比べ50万人以上人口が減少して1億2427万人になったとのことです。都道府県別で増えたのは東京都と神奈川県、沖縄県だけで、3大都市圏の中でも東京圏への一極集中が確認されました。

大学生も大都市圏に一極集中

実は、大学生の人数分布はより顕著な偏りがあります。大都市圏、特に東京都内の大規模・私立大学に多くの学生が集中しています。結果として地方の私立大学への入学者が減り、定員漏れが目立つようになりました。

定員以上に学生を入学させる私立大学が多かったことも、大学生の集中に拍車をかけているとされました。こうした状況を是正するために、文部科学省では入学定員を超過している私立大学に対し、2017年3月期から入学定員の厳格化を行い、経営費補助金をもらえる基準を厳しくしました。補助金は私立大学の経営上、大きな助けになっています。補助金を減らさないために、大規模私立大学では基準以上の定員超過をなくすために合格者を絞るようになりました。この結果、多くの私立大学で合格者が減ったために、入学難易度が上がるようになってきています。

東京から地方中核都市への分散は起きているか?

では、政策の結果として、東京都内の大規模私立大学の学生や定員充足率は減少したのでしょうか。地方中核都市の私立大学の学生が増えて定員充足率は改善しているのでしょうか。

東京都内の学生数一万人以上の私立大学20校と、広島県内の学生数で千人以上の私立大学11校を、過去5年(2014年3月期~2019年3月期)のデータで比較、どのような変化が起きたかを集計してみました。定員の厳格化は2017年3月期以降ですのでグラフの真ん中あたりから変化が起きていれば、政策通りの変化が確認できることになります。

まず、以下の図で定員充足率をみてみます。なお、定員充足率は大規模大学では110%以内に抑えなければならないとされています。

東京の大規模20大学は2015年3月期に111.3%でしたが、2019年3月期では107.5%に減少しています。広島の主要11大学は2017年3月期に88.8%で底を打ち、2019年3月期には93.6%へ回復してきていることがわかります。

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続いて学生数です。

学生数には大きな違いがあるので、2015年3月期の学生数を100として、その増減をみることにします。広島の11大学では、毎年、学生数の伸びがみられ、特に2018年3月期と2019年3月期にかけて、増加していることがわかります。2019年3月期には2015年比で103.6%(計33,785人)となり、この5年で1188人の学生が増加しています。一方で、東京の20大学では、2016年3月期までは上昇していましたが、基準が強化される2017年3月期から減少に転じ、2019年3月期にかけて減少が顕著になりました。2019年3月期は、2015年比で99.2%(472,228人)となり、この5年で3041人の学生が減少しています。

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2つのグラフにまとめると、政策の意図は一定程度満たされているようです。少子化が進んできたものの、これまでは大学への進学率が向上したことで私立大学生の数は減っていませんでした。しかし、今後少子化がさらに進むと、大学進学率の向上だけでは穴埋めできない状態がやってきます。

一時的に、東京など大都市の学生を制限することで、地方の私立大学に時間的猶予ができているのが現状です。ただし、それは時間稼ぎにすぎません。大学自体の魅力を高めて、行く価値のある大学に生まれ変わらなければ、いよいよ厳しい時代がやってくることは間違えありません。

データは東洋経済新報社で収集している大学四季報データを基に作成しています。ご興味があれば、ご覧ください。

参考)東京都の20校:青山学院大学,慶應義塾大学,国学院大学,国士舘大学,駒澤大学,上智大学,専修大学,大東文化大学,中央大学,東京農業大学,東京理科大学,東洋大学,日本大学,法政大学,明治大学,明治学院大学,立教大学,早稲田大学,立正大学,帝京大学
広島県の11校:広島経済大学,広島修道大学,広島工業大学,広島女学院大学,広島文教大学,福山大学,安田女子大学,比治山大学,福山平成大学,広島文化学園大学,広島国際大学


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