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「幸せは感じるもの」馬と暮らす、星の馬WORKSの隅田あおいさんに突撃してきた

こんにちは!
「長浜森の生活史」、早くも第4弾となりました。今回は、西浅井町で2頭の馬と暮らしている、星の馬WORKSの隅田あおい(すみだあおい)さんにインタビューをしました。
2頭の馬を眺めながら、あおいさんが馬と暮らすまでの軌跡を伺いました。馬たちの写真に癒やされながら、お読みください!

<プロフィール>
隅田あおい(あおいさん)

あおいさんとクレちゃん

1990年生。滋賀県高島市出身。長浜市地域おこし協力隊(2020年2月~2023年1月)を経て、現在は星の馬WORKSの代表を務める。


馬と暮らす日々

ヒメとクレちゃん

もも:今回、実はさきちゃんのリクエストで、あおいさんにインタビューをすることになったんです。
さき:もともとアニマルセラピーに興味があって、大学院のときに、馬を飼っているところでインターンをしたことがあるんです。なので、今日は楽しみにしていました。
あおいさんは、しらほしひめ(ヒメ)、クレハ(クレちゃん)の2頭とは何年くらいの付き合いなんですか。
あおいさん:今年(2023年)の12月で、3年になります。2020年2月に長浜市の地域おこし協力隊に着任して、馬小屋を建てたりして、着任からほぼ1年経ったときに馬を迎えました。

しらほしひめ(手前)とクレハ(奥)

さき:この馬たちはどこから来たんですか。
あおいさん:ヒメは埼玉の牧場から、クレちゃんは信楽からです。クレちゃんのような小さい馬だと、ふれあい体験のときにやっぱり子供たちにも受けがよいし、私も安心だなと思って導入したんだけども、まさかの性格がヤンキーだった(笑)。だいぶ丸くなったけれども、今も触られるのはあんまり好きではないです。でも、イベントに連れて行きまくって、お客さんとふれ合わせて、ようやく我慢はできるようになりました。
ヒメのほうは、人は好きだけど結構敏感なところがあるから、あんまり出先にホイホイ連れて行けないです。何かあったときにお客さんを怪我させるといけないから、たいてい連れて行くのはクレちゃんです。
もも:あおいさんの馬との1日は、どんなスケジュールですか。
あおいさん:朝起きて、まず馬にごはんをあげます。ごはんは、朝だけじゃなくて昼、夜もあげます。馬がごはんを食べている間に馬小屋の掃除をして、食べ終わったら馬を外に出します。そのあと、馬の調教や運動をします。それが終わっても、壊れたものを直したり、馬糞を捨てに農家さんのところへ行ったりと、いろいろしています。

馬と向き合うこと

さき:馬を飼っているところでインターンをしていたとき、引き馬(馬に乗らず、馬を引いていくこと)をやらせてもらったんです。でも、馬が全然動かなかったです。
あおいさん:日本語だと、引き馬という言葉の通り、引っ張るイメージが強いけど、英語だと「リーディング」って言うんです。リードする、つまり誘導する。だから、精神的には誘導する気持ちがないとできないんです。
さき:たしかに、「この子と一緒にあそこまで行くんだ」っていう気持ちでやると、馬も動きました。逆に、私が迷ったり、「次、右に行くのか左に行くのかわからない」という顔をしちゃうと、馬は動かなかったです。
あおいさん:馬は、そういう心理をすごく見抜くんです。なんとなく合図を出していたら、馬がリーダーになっちゃって、勝手に自分の行きたい方向に行ってしまいます。短時間でリーディングをする感覚を掴むのは、難しいと思います。私なんて、毎日一緒にいてもわからないです。昨日は私と馬の心が合っていたけど、今日は違うということもあって、それは私が変わったからなのか、それとも馬が変わったからなのか、どっちかわからないです。どちらも生き物で、不安定だから、日々不確かなものと向き合っている感じです。

ヒメとクレちゃんを眺めながらお話

さき:初めましてのときは、馬ってこっちを見てきますよね。その時にひるむと、「馬が上で私が下」の上下関係ができる気がします。
あおいさん:動物は、自分の食べるものにかかわってくるので、常に上下関係を測ってきます。馬は、目上のリーダーのスペースには、リスペクトをしているので入っていきません。目上であるリーダーが下の馬のパーソナルスペースに割って入ることはあるけれども、その逆は絶対にないです。だから、馬が自分のところに寄ってきたらかわいいけれども、それは自分のパーソナルスペースを侵しにきているという意味です。親愛の印だったり、自分に興味を持ってきているのかもしれないけれども、そこにリスペクトはないんです。難しいけれども、親愛とリスペクト、どちらも上げていくのが一番いいです。女の人が相手だったら、馬はわりと親愛の方が強くなって、リスペクトが低い場合が多い。逆に、男の人が相手だったら、馬はリスペクトが強いけど親愛が低くなって、馬が寄ってこない場合が多い。そのバランスが難しいですね。

生きもの好きの子供時代~就職

もも:あおいさんは、子供の頃から馬が好きだったんですか。
あおいさん:生きものが好きで、特に馬とイルカが好きだったんです。海洋生物の研究者になるか、ジョッキー(=競馬の騎手)になるか、みたいなことを幼稚園生のときに思っていました。常に動物のドキュメンタリー番組が流れているような家だったので、おそらくその影響だと思います。そのあと具体的に馬と関わり出したのは、中学3年生で、部活を引退したあとです。部活を引退して燃え尽き症候群になるのではないかと心配した親が、乗馬クラブに通わせてくれたんです。そのまま、高校の時も部活をしながら、乗馬クラブには通い続けていました。
さき:大学では馬のことを勉強していたんですか。
あおいさん:全然関係のない、心理学科へ進学しました。もともと大学に行く気はまったくなくて、すぐ馬の仕事がしたかったんです。けれども、馬の仕事って潰しがきかないし、何の資格にもならないから、大学へ行って空白期間を作って、資格を取ったりしろって周りの人に言われて、行くことにしました。どこの学部にしようか考えていたときに、夏期講習でホースセラピーをしている、大阪にある大学の心理学科があったんです。たった2日~3日の講習だったんですが、それだけの理由でそこの心理学科を選びました。

いざ琵琶湖へ

さき:大学を卒業してからは何をしていたんですか。
あおいさん:高知県にある、養老牧場で2年くらい働いていました。馬の老人ホームみたいな場所です。馬の仕事っていったら、ジョッキーとか、乗馬クラブっていうのが一般的なんだけど、そこでは馬が働いて、お客さんからお金を得ています。そういう場所を見てきて、馬への負担が大きくて、馬が幸せそうじゃない環境が多いと思ったんです。例えば、お客さんが下手くそで、馬が嫌がったり怒ったりして動かない場合、その原因はお客さんにあるけれども、スタッフはその原因を言うことができない。お客さんには「上手いですね」って言わなくちゃいけない。そういうような、馬が辛い顔をしている横で馬の世話をしているのは、私がしんどかったから、「馬が働かなくていい場所で働きたい」という思いを抱いていました。養老牧場では、馬は働かなくていいから元気ではつらつとしているし、私もお客さんに嘘を言わなくていい。だから、とても幸せでした。

馬と暮らすための模索

あおいさん:馬に対する価値観って、細かい所は人によってそれぞれ違うんです。どれだけ馬のことを大事に思っている同士でも、馬って喋らないから、どうしてあげたらいいっていうのは、やっぱり管理している人が決めていかなきゃいけない。働いていた養老牧場だったら、牧場の場長がもちろん方針を決めるんだけど、でも、「私はもっとこうした方がいい」という思いがあって、そこで精神的に負荷がかかったんです。でも、その場所は、場長が時間とお金をかけて作り上げてきた所だったから、自分の思いを貫いて改革するよりは、自分が思うやり方ができるような環境を自分で作るのが一番いいと思って、その牧場を出ました。
そこから、「どうやったら馬と暮らしながら生活をしていけるのか」ということを模索してきました。お金のこともだし、どういう向き合い方をするのか、馬をどういう目で見るのかというのは、自分だけではわからなかったから、個人で馬を飼っている人や小さな牧場など、いろんなところを見に行って、いろんな人の価値観や見方、飼い方を見ました。その中で、「これは私に合っているな」とか「これはちょっと私とは違うな」ということがわかってきて、「これだったらいいんじゃないか」ということを、長い時間をかけて少しずつ積み上げていきました。その間に、馬との生活を諦められたら楽だったのかもしれないけど、諦められなかったから、今ここに馬がいるという感じです。

馬搬の練習中

もも:あおいさんにとって、「馬があまり苦しい思いをせずに、一緒に暮らせる方法」の1つが、今されている馬搬(伐採した木材を馬に曳かせて搬出すること)だったということですか。
あおいさん:そうですね。馬をなるべく働かせずに、でもお金を稼ぐことを考えたときに、「私の中でどこまで妥協できるのか」ということだったんです。例えば、乗馬クラブって、1頭の馬に対していろんな人が関わるでしょう。でも、AさんとBさんとCさんで、身長も違えば、声も違うし、力も違うから、馬に与える合図ってみんなバラバラなんです。馬はそれらの合図を理解して行動しないといけなくて、そういった合図を理解できる子だけが生き残れて、理解できない子は淘汰されていく。
そのことを考えると、できる限り馬1頭に対して少数の人が関わること、合図をなるべく単純なものにすることが、馬に対しての負荷が低いんです。そういった環境作りのためには、まず個人で飼うことと、たくさんの人から複雑なことを要求されないことが必要だと思ったので、私一人が馬を使役することと、他の分野でお金を稼いで生活するのが一番いいんじゃないかと考えたんです。前者の一つが馬搬で、馬搬で出してきた木材でも、何かしら価値を見いだしていくことができるんじゃないかと思って、興味を持ちました。
もも:林業や森が先ではなくて、馬ファーストだったんですね。
あおいさん:結局は自分ファーストなんです。この子たちを個人で飼おうが、あんまり仕事を課してなかろうが、やっぱり自分のわがままで付き合わせているのは一緒なので。そういう経緯で森に関わり出した私ですが、やっぱり森は面白いなと思いますし、森に入る中で森のよさも実感しているので、その「森っていいな」というのをちゃんと言語化して、人に伝えていきたいです。そのために、「馬と森を歩く森林浴リトリート」や「林業体験」といったイベントを開催したりしています。

森林浴リトリート

さき:地域おこし協力隊だった時から、そういうことをされていたんですか。
あおいさん:そうですね。テーマは自伐型林業で、馬と一緒に馬搬することを掲げて活動していましたけど、もちろん馬搬だけで生きていけるわけではないから、馬と一緒にできるサービス業だったり、地域の資源を活用するような活動は、当時から進めていました。

馬と幸せについて

もも:お話を聞いて、羨ましいなと思ったのが、「馬の幸せ=私の幸せ」のような、無条件で好きなものがあることです。私にはそんなに好きになれるものが人生であったかなと思います。
あおいさん:なんだろうね・・・好きなのかな。もう、わからなくなりました(笑)。極論、馬に関わっている自分が好きなんだと思います。どういう言い方をしたらいいかわからないけども、やっぱり、常に幸せでいたいんです。できる限り「楽しいな」って思う瞬間が日々あって欲しくて、馬といることで、自分が楽しくなれる可能性を探っているのかもしれません。「それって本当に馬が好きなの」と言いたくなりますけど、馬が好きで邁進している自分に価値があると思っているのかな。馬以外の原動力が一切起きないので(笑)。

クレちゃん、ふれあい体験に出動

あおいさん:馬が来たことによって、いろんな人と会うことになって、いろんな価値観に触れるのは楽しいです。でも、夢を叶えることでは幸せは得られないんです。叶った瞬間って永遠に続かなくて、どっちかと言うと、夢に向かって1歩進んだりとか、 「あ、ちょっと今日うまくいったな」みたいなステップを踏むことで、一段上がったその瞬間瞬間が幸せなんです。夢を叶えた瞬間は、「次どうしよう」と思って逆に不安になる。自分の進む方向性が決まるから、夢はある方がいいけれども、夢に向かって1歩1歩進む方が、日々楽しかったり幸せなんだと思います。
なので、馬と日々いるだけの生活は、それだけだと意外と楽しくはないんです。やっぱり、人って向上したいという浅ましい考えがあるから、「馬との関係性が昨日よりうまくいきました」ということがないと、日々楽しくないんです。でも、そうそううまくいかないんですよ。毎日毎日成長なんて、できないんですよ。馬といると、むしろダメな自分を映し出してくるから結構しんどかったりする。ギャンブルと一緒です。「あー、全然勝てない!」という時期が長くて、勝った瞬間にすごく嬉しくて、脳内物質がたくさん出るような感じ(笑)。その瞬間のためだけに、一歩下がったり、三歩下がったり、みたいな日々を送っています。
さき:これは夢を叶えた人にしか、言えないかも。
あおいさん幸せは、感じるものだと思います。人は、何かを持っていたり、ある状態になったから幸せになるわけではない。だから「どうやったら幸せを感じられる自分になるのかな」とか、そういうことを日々考えていますね。

これからのこと

もも:あおいさんが、今後やりたいことはありますか。
あおいさん:自分が仕事を継続するための、拠点と仕組みづくりをしたいです。誰かの課題を解決してあげたりすることで得られるのがお金で、そうやって感謝されることが仕事だと思っていますが、私みたいな個人事業主は、そういう環境を自分で作っていかないといけないんです。でも、拠点や仕組みができていないと、常にイベントを打ったりしないとその環境は作れないので、気軽にふらっと来れて、馬と接してほっとできたり、何気ない話をしに来られるような場所を作りたいです。それは人によってはカフェだったり、それぞれ違う場所かもしれませんが、そういった空間が誰にでもあったらいいなと思います。

馬小屋の前にて

今回のお手伝い

今回は、馬のブラッシングをお手伝いしました。ブラッシングをすることで馬の血流が良くなったり、馬がリラックスするそうです。また、人間も体を使うので運動にもなります。しっかりしたブラッシングをすることで、なんと、馬も5分間動いたくらいの効果があるそうです!

ブラッシングの様子

馬に癒やされたのか、私(もも)はブラッシングしながら眠くなってしまいました😅。

取材後記
実は、あおいさんと私(もも)は、私が大学時代からの友人で、私はあおいさんとの縁があったことで長浜市に移住してきました。今回改めて、あおいさんの哲学やまっすぐな生き方に触れて、協力隊の後輩としても背筋が伸びる気持ちでした。
星の馬WORKSのインスタグラムでは、あおいさん&ヒメ&クレちゃんの日常や、イベント情報を発信しているので、ぜひ覗いてみてください!
次回は、長浜市地域おこし協力隊の壷坂宣也さんにお話を伺います。お楽しみに!

<聞き手・ライター>
渡邊咲紀(さき)
1998年生。余呉町生まれ、名古屋育ち。2019年に出身地である余呉町に戻る。現在は、長浜市内の農園で仕事をしている。

土屋百栞(もも)
1997年生。茨城県出身。2022年秋より、長浜市の地域おこし協力隊に着任。森林浴などの活動を通じて、自然との結びつきを感じる機会づくりを模索している。

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